28
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ジャージにマスクをした鷹一は、自らの住まうログハウスの前で、天馬と向かい合っていた。
様々な武器の扱い方と、経験を積むために、天馬に模擬試合を頼んでいたのだ。
紅音はそれを離れた場所で見ており、首にかけているホイッスルを吹き鳴らす。
瞬間、天馬と鷹一は互いに
鷹一は、天馬に向かって走り。
天馬は、鷹一から離れるべくバックステップ。
それは、互いの利害が一致しないことを示していた。
天馬が選んだ
どう考えても、
“
捕まえられる内に捕まえるに越したことはない。
「こっち来んな、よッ!!」
下がりながら、天馬は銃口を鷹一に向け、引き金を絞る。
鷹一は、正面にマフラーを硬質化させた盾を張り、そのまま放たれた弾丸を防御。
そして、拳に巻いていたもう片側を、蹴り足にまとわせることにより、一気に距離を詰めつつ、盾をどける。
だが、その瞬間、天馬は、バックステップからサイドステップへと切り替える。
鷹一の盾に弾かれた弾丸は、正面へと弾かれ、そして、先程まで天馬の背後にあった木の幹に当たり、再び鷹一へと反射した。
「なにッ!?」
反射的に、鷹一は右拳で弾丸を迎撃。
すると、その弾丸は、まるでスーパーボールを殴ったかのように、抵抗なくそのまま跳ね返った。
そして再び、木の幹へと向かっていき、跳ね返り、鷹一の額に返ってくる。
「あがっ!?」
おそらく、鷹一が殴った分加速し、少しだけ威力を増しているのか、鷹一は仰け反ってしまう。
それを確認した天馬は、銃をひっくり返って持ち、鷹一に向かって一気に踏み込む。
そして、台尻で鷹一の横っ面を殴った。
「――ん、のヤロッ!!」
鷹一は殴り返そうとするも、その拳は空を切る。
天馬はすでに、鷹一の射程範囲から脱出し、再び銃を撃っていた。
殴って跳ね返したところで、また返ってくるかもしれない。
そう思った鷹一は、躱すことを選択し、
しかし、今度は背後の木から跳ね返ってきて、鷹一の腰に叩きつけられた。
ミシッ、と骨が軋むような音が体内に響き、鷹一は痛みに負け腰を抑えようと手を回そうとする。
「もうワンチャンッ!」
再び、天馬は鷹一へ接近。
だが、彼が
腰を抑えようとしたのは、誘い。
天馬が踏み込んできた瞬間、鷹一も踏み込んだ。
すでに右拳は“
その右拳で、銃を狙い、アッパー気味のフックを放つ。
「おおっと、甘い甘い!」
天馬はその瞬間、ほんの少しだけジャンプし、両足を地面から離す。
拳が銃とぶつかった瞬間、体の力を抜くことにより、鷹一の拳にその身を任せ、衝撃を逃したのである。
「マジかッ!」
まるでカーテンを殴った時のように、ほんの少し天馬の体が押し戻される。
躱し方こそ、想定外ではあったが、躱されることは、想定内。
鷹一の拳に巻かれていた“
そして、硬質化し、一気に引き寄せる。
鷹一は、拳を握り、引き寄せた天馬へ向けて、拳を振るった。
「……ここまでか?」
天馬の顔面、その紙一枚のところで、鷹一の拳が止まった。
「あっ、ああ……。さすがは、鷹一」
「いや、天馬もなかなかやるな。あの
「鬱陶しいってひっでえなあ」
ケラケラと笑う天馬の肩に、鷹一は拳を添えるように突き出した。
その時、遠くから駆け寄ってきた紅音が、二人の間に立つ。
「飛騨さんの戦法、基本に忠実な銃型で、勉強になるでしょう?」
「ああ。……正直、ちっとナメてたな」
天馬の戦い方は、銃と杖術のミックス。銃型の
だからこそ、先程の天馬がしていたように、牽制気味に銃弾を放ち、接近して一撃を食らわせるというのが、銃使いの戦い方の基本なのだ。
そして、次に鷹一と戦う予定のソフィア・カッティーニも、銃使いであるという情報を、紅音が仕入れていたからこそ。こうして対策のために、天馬とのスパーをしていたのだ。
「でも、鷹一さん、珍しいですね? ソフィア・カッティーニの対策を立てたいだなんて」
「ああ。妃乃宮先輩の時は、対策なんて立てないで、真正面からぶっ倒すって気だったが。思い上がりもいいとこだったからな。しっかり対策して、次は負けねえ」
「なるほど。とってもいいことですね。情報のアドバンテージと、日頃の練習が、鉄火場での踏ん張りを分けますから」
「ソフィア先輩とやらが、銃使いってこと以外の情報はないの?」
天馬は、持っていたマスケット銃をしまいながら、口を挟む。
「んー、そうですねえ、他には……」
「身のこなしの軽さは天下一品、
三人の頭上から、そんな声が降り注ぐ。
何だ何だと、三人は頭上を探すと、鷹一がその発信源を見つけた。
三人の近くで伸びる、木の枝。
そこに、
「……えっ」
声がした段階で、鷹一は別に何かを想像していたわけではない。
が、そのあまりにも意外すぎる姿に、思わず「想像と違う」としか思えなかった。
「な、なんだ? あの
天馬がそう言うと、紅音が「あっ、ソフィア・カッティーニ……!?」と驚きで声が漏れたように言った。
「え、アレが!?」
「アレ、とは失礼な。――とうッ!」
紅音にソフィアと呼ばれた
それを、ハイヒールでやってのける、抜群の運動神経に、鷹一は思わず絶句してしまう。
「チャオ! 鷹一! ソフィア・カッティーニ。どっかんと! よろしく!」
鷹一は差し出された手を握り「どーも、ソフィア先輩」と軽く会釈をした。
「で。ソフィア先輩が、なんでこんなとこに?」
「ん~……ウルハが気にかけていた、朝比奈鷹一が、どんなのか見に来た!」
「ウルハだぁ?」
「えっ」紅音は、その名前に聞き覚えがあるらしく、唖然とした表情になる。
「う、麗羽ちゃん、って……」
自分の知っている麗羽なのか、確かめようとしたのか、ソフィアに声をかけようとした時。
遠くの葉がカサカサと揺れて音が鳴る。
「ソフィア~! なんで先に行くのよぉ。私、体力無いんだってぇ!」
そして、茂みをかき分けて出てきたのは、明るい茶髪の、ツーサイドアップ。ブレザーを腰に巻いた、ギャル風な少女だった。
身長は、一六〇後半ほどはありそうで、女性としては長身の部類に入る。
「おっと! ごめんなさい、
ソフィアはそう言って跳躍し、一足飛びでその少女の隣に立った。
距離にして、一〇メートルほどはあったというのに、だ。
いくら
「ほ、ほんとに、あの麗羽ちゃんだ……」
紅音のつぶやきに、鷹一はソフィアから視線を切らずに「誰だ」と聞き返した。
「
「えぇッ!?」
驚きの声をあげたのは、天馬だった。
御三家を知る人間なら、それが当たり前の反応である。
現代日本を作った、財閥の末裔、その二人が目の前にいるのだから。
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