第21話

「舞佳さん…!」

 縁人が立ち上がった。

 それと同時に、苦しそうな声が聞こえてきたのだ。

「うっ…うっ…ううっ…!!」

 それは…

 まりかの声だった。


「まりかおねえちゃん…!」

 灯真の声と共に、全員が今の状況に気付き、空気が時間が、一瞬…流れを止めた。

「お、おいおいおいおい…!!」

 千太郎が身を乗り出す。

 ザワザワとした空気に、舞佳も顔を上げる。

「動かないで!!!」

 スズが叫んだ。

 長い髪の毛の隙間から、猛獣の怨霊に憑りつかれたような恐ろしい顔が見える。

「動いたら…」

 スズの指先に力が入る。

 その力の伝わる先は……


 まりかの首。


「ううっ…!」

 まりかはスズの腕を掴んで、抵抗している。

 スズの指先に力が入っていき、だんだんと白くなっていく。

「嫌…嫌…」

 舞佳が手を伸ばした。

 暴れるスズを止めようとする…だが、動けない。

 ここは、動こうが動かなかろうが、まりかの命が危なかった。

「…ダメ…」

 かすれ声の舞佳の手に、何かが当たった。

 手元を見た舞佳は、すかさず”それ”を握って飛び出した。


「うう…!っっ…!」


「やめてっっ!!!!!!」


 舞佳はスズの腕に飛び込んだ。

「ぎゃっ!」


 ドンッ!


 スズが倒れ込み、身体を強く打ち付けたような鈍い音がした。

 舞佳は必死にスズに”それ”を向けた。

 その後、サチにも”それ”を向ける。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 脱力して呼吸を整えるまりかが見たのは、きらっと光を反射する何か…

 身体を起こし、舞佳の握る物を見つめた。

「ま、舞佳…」

 その手には、カッターが握られていた。

「やめて…もう、やめて…」

 舞佳の瞳から涙が…滝のように流れ落ちていく。

「舞佳…どうして…?」

 スズの細い声が耳に入った。

 スズの瞳から…一滴の雫がこぼれていく。

 舞佳は…ただ黙って、カッターを向け続けた。

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