第026話 領域外の観測者(第三者視点)
一方その頃。
「ん?」
とある屋敷で品の良いソファに腰かけ、優雅にお茶を楽しんでいた青年が、ふと何かに気付いたような仕草をする。彼は高校生から大学生ほどの年齢でショートヘアーの銀髪を持ち、優し気な容姿をしていた。
「どうされましたか?」
その様子に目ざとく気づいたのはメイド服に身を包んだ高校生程のロングヘアーの黒髪の美少女。ただし、彼女の背中には黒い鳥のような羽が生えていた。それは人間ではない証である。
「どうやら土蜘蛛が死んでしまったようだね」
「あら、せっかく主様がお力添えしましたのに」
説明によって彼女は心底残念そうな顔をする。それだけ彼女はその青年に心酔していた。
「ただのお遊びだしね。たまたま見つけたから目が出たら儲けものってくらいに考えてたから別にいいんだ」
メイドが残念そうにする様子に青年は慰めるように微笑む。彼にとってもまた少女は特別な存在であった。
「さようですか。それで相手は分かっているのですか?」
「それが何かの術で妨害されていたらしくてね、詳しくは分からなかったんだよね」
少年は正体不明の相手に苦笑い浮かべる。
「まさか主様の術を防げる存在がいるというのですか?」
「そうかもしれないね」
「それはすぐに調査すべきでは?」
メイド少女にとって青年の術が破られるなどということは見たことがなかった。そは彼女にとって由々しき事態だった。
「勿論調べさせるけど。恐らく何もわからないんじゃないかな」
しかし、メイドとは打って変わって声色を弾ませて質問に答える青年。その表情はどことなく緩んでいた。
「それほどの相手ですか……ってなんだか主様嬉しそうですね」
「いや、別にそんなことないよ」
「何を言ってるんですか。これでも主様にずっとお仕えしているのです。それくらいすぐに分かりますよ?」
主は否定するが、メイドにはお見通しだった。
「そうかい?くっくっく。確かにそうかもしれないね。僕は嬉しいのかもしれない」
青年も自分が喜んでいると指摘されて初めてその事実に気付く。
「どうしてですか?」
「僕を超える存在がいることにさ」
「主様を超える存在などいるはずありません」
「そ、そうかい。それじゃあ、僕に届きうる存在って所かな。今まで自分の思い通りになってきたから張り合いがなかったんだ」
少女にとって青年は最高最強の至高の存在。それは本人であっても否定することは許容できない。キッパリと否定する有無を言わせないメイドの笑みに青年は狼狽えた。
これまで彼の思い通りになってきた。しかし、そうはならない存在がいることを知った。傲慢であればそれだけで激昂していただろうが、青年は逆にやる気を出している。
「そういうことでしたか」
「うん、やっぱり少しくらい苦戦しないとつまらないからね」
「確かにそうですが、本当に大丈夫でしょうか?」
青年の態度にメイドは浮かない顔をする。
納得はしたが、やはり破られたことのない主の術を防ぐ相手というのは、メイドにとって心配でしかなかった。
「さぁ?どうだろうね」
「もう!!そうやって心配させないでください!!」
おどける青年にメイドは頬を膨らませて怒る。
青年としてはやってみないと本当に分からない相手だった。だからこそ面白い。そう思っていた。
「はははっ。ごめんごめん。大丈夫さ。これでも強いからね」
「それならいいんですけどね……」
主は最強の存在。それは分かっている。
それでもメイド少女は少し不安だった。
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