第二章 勘違いされた大賢者は隠しきれない
第034話 誰でもできるなら一発でできても問題なし
そして土曜日になった。
「よく来たわね」
「そりゃあ、あんだけ言われたら来るわ」
陰陽師協会の前で美玲が腕組みをして俺を待っていた。あれから毎日のように付きまとわれ、俺の平穏はどこかに行ってしまった。
そのせいでクラスメイト達には質問攻めに遭うわ、変な奴に絡まれるわ、散々な一週間だった。
「ふーん、まぁいいわ。教えるからさっさとついてきなさい」
「へいへい」
俺は美玲に連れられて演習場へとやってきた。朝早くに呼び出されたため、他に誰もいない。
「いい、分かってると思うけど、符術ってのは符を霊力で自在に操れることが一番大事なの」
「ああ」
それは予習というか通学中の講義によって散々聞かされた内容だから知っている。これは陰陽師なら誰でもできる基礎中の基礎だ。
「先に見本を見せるわね」
「おう」
「はっ」
美玲は得意げに短冊形の符を取り出して指で挟むと空に放り投げた。
「おお~!!」
符は淡い赤い光を放ちながらまるで鳥のように空中を舞う。なかなか面白い。
「ふんっ」
俺の反応が嬉しかったらしく、何枚も懐から符を取り出してばら撒いた。その符は下に落ちるかと思ったが、そのすべてを美玲は自在に操り、飛ばし始める。
美少女が光を放つ無数の符を操る姿はまるでサーカスの曲芸のような華やかさがあった。
「どうかしら?」
ふふんと自慢げに胸を張る美玲。ブルンと陰陽師服の上からでも分かるその形のいい双丘が揺れる。
「ああ、とっても綺麗だったぞ?」
「へあ!?」
俺は率直な意見を言って頷いた。
ひとまず俺には霊力がないので、さっきの動きを魔術で再現するには物を浮かせる魔術"レビテーション"と発光させる魔術"ライト"。そして、霊力を誤認させるために"フェイク"の魔法を使用する必要がありそうだ。
少し再現するために考えた後で、美玲を見たらなんだか赤くなって体をプルプルとさせている。
「ん?どうしたんだ?」
「な、なんでもないわよ!! これがあんたの符よ!! さっさとやりなさい!!」
「えぇ~……」
気になって質問したら、滅茶苦茶不機嫌に符の入ったホルダーを渡された。なんで不機嫌になっているのか分からず、俺は困惑するしかできなかった。
それはそれとしてやらないわけにもいかない。
「ふぅ……はぁ!!」
俺は”浮遊”、"光"、"偽装"の魔法を使用してさも霊力を使って符を飛ばした。
――ビューーーーーーーーンッ
おっ。問題なく飛ばせたな。
久しぶりに使ったので上手くできるか分からなかったが、問題なさそうだ。
「え?」
後ろで変な声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
俺はさらに符をホルダーから全部取り出して美玲を同じように操ってみせた。最初は難しかったが、慣れたら一つ一つ自在に操れるようになったので、飛行ショーのように隊列を組んで、一つの演目のようなものをやってみせた。
ふふん、陰陽師なら誰でもできるみたいだからな。魔術の基礎の基礎である魔力の放出が出来ない奴なんていなかった。美玲も問題なくできているんだから、このくらいできて当然だろう。
「どうだった?」
自在に動かせるようになった後で美玲の許に戻り、彼女に評価を貰う。
「べ、別に!! 普通よ普通!!」
「そっか。基礎中の基礎だもんな、このくらいできて当然だよな」
「そ、そうよ!! こんなことは誰でもできるんだから!! 一回で出来たからって調子に乗らないことね!! 私も出来たし!!」
彼女は不機嫌そうに調子に乗るなと俺を諫める。
確かに一発で出来ても基礎中の基礎ともなればなんの自慢にもなりはしない。
ただ、なんだか焦っている美玲の反応が気になる。もしかしてこれってすぐにできるようなことじゃない? いや、そんなまさかな……。
「分かった。それじゃあ次を教えてくれるか?」
変な想像が頭をよぎったが、気のせいだと首を振った後で彼女に向き合った。
「勿論よ!!次は少し難易度が上がるわよ!!」
「おう!!」
俺は次の術が難しいと聞いて再現するのが俄然楽しみになった。
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