第49話 『悪役』と先制攻撃

 ヒサメがこっちを向いて妖艶な笑みを浮かべている。ハルトがヒサメのパンツが見れないかと頑張って地面に転がったままジリジリヒサメに近付いている。


 そしてこちら側はユノとシアン姫が俺の方を見て冷たい殺気を放っている。さて……カオスだ。


「確実にタイタンさんをロックオンしてますよねあれ?ねぇ、タイタンさん?」

「まさか、女の子ひっかけていたとは」

「無いと思ってた選択肢が……ここでっ……ひーっダメ、ボク笑いすぎてお腹痛い……!」


 ゲラゲラ笑ってるフルル先生は後でお子様ランチの刑に処してやる。具体的にはお子様ランチをユノとシアン姫の目の前であーんで食わせる刑だ、恥ずかしさで殺してやる。


 ヒサメが一歩こっちに足を進める、するとハルトがジリジリとヒサメの足下に近付く。

 うわキモ、どうせみんなには『一度負けても諦めずに戦おうとする格好いいハルト主人公』みたいに見えてるんだろうが目がもう変態だ。


「なんですかあの変態……気持ち悪いですね」

「パンツ見ようと必死……あれが昨日言ってたやつ?」

「ひー、はぁ……そうだね、ちょっと寛容かんようなボクでも引くレベルかな」


 あ、3人にはちゃんと『変態』として映っているようだ。まあ、ヒサメって原作だとふんどしとさらしが下着だからな……ハルト転生者もそれを知ってるから生で見たいと頑張ってるんだろう。


 煩悩まみれじゃねぇか、あの野蛮人。


「トードー様がグループ1のリーダーを倒してしまわれたので、トードー様がグループ1に入ることになった。いいかみんな!?」


 先生が俺の所に行こうとするヒサメをさえぎりながらそう宣言した。パチパチパチと生徒達から拍手が送られる中、ヒサメは首を捻って心底疑問そうに先生に尋ねる。


「まだあそこのグループが残っておるではないか」

「トードー様、彼らは『特別グループ』……実力帯を測るのには不要な集団ですよ!」

「ふむ、この者らとは一線をかくしているというわけか?」

「いえ、そういうわけでは……っ」


 先生が冷や汗を流しながら良い言い訳がないか探してる。俺たちが言うこと聞かないからって隔離したツケがこんなところで回ってきてるのを見るに、やっぱり悪いことはしちゃいけないんだなぁと『悪役』ながらに思った。


 先生が黙ったのでヒサメはすたすたとこちらに向かって歩いてきた、ハルトは諦めたのかスクッと立って生徒の集団に戻っていく。


 『格好良かったよー!』とか『惜しかったな!』と温かい言葉をかけられているハルトはすぐに調子に乗って『次やったら勝てる!』だなんて宣言して生徒達を湧かせていた。


「昨日ぶりじゃの、修羅」

「俺にはタイタンという名前がある。修羅じゃない」

「倭の国では異性を下の名前で呼ぶのは親しき仲でしか許されぬのでな」


 拙者に名前呼びを強制させるとは……お主、拙者に惚れたか?とイタズラっぽく目を細めて言うヒサメ。大人びた雰囲気と妖艶な雰囲気を醸し出している彼女は確かに一目惚れするには十分な素材を持っていると言える。


 だがな……


「ひょんなひゃへないはほ」

「両側から頬をつねられて何を言ってるのか分からんぞ……?」


 ユノとシアン姫から頬を引っ張られながら俺は否定する。やめて?別にデレデレもしてないし惚れてもないから。


「頬が緩んでますよー?そんな頬取っちゃいましょうねー?」

「隙だらけ……ッ!」

「ひーっ!止めて、お腹……お腹痛い……っ!あっはっはっはっは!」


 フルル先生はよだれかけ追加のオプションをするとして。なんでそんなに怒ってるんだよ……あれか?教える立場としてもっとシャキッとしないと面目が立たないってやつか?


 両頬がヒリヒリするなか、俺はヒサメと対峙する。ロングソードを抜いて、……


「ほう、見たことの無い構えじゃな」

「俺は付与師後衛だからな、それに今は授業中だから魔法も使わん。それでも良いか?」

「全力で試合いたかったが……学生である以上、規則は守らぬといかんか」


 自然と俺がヒサメと戦うことになったが二人は何も言わずに黙ってくれている。ユノもシアン姫も俺が一番強いと思ってくれているのか……


 ヒサメが姿勢を低くして、刀携えた方の腰を引く。来るか、《抜刀》!


「安心せよ、峰打ちで勘弁してやる」

「はっ、すぐにその慢心へし折ってやる」


 ヒサメの指が動く、次の瞬間!


――チンッ……


 さやの鯉口と刀のつばが当たって音が鳴る。一切の動作がユノやシアン姫は見えていなかったんだろう、俺たちが動いてないのを疑問に思って首をかしげているが……今の一瞬で攻防が終わっていた。


 手が……痺れている。受け流すとか考えてる暇なんて無い、殺気が飛んできた場所にロングソードを差し込むだけで精一杯だった……ッ!


「ほう、受けきったか修羅よ!」

「っだぁ、手が痺れた!なんて重い攻撃しやがる……!」

「え?え?」

「なにも……見えなかった」


 ユノとシアン姫が俺たちの言葉を聞いてやっと俺たちが動かなかった理由を理解する、動いていないんじゃなくて動いた後だったってことを。


 俺はロングソードの位置を少しずらしただけだし、ヒサメに至っては動いてすらない……それだけ《抜刀》というのは人の認識を抜き去って、凄まじい速度で先制攻撃を可能にする剣技だった。


伊達だてに死線はくぐり抜けてないなぁ修羅!」

「慢心は消えたかよ、おさむらいさん!?」

「無論ッ、最初はじめから全力である!」


 ヒサメは今度こそ刀を抜いて俺と対峙する。さて、ここからが本番だ……ッ!

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