第139話 ビリー少年

「ギルドマスター、リンちゃんが来ましたよ。お仕事、今大丈夫ですか?」


コンコンと扉を叩きながら開けると書類整理をしているギルドマスターが居た。真面目に仕事をしていたのか、机の上にある書類の数は比較的少ないようだ。


「ああ、大丈夫だぞ~」

「じゃあついでに休憩に入って下さい。お茶を入れますから」


マリッサさんはそう言って私にソファへと座るように指示を出すとお茶を入れに行った。私が素直にソファへと腰を下ろすとギルドマスターも反対側のソファへと座り込んだ。


「ギルドに来るの久し振りじゃないか?」

「そうですか?1階には普通に行ってますよ?依頼受けてますから」

「.....なるほど?」


単純に2階のギルドマスターの執務室に行く事がないから会うのが久し振りなだけだと思う。だって基本的にギルドマスターは自分の執務室に居るし、私は用がなければギルドマスターの執務室に行く事もないしね。


「そう言えばさっきビリー少年に階段の所で会ったんですけど睨まれたんですよね。ギルドマスター、理由知ってます?」


私がそう話し出すとギルドマスターは顔をあから様にしかめて溜め息をついた。


「あ~....彼奴が勝手にリンをライバル視してるんだよ。悪い.....」

「いえ、ギルドマスターって変な人に好かれ易いんですね?」

「.....全然嬉しくないからな?それ....」

「それでビリー少年は冒険者ギルドの2階に住んでるんですよね?私の後ですよね」

「ああ。部屋はお前が住んでた部屋じゃないけどな。最近少し前に冒険者登録をしたんだ」

「両親が亡くなって最近このミルトンに来て冒険者登録をしたみたいで、低ランクの依頼では生活も苦しいでしょ?だからリンちゃんの時みたいにギルドの寮を紹介したのよね」

「マリッサさん」


マリッサさんがお茶を3人分各々の前に置きながら私の隣に座った。


「性格は悪くなくて割りと素直だからギルドマスターも時間のある時に冒険者のノウハウをアドバイスしてたんだけどね、そしたらビリー君に好かれちゃってね」

「.....俺は他の冒険者にもアドバイスした事と同じ事しか言ってないぞ」


ムスッとギルドマスターが不本意そうな表情を見せる。


「多分両親を亡くしてから初めて親身になって相手をしてくれたって言う意識がビリー君の中を占めてるんじゃないかと思うのよね。だから自分以上にギルドマスターに可愛がられてるリンちゃんの話を他の冒険者から聞いて嫉妬してるんだと思うわ」

「親身になってくれたのがギルドマスターが初めてって.....この街にはどうやって来たんですか?」

「ご両親の親戚が生活の面倒を見るのは難しいけど、この街までの旅費なら何とか出せるって言われてこの街に来たそうよ?確かに仕事を探すならこの街の方が探しやすいわね」


うーん.....


「私から見たら旅費を出してくれた親戚の人も優しいと思うんですけど.....本人がどう思うかだから難しいのかなぁ?」

「そうねぇ....ご両親や親戚の方も貧しい農村出身の方みたいだから旅費を工面するのも厳しかったとは思うから.....でも多分家族の一員にして貰えなかった事がネックになってるんだと思うわ....こればっかりはね....」


難しい問題だよねぇ.....まぁその点私なんて気楽と言えば気楽なんだけどね。だってこの世界には元々家族なんて居ない訳だしね。


「....だからって勝手にライバル視して睨まれても困るんですよね....最悪しつこく絡んで来たら倒しちゃっても構いませんか?こっちに非はないんだし....」

「そうだなぁ。一番良いのは絡まれない事なんだがなぁ」


ギルドマスターが染み染みと言うが、そもそも誰のせいだってーの!


「それは相手側に言って下さいよ」



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