第23話 重要なお知らせ その二

──淡々と。しかし明確な侮蔑を込めて、愚か者たちへの宣戦布告を行っていく。


「人がスルーしていたからと調子に乗ったな? 自分たちが見逃されてるとでも思ったか? 馬鹿野郎。面倒だから表に出さなかっただけだよ。気に入らないと駄々捏ねるだけの頭三歳児の相手をしてやるほど、俺は優しくないんだよ」


:お、おう……

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:山主さんブチ切れですやん……

:え、待って怖っ。普段とのギャップで凍死しそうなんだけど

:うーん、これは残当

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:アンチ君も荒ぶってるなぁ


 リスナーたちに動揺が広がっているのが分かる。まあそれも当然。配信内ではまず使わない口調、態度から察せられるだろうが、今の俺は正真正銘の戦闘モードだ。

 武器となるのは言葉。普段の戦闘とは趣の異なる土俵だが……それだけだ。怖気付く必要はない。これで炎上しようが気にしない。法律的にも、道義的にも、優位なのはこちらの方だ。なにより運営からの許可も取っている。

 だからやる。ここから先はVTuber山主ボタンではなく、探索者のとして振る舞うことにする。


「この際だから教えるけどさ、デビューしてから今日に至るまで、ライン越えのコメントは全部魚拓を取ってるんだわ。運営にも報告済みで、とっくにこっちは動いているんだよ。──お前らさ、デンジラスをなんだと思ってるんだ?」


 まさか忘れたなんて言わないよな? うちの事務所はな、お前らみたいなのにずっと辛酸をなめさせられてきたんだよ。ギリギリまで追い詰められた過去があるんだよ。

 動かないわけがないだろう。なんだったら俺よりもずっと精力的だわ。根絶やしにする勢いで協力してくれてるわ。


「この件については、運営サイドと協力して徹底的に追及させてもらう。分かりやすい脅迫をしてくれた馬鹿はもちろん、運営と協議して悪質だと判断された奴らも徹底的に追い詰める。弁護士の方も手配済みだ」


:徹底抗戦の構えじゃん

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:これはアンチ君たちも年貢の納め時だな

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:これに関しては応援したい。毅然とした対応は他のライバーのためにもなる

:デンジラスはなぁ。そりゃ全力で駆逐しにくるよな

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 ……救いようがないな。これだけ警告してなお、モデレーターさんに弾かれるようなコメントを投下するなんて。

 ただまあ、どんな心理からの行動かは気になるところではある。自分は大丈夫だと思い込んで危機感を抱いていないのか、俺の口ぶりが気に食わないとのぼせ上がっているのか、それともヤバいと理解はしても引くことができないのか。……ああ、この宣戦布告をブラフと思ってる可能性もあるな。

 まあ、なんであろうが関係ない。やるべきことはシンプルだ。徹底的に追い詰めて、人生に消せない汚点をつけるだけ。


「お手紙がきたら腹を括れよ? 赤字になろうが知ったことか。生憎と金の心配とは無縁の身でね。和解なんてせずにきっちり落とし前をつけさせる。お前たちは見せしめだ。ネット上でのやんちゃの対価は、今後のお前たちの人生だ」


:これはゲームオーバーですね

:刑事告訴からの前科コースかなぁ

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:ごめんなさい。許してください

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:普段怒らなそうな奴ほど、怒った時にはおっかないってそれ一番言われてるから

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:金と時間がある相手に喧嘩売ればそりゃこうなる

:ライバーだって人間だし。サンドバッグじゃねえもんな。殴り返されても文句は言えんよ


 うむ。アンチはさておき、普通の感性をしているであろうリスナーたちの反応は上々。少なくとも否定的な意見は出ていない。リスナーとしても、それだけ思うところがあったということだろう。

 あと、俺の本気を理解したのか、ちょくちょく謝罪コメントが現れるようになった。削除されるコメントも若干少なくなったような気もする。

 といっても、その辺の謝罪は全部無視だ。誹謗中傷するような輩は許すと付け上がるというか、痛い目みないと絶対に分からないから。

 あと単純に、謝罪をしている奴らが、開示請求を掛けているアカウントかどうか俺には分からないし。謝罪をするということは、少なくとも自覚が生まれる程度には騒ぎ立てていたのだろうけど。

 でも正直、俺には分からん。その手のコメントを見かけたら魚拓を取ってはいたとはいえ、完全に作業感覚だったからなぁ。顔馴染みレベルの奴らならともかく、その他のアンチなんて大して判別つかないんだよね。まとめて焼き払っちゃえば問題ないし。

 やはり金の心配がないというのは強いと、改めて実感する。こういう状況だと最強の武器になるよね。普通なら費用とか考えて人数を絞るところを、まとめて根絶やしにできるんだから。


「個人的には、これでVTuber業界のアンチそのものが減ってくれればいいんだけどね。ほら、畑とかでたまにカラスとか吊るしてるでしょ? 今回の件で、俺のアンチ君たちが烏になってくれることを願いたいよ」


:畑のカラスwww

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:ごめんなさい! もう二度とアンチなんかしません!

:畑のカラスって〇んでるんですがそれは

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:だからアンチ君を社会的な意味で〇体にするんだろ

:なんか焦ってる奴がおるなぁ

:自業自得。ほっとけ


 うん、マジで容赦しないよ。学生、主婦、サラリーマンとか、アンチ君がどんな立場にいる人間なのか、どんな背景があるのかも関係ない。

 他人を攻撃するということは、反撃されても仕方ないということ。その反撃が法に則っているのならば、彼らに文句を言う資格はない。

 そして結末は司法が決める。個人的には経歴に十字架を刻んでやりたいところだが、万が一それが叶わなかった時はそれはそれ。……まあ、弁護士さん曰く『勝ちゲー』とのことだけど。


「ということで、以降は公式からの情報をお待ちください。一応、進展があれば俺の方でも配信とかで伝えることがある、かも? この辺は運営さんからの許可次第だけどね」


:了解

:続報期待

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:無理しない程度に頑張って。無駄な心配な気もするけど

:是非とも運営さんには許可してほしいような……

:なんで謝ってるのに無視するんですか!? なんか言ってくださいよ!

:応援してる


「そ う い う と こ だ ぞ」


 以上で言及終了。……いや、反射的に返事しちゃったけど、アンチ君ちょっと本当にさぁ。頭が痛いとはこのことだよ。そりゃこんな奴らに粘着されれば、大抵の人間は心折れるわ。例の先輩が剃刀を握ってしまったの理解できるよ。したくなかったけど。


「……はぁ。ま、そういうわけだから、誹謗中傷とかの話はこれでお終い。次の内容、というか本題ね」


 一旦戦闘モードを解除。山主ボタンとしてのガワを被って、少し脱力。

 いやマジで、なんかもうドッと疲れたけど。でもこれ、まだ前座というか、前フリみたいな内容なんだよなぁ。本題に入ると絶対に今以上に荒れるから、その前に釘を刺すのが目的だったんだけど。


「今の話で、皆も節度を持って本題を受け止めてくれると信じた上で──ライブラ所属の色羽仁ウタさんについて、俺の対応を語らせていただきます」


:待ってそっちの話もするの!? 誹謗中傷だけじゃなく!?

:ウタちゃんを助けてくれるんですか!?

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:おいおい大丈夫かそれ。いや確かに気になるけど……

:配信で話しちゃって大丈夫なのか? 山主のことだから、しっかり許可とか取ってはいるんだろうけどさ

:てっきりその件については触れないものかと……


 予想通り、コメント欄に動揺が広がった。全ての発端とはいえ、流石に言及するとは思っていなかったのだろう。どんなに騒がれていたとしても、俺とウタちゃんの間にはなんの関わりもないのだから。

 だがしかし、言及しなければこの騒動は終わらない。表で触れず、自然鎮火を待つにはこの件は燃え広がりすぎた。


「はじめに、これから語るのはデンジラスはもちろん、ライブラさんの方にも許可を取っている内容です。その点をまずご理解ください」


 これは個人的なお気持ち表明ではない。しっかりと先方に確認した上で行う、正式な解答のようなもの……ん?


「──あ、ゴメンちょっとタンマ。うちの子猫君がなんか鳴いてる。多分ミルクだ。申し訳ないんだけど、一旦休憩ということで。シリアスモード解除ね」


:待って!?

:ここでお預けですか!?

:草ァ!

:いやふざけんなよ!? ウタちゃんについて早く話せよ!!

:子猫は……うん仕方ないね

:これは正しき猫飼いムーブ

:山主君さぁ。また猫で燃える気なの?


 んなこと言っても仕方ないでしょうが。動物が人間の事情を汲んでくれるわけないんだから。

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