第41話 外部コラボ〜ソナタの宮殿 その四

「──それじゃあ、次はこの質問にいってみよー。『このメンバーで、一番自分が凄いと言えるものは?』」


 此方さんの台詞とともに、配信画面が変わる。恒例となったスライドに表示される質問内容。つまるところ、アピールポイント。


「この質問かぁ……」

「あー、ボケるかどうかで結構悩んだんだよなぁ」

「いやいやいや。お二人は全然アレでしょう。俺なんてこの中で一番下なんで、何書けばいいかわかんなかったですよ」

「俺はわりとアッサリ書けました」

「「「「だろうね(でしょうね)」」」」

「打ち合わせしました?」


︰草

︰草

︰残党

︰草

︰そりゃそうよ

︰アイアンが悩むのは仕方ない

︰山主さんは特徴的すぎるから……

︰ベテラン勢と規格外を比較対象にしなきゃいけないのはねぇ

︰草ァ!


 コメ欄含めて味方がいないという現実。というか、司会の此方さんまで同意しないでほしい。せめて中立でお願いします。

 まあ、それはさておき。他の方々がどのような回答を書いたのか、実のところかなり興味がある。実際問題として、俺はいろんな意味で他者より秀でた部分が沢山あるので、どうしても傍観者的な気分が強くなってしまうのだ。……自己PRというよりも、回答がシンプルな事実にしかならないのですよ。

 なので自分よりも他人。特に同じ新人カテゴリーのアイアンさんは注目したい。質問の雰囲気的に、焦点となっているのは俺たち新人勢だろうし。


「はいじゃあ、最初の回答はこちら。『ビジュアルの可愛さ』。これだーれ?」

「誰だろうねー?」

「ダレダロナー」

「誰もなにもなんですけどね……」

「それっぽいこと言うのも憚られるレベルなんですが」


 約一名を除いて、全員が棒読みに近いリアクションを取る。というか、それしか取れない。

 なにせ例外を除く全員がいい歳した成人男性。可愛い路線で売ってるならともかく、ガワとキャラからかけ離れたムーブはキツイものがあるわけ。


「じゃあ、回答者は挙手!」

「はい、私だよー! これだけは胸を張って言えるね! 胸ないけど!」

「まあ知ってた」

「バ美肉ですしね」

「逆に上がいると言われる方が困るやつ」


︰それはそう

︰だって他は全員男だし

︰なんならソナタちゃんより可愛いまである

︰女性ライバーより女性らしいバ美肉だから……

︰つるぺただろうが根角は可愛い

︰ビジュアル限定じゃなくて全てが可愛い

︰心優しいメスガキのおじさんという矛盾塊


 パッと根角さんが声をあげ、残りのメンバーが思い思いの感想を零す。……にしても、やはり満場一致か。コメ欄ですら否定の声が出てないあたり、なんというか凄いよね。

 てか、前々から思ってたんだけど、根角さんが出た時のコメ欄って、雰囲気がマジでアイドル売りしてる女性ライバーのそれなんだよなぁ。

 これはあくまで個人的な印象ではあるけれど、バ美肉ライバーの配信の雰囲気って、ネタ風味の強い『おかまバー』か、ガチで楽しむための『キャバクラ』の二種類に分かれる。

 で、根角さんの場合は完全に後者。バ美肉だと公言してるし、本人もしっかり男であることをネタにしてるんだけど、それでもなお後者の気配が薄まらない。なんていうか、本当にキャストがたまたま男だっただけのキャバクラなんだ。

 もちろん悪い意味でそう表現してるわけじゃないし、そもそも火種になるから口に出すことは絶対にしないけど。これはガチで凄いと思ってる。

 チャンネル主で女性ライバーの此方さんに飛び火してなお、荒らしと思われずむしろ納得されてるんだから。普通、ライバー同士を比べようとしたら、もっと荒れてもおかしくないというのに。


「んー。個人的には、もっと議論してほしかったなー。自分の方が可愛いところあるよー、とかさ。せっかくの座談会なんだから、皆もっとグイグイこよーよ」

「だってさ男子。ほら可愛さアピールしろよ」

「いや無理だわ。可愛いさとかジャンル違いも甚だしいっての」

「おいコラ鳥羽ァ! 先輩が率先して身体張れよ! 安牌で逃げてんじゃねぇぞコラ」

「だから無茶なんだって! てか新人に酷なフリしてやんなよ!? 根角を前にして可愛いポイントを挙げられる新人とか中々いないぞ!?」


︰それはそう

︰可愛さで競うには、チウちゃんはちょっとレジェンドすぎる

︰伊達に大半の女性ライバーより可愛いとか言われてねぇわ

︰そもそも男が張り合う部分じゃねぇ

︰アイアンは不憫可愛いぞ!

︰可愛さアピールしてもツッコミ待ちにしかならんのよ

︰草

︰相変わらず容赦ない


 なんか無茶振りの気配が漂ってきたなぁ。えー、これ自分の思う可愛い部分を挙げなきゃ駄目な流れ? 中々にキツイところがあるんだけど、なんかいい回答とかないかなぁ?


「ほらアイアン君。なんか自分の可愛いところ挙げてよ。チウちゃんに勝てそうなやつ」

「いや無理ですよ!? 男の俺にはキツイですって!」

「えー? 私もおじさんだけど?」

「根角さんはいろいろもう違うじゃないですか!?」

「いいからいいから。ほら、一個ぐらい言ってみよ?」

「アイアン君ガンバレー。私も応援してるよー」

「あ、圧が凄い……。え、その……笑顔、とかですかね?」

「「「……」」」

「なんか言ってくださいよ!?」


︰草

︰草

︰草

︰これは草

︰笑顔かぁ……

︰これは流石にベテラン勢も無言

︰うーんポキャ貧

︰誰か骨ぐらい拾ってやれよw

︰陰キャが陽キャによくやられるやつやん


 なんかちょっと意識を逸らしてる間に、アイアンさんを中心に地獄絵図ができあがってるんですが。これ控えめに言ってイジメの現場では? ……どうコメントするべき?


「……コレが業界の洗礼というやつなんですね」

「まあ間違ってないな。タチの悪い新人イビリだ」

「風評被害!? ちょっと無茶振りしただけなんだけど!?」

「いや無茶振りしてやんなよ。それかせめてカバーしてやれよ」

「……いやー、ちょっとソナタちゃんも予想外の回答だったから」

「まあ笑顔は逆に拾わない方が怪我は少ないですよね」

「やめてくださぁぁい! ちょっとテンパっただけなんですってばぁ!?」


︰草

︰草

︰ワロタ

︰草

︰ガチ絶叫で草

︰これは共感性羞恥

︰草

︰相変わらずアイアンは不憫やのぉ……


 生暖かい空気が配信画面に流れる。嘲笑とかではなく、慈しむ感じのアレだ。

 焦ったあまり素っ頓狂なことを言って、場の空気を固まらせる。大半の人間が通ったことがある道だからこそ、ネタにするのではなく見守る方向で全員の意思が一致したのだろう。……まあ、本人にとっては地獄以外のなにものでもないのだろうが。


「ほら早く次いってくださいよ! 次は山主さんの番ですよ!?」

「んん? 次って言うと、普通は先に進めるんじゃないの?」

「逃がすわけないでしょう!? 自分だけ無傷で済ませようとしてもそうはいきませんからね!? 死なば諸共ってやつですよ!!」

「アイアン君が羞恥のあまり壊れちゃった」

「お前らが壊したの間違いだろうが」

「アレは壊れたというより、ただのヤケっぱちだと私は思うなー」


 元凶二人と止められなかった人がなんか言ってる。流れるように敵対したり仲間になったりするあたり、本当にいい性格してるよなと思う。


「ほら早く! 自分の可愛いポイントをアピールしてください! そして一緒に爆死してください!」

「呪詛が凄い」


 人間は壊れるとこうも見境がなくなってしまうのか。少し前までの一歩引いた雰囲気を出していたアイアンさんは何処へ……。


「まあ、仕方ないか。そこまで言うなら付き合いましょう。……ちょっと待っててください」

「おお! 覚悟を決めてくれましたか!」

「あ、意外と潔い」

「アイアン君ウッキウキやん」

「やっぱり山主君ちょっとズレてるよね」

「俺の可愛いポイントは──」


 はいここで少し溜めて……ドン。


「にー」

「我が配信の癒し成分を一手に担うコネッコ君です」


 あ、コラ。マイクに猫パンチしようとするんじゃありません。


「「「あら可愛い」」」

「ちょっとそれズルくないですか!?」


︰草

︰草

︰草

︰草

︰草



ーーー

あとがき

前回の感想に対する軽いお返し

Q 12桁ってドル?

A 円。本文に出てた霊薬より安いのは、単純に効果が件の霊薬より下なのと、時代の違い。件の霊薬は世界的にも初だった。それ以降はごく稀に出てくるから、希少性の観点から値段が下落した。


Q 12桁は石油王クラスではなくね?

A 一般人の感性なんてそんなもん。石油王=スーパー金持ち程度の認識でしかないので。


Q 12桁って少ない気がする

A シンプルに換金してないだけ。一回デカく換金して以降は、国からの依頼でもなければ基本的にアイテムは死蔵するスタイル。


あとなんかあれば、気まぐれで答えるかも?

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