最終話.サイレント、頑張ります。(完)


「あ、あのぉ・・・・・・私を呼び出して、一体何の用でしょうか・・・・・・」

 昼休み、校舎裏、佇むのは一人のピンク頭の少女と艶のある黒髪の美しい少女。

 ピンク色の髪をもつ少女は非常に不安そうに形の良い眉を潜めて、目の前に仁王立ちをする黒髪の少女の次にとる行動に集中した。

「あなた――

 黒髪の少女――ドリータのキツい言い方に、ピンク髪の少女――リドリータは思わず身を竦める。

 次にどんな罵倒を浴びせられるのか、それに怯えるように。

「どうやったらそんなに素直に、そっ、その・・・サイに気持ちを伝えられるのよ」

 『おっ、教えなさいよ!!』

 目尻をつり上げて、何を言われるのかと思いきや、聞いてきたのは推しへの本音の伝え方という、リドリータにとって朝飯前のことであった。

 リドリータは、にたりと笑った。

 いつも愛しのサイレントを独り占めにする憎き令嬢。今こそ反撃のチャンス。

「おっしえってあっげなーーい!」

 思いきり、大人げなくそう答える。ああ、気持ちいい。

「っ、なっ!」

 こんなに即答で、しかも意に反する答えを出され、取り乱すドリータを、さも楽しそうに眺めるリドリータ。

 そこに、ドリータの王子が現れる。

「ドォリィ、こんなところで何をしているの?って、ドォリィ、泣いてる!!?一体どうしたんだ!?何があった!!?」

 綺麗な顔を苦痛に歪ませたサイが、ゆっくりと顔をリドリータの方へ向ける。

「君が、ドォリィを泣かせたの?」

 万物を凍らせるほどの、冷たい声色。リドリータは寒気に身を震わせた。

「い、いいえ・・・・・・違いますぅ・・・・・・」

「じゃあどうしてドォリィは泣いているの?ここ、ドォリィと君しかいないよ?」

「し、信じてくださ・・・・・・」

「信じられる訳ないでしょ?君が、ドォリィを泣かせたんだね?」

「ぅ、うう・・・・・・」

 じんわりとリドリータの目に滲む涙。

「おい、そこで何をしているんだ」

 そこへ、また新たな人物が現れた。

「リド!!一体どうしたんだそんな顔をして!」

 リドリータに駆け寄り、彼女の涙の滲む目を見たクリスタは、その顔を怒りに染めた。

「ドリータに、サイ・・・・・・。まさか、君たちがリドを泣かせたのか・・・・・・?」

 疑うようにサイを見つめるクリスタに、サイはクリスタが見たことのないような顔をする。

 いつも平坦な眉は下がり、唇は食まれ、その瞳には、水の粒。

 そう、サイは泣いたのだ。

「殿下は、私をお疑いになるのですか・・・・・・」

「ウ゛ッッ!!!そうだよな、サイがそんなことをするはずがない!リド、目にゴミが入ったんだね?大丈夫かい?」

 リドリータに向き合ったクリスタに、サイは唇の端を上げる。

 嘘泣き、だったのである。

 彼は、この世界で色々間違いを犯したことを先日知り、戦慄した。そしてそれから思ったのだ。


 『どうにか『腐』枠から抜け出して、ドォリィと二人で世界の果てに逃亡したい』と。

 そのためには、使えるものは使う。

 第一、第二、第三王子が自分のことを好きならば、それを利用してやる。そしていつか、“ヤンデレ”を回避しながらも上手く立ち回り、ドォリィと国外逃亡を図るのだ。


 サイレントは、強かに生きていくスキルを、獲得した。


――最終話.サイレント、頑張ります。(完)

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ヒロインの最推しキャラになったが、どっちかっていうと悪役令嬢の方が好き 狼蝶 @momogi

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