くっつく

 志波姫神華、敗れたり。

 ククク、どうだ、この最強すぎるスキルの使い方は。

 『やわらかくなる』で足元を人をダメにするソファにし、体が沈んだら『かたくなる』でガチガチに固めてしまうのだ。

 少しだけ自分のことを天才なんじゃないかと思っちゃう巧みさじゃないか。


 俺はしゃがんだままの姿勢で、足元で下半身が埋まったままの志波姫を見やる。何をするわけでもなく、志波姫は大人しく埋まっている。

 彼女にしては不気味で、俺は不安になってきてしまった。


「志波姫、もしかしてどっか痛かったりしないか」

「いきなり攻撃を仕掛けておいて心配になってるのね」

「俺、このスキル使い慣れてなくてさ、もしかしたら下半身がすっげえ圧迫されてて声出せないとかだと思って……」

「心配じゃなくて、すごく心配だったのね」


 志波姫は嘆息し、自分の埋まっている地面をペタペタと触る。


「あなたもようやくスキルに覚醒できたのね」

「まあな。色々あって」

「『やわらかくなる』と『かたくなる』。雑魚そうな2つのスキルを効果的に使うのも悪くないわ」


 今、雑魚って言った? うちのスキルたち雑魚って言った?


「でも、どうしても愚かなことがある」

「なんだよ」

「わたしに攻撃を仕掛けたこと。悪いことは言わないわ。すぐにスキルを解除しなさい、赤谷君」

「……これってお前が解放された瞬間に腹パンされて怒られる流れか」

「怒られるようなこと十分していると思うけれど」

「出来心だったんだ。ちょっとやり返してやろうと思って」

「痛いことはしないわ。約束する」


 絶対嘘じゃん。こいつの目が敵を斬り捨てる眼差しになってるもん。

 俺は渋々『やわらかくなる』を使って、その効果が現れはじめた瞬間にその場から逃げ出した。志波姫は追いかけて斬り捨ててはこなかった。今日は寛大な日なのかな。珍しいこともあるものだ。


 学校へしっかり登校し、1日授業を頑張った。

 頭を使ったあとは放課後の『外周』である。


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【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

    『外周』


英雄高校の敷地を外周する 10/10


【報酬】

 2スキルポイント獲得!


【継続日数】13日目

【コツコツランク】シルバー

【ポイント倍率】2.0倍

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 筋肉痛を克服したおかげですこぶる調子良く駆け抜け、寮に戻り、シャワーを浴びてスッキリし、食堂で夕食をとり、お待ちかねのスキルポイント割り振りの時間がやってきた。


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【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 100 / 100

 魔力 80 / 100

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 100

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『基礎魔力』

 『基礎技量』

 『発展筋力』×3

 『かたくなる』

 『やわらかくなる』


【Equipment】

 『スキルツリー』


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:1

 スキルポイント:2

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:4

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:4

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『くっつく』  

  取得可能回数:1

 『飛ばす』   

  取得可能回数:1

 『引きよせる』 

  取得可能回数:1

 『とどめる』  NEW!

  取得可能回数:1

 『曲げる』   NEW!

  取得可能回数:1

 

【Completed Skill】

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 『かたくなる』 

  取得可能回数:0

 『やわらかくなる』 

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 来ましたね。また新しい取得可能スキルが増えとりますわ。

 今回のNEW! は『とどめる』『曲げる』のお二方です。

 ゲストたちがどんな能力か見ていこう。


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『とどめる』

アクティブスキル

手元の物体をとどめる

【コスト】MP10


腐敗と滞留に住んだ蛙

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『曲げる』

アクティブスキル

触れた物体を曲げる

【コスト】MP 10


まっすぐ進むことがそんなに偉いか

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 うーん、どちらもパッとは使い道が思いつかない。

 これも『かたくなる』『やわらかくなる』のように使い方次第では効果的に働くだろうか。実際に触って効果を試してみないことにはなんとも言えない。


 俺のなか議論を行う。

 結果『基礎技量』と『くっつく』を取得することにした。

 実は今でも完全には自分の筋力をコントロールできてないので、技量は正直いくらでも欲しい気持ちになっている。30,000の筋力を御するのにどれだけの技量が必要なのかも知りたいし。


というわけでステータスはこんな感じになった。


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【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 100 / 100

 魔力 80 / 100

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 200

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『基礎魔力』

 『基礎技量』×2

 『発展筋力』×3

 『かたくなる』

 『やわらかくなる』

 『くっつく』


【Equipment】

 『スキルツリー』

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 技量のおかげでまた力をコントロールしやすくなった感覚がある。

 あともう少し技量を足してもいい気がする。


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『くっつく』

アクティブスキル

触れた物にくっつくを付与する

【コスト】MP10


母親から引き離される赤子

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 新しく解放したスキル『くっつく』を試してみよう。

 効果説明には『触れた物にくっつくを付与する』とある。

 くっつくってなんだよ。


「常識的に考えれば……」


 俺はタッチペンにスキルを使い、壁にペタッとくっつけてみる。

 俺の想像した通りにタッチペンはくっついた。磁石とかが壁に埋め込まれていない限り、今、タッチペンが壁にくっついているのは俺のスキルによる作用と見ていい。


 まだMPに余裕がある。

 どれくらい大きい物をくっつけられるか試してみよう。

 授業用タブレットを壁にくっつけてみる。クリア。完全にくっついている。

 いつ落ちてもいいように手を下にかざしていると、10秒ほどで効果が切れた。

 

 次は椅子を試してみよう。

 クリア。前衛芸術のように壁に椅子がくっついている。


「これ接地面を小さくしてもいけるのか?」


 椅子は4本足のごく簡素なもので、今しがたその4本足を壁に接地してくっつけた。今度は、足一本だけが壁に接地することを意識してスキルを発動する。


「おお、不思議な光景だ」


 椅子は足一本だけでも壁にくっついた。

 もしかしたらくっつく力は俺が思っているより強いのかもしれない。

 

「俺自身にくっつくを付与できるか」


 右手で左手を触りスキルを発動、壁に手を当てると強力にくっついた。

 くっつく力がどれくらい強いのか、俺の筋力と勝負させようとも思ったが、無理剥がそうとしたら壁紙がベリベリ行きそうだったので試さなかった。

 

 『基礎魔力』を取得しているおかげで、まだMPがあまっている。

 今朝の実験で『かたくなる』と『やわらかくなる』を組み合わせように、スキルは合わせて使うと思わぬ結果を生み出せるとわかっている。


 どうにか『くっつく』も上手く戦闘にいかす方法を見つけたい。

 擬似ダンジョンへ足を運ぼうかと思ったが、この時間帯は志波姫に遭遇する危険性があったので、やめておいた。今朝はなんでか見逃されたけど、普通なら腕の一本くらい持っていかれてもおかしくない。


「『やわらかくなる』と『くっつく』を発動してネバネバ地獄」


 足元がやわらかくなり沈んだところ、間髪入れず地面がくっつく。

 もがけばもがくほどくっつき、顔が地面に触れようものなら、そのまま顔に引っ付き……、


「死ぬ、死ぬ、窒息する……っ」


 俺は顔面にくっついた柔らかいフローリングにもがき苦しむ。

 危ない、自分のスキルで死ぬところだった。


「相手の身動きを封じる手段としてはありか……?」


 俺は地面にくっつくを付与してみる。

 足でくっつくエリアを踏むと足止め効果が期待できそうだった。

 『やわらかくなる』と『かたくなる』のコンボ━━通称:『志波姫破り』と似ているが、1手少ない分、MP消費量はこちらの方が少ない。

 さらに言えば『志波姫破り』は相手の体重が軽いと効果が薄い。実際に志波姫はかなり軽量級なので、沈むまで割と時間がかかった。その間、あいつはぼさっと待ってくれていたからスキルのコンボが上手く決まったが、その気になれば抜け出すことは容易だったはずだ。


 その点、くっつくは即効性がある。

 え? 足止めした後? そんなものパワーでぶん殴るだけだ。

 完璧な戦略ではないか。早く試してえ……ポメラニアン粉砕してえ……。


「そう言えば、これ水にも『くっつく』できるのか?」


 洗面容器に水をはり、俺はくっつくを付与してみた。

 顔を近づけてみる。おお。吸着している感覚があるぞ。

 そうか、くっつくを付与するってのは、単一の個体じゃなくてもいいのか。

 学びを得たな。俺は水面容器から顔をあげる。

 あれ? おかしいな顔から水が離れない。

 息が、息ができない。


「ばばば? あばばばばっ!?」


 そ、そうか、液体だから俺の鼻と口を完全に水の膜が覆っているのか!

 

 俺は再び窒息しかけた。

 本日の2回死にかけた事で俺は学んだ。

 『くっつく』は液体へ使うと死人が出る。

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