第22話

 しばらくして、スズは舞佳を見つめながら、這うようにサチの元へ移動した。

 サチは優しく肩を持ち、立ち上がらせる。

「お願い…舞佳、そんなのおろして…」

 咽び泣いて、フラフラしていた。

 …今にも足元から崩れそうだ。

 舞佳は息を飲み、ゆっくりと立ち上がった。

 カッターを二人に向け続けながら…


「ねぇ、おろしてよ…舞佳…」

 おろせるはずがない。定の額に物を投げつけ、まいかの首を締めた、この人は人間じゃない、獣だ。

 おろして、おろしてよ、と言い続けるスズ。時間が流れていった。

 サチはその間、何度も舞佳を睨んだ。舞佳も二人を睨み続けた。カッターの刃先は二人にむいたまま、向きを変えることはない。


「ううっ…うう…」

 スズの瞳からは後から後から涙がこぼれ落ちていき、スズとサチの腕を濡らしていく。サチはスズの涙を拭うと、

「今日は諦めましょう。なかなか解けないことが、洗脳の怖いところです」

 酷く残念そうな顔で、そして、憎々しく囁いた。

 サチの瞳からも悔し涙が溢れ、零れ落ちた。

 …そのまま身を退こうとする二人に対して、誰もが、その場を動くことも制することもできなかった。

「私は…!」

 静かな空間を舞佳が切り裂いた。

「え…」

 スズが顔を上げる。


 舞佳は息を吸って、言葉を突き刺した。

「私は…洗脳されてなんかない…!みんな…優しい友達…!友達を…こんな酷い目に遭わせるなら…この家には、もう…二度と、二度と来ないで!」

「誘拐犯で、獣は、あなたたちだっ!!!」




「あ…ああ…」

 スズの手がガクガクと震えている。

「あ、あ、」




「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




 スズは泣き崩れた。




 サチは舞佳を睨みながら、叫び続けるスズを立ち上がらせ、家から出て行った。

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