第13話 『悪役』とクラス分け

 カグラザカ学園。貴族や平民に分け隔て無く門戸を開き、充実した学校生活を生徒に送らせることでさらなる成長を促す冒険者育成学校。


 ここでは全寮制になっており、昼は授業を受けて放課後は部活に励み、夜は寮で生徒と友情やら愛情やらなんやら育むサイクルを3年間送ることになる。


 そしてタイタン君の死亡フラグ乱立地帯……周りが楽しい学生生活を夢見ながら校門をくぐる中、俺はこれから起こるであろう死亡フラグイベントの数々に思いを馳せていた。


 いやマジで怖えぇ……ここから先は3年間、死の連続だ。楽しい学生生活?俺からすればこのカグラザカ学園は地雷原にしか見えんが!?


 桜舞い散る校門といういかにも青春な場所だというのに、俺は戦場に行く兵士のような気持ちを抱いていた。


 校門をくぐると、新入生は校庭に行くようにとアナウンスが流れているのが聞こえた。どうやら校庭で『クラス分け』をするらしい……


 入学早々行われるイベント、『クラス分け』。前にも言ったとおり、この『クラス分け』で実力を5段階に分けられ、強い人はA組に。弱い人は順にB~E組に割り当てられる。


 そして、この『クラス分け』には今後の授業形態に影響を及ぼす。A組は1年の最初から好きな授業を好きに受けられるのだが、逆にE組にまでなると3年間ガッチリ授業のカリキュラムを詰められて自由が無くなる。


「これより、『クラス分け』を開始する!」


 朝礼台に立った男性教員が俺たち新入生を校庭に集めてそう宣言する。イベントの開始だ――――




「『クラス分け』は、自身の今の実力を測るものである!実力事にA~Eに分けられて、3年間の成長を学園がどうサポートするかを決める大事なイベントだ。くれぐれも手は抜かないように!」


 そう言って色々と注意事項を述べていく男性教員。まあ、降参と言ったら終わりだからくれぐれも追撃とかすんなよ?ってぐらいの注意事項だったが。


「最後に。別に負けたからと言って低いクラスに分類されることは無い、だから『死んでも降参なんかしてやるか!』とかにはなるなよ?こんなところで意地張って死ぬとか馬鹿だからな」


 そう締めくくって男性教員が二人の生徒の名前を読み上げる。さぁ、俺の相手は誰だ?まぁ、知ってるけど。


 なんてったって……


「次!タイタン・オニキスとシアン・クライハート!」

「「はい」」


 シアン・クライハート、この国の王女で……『学園カグラザカ』のヒロインの一人だからだ。


「キャー!シアン姫よー!」

「まじ!?本物!?嘘じゃ無いよな!」

「あぁ、なんとお美しい……まさかシアン様と同じ時期に入学できるとは……ッ!」


 彼女が俺と相対する。流石はこの国の王女、凄まじい人気っぷりだ。それもそうか、王女というステータスを抜きにしても文句なしの美少女。


 腰まで長い銀髪は日の光を跳ね返してきらめいており、腰に差したレイピアや制服の上から着ている胸当ても銀で統一されてまさに芸術。


 蒼い双眸そうぼうは俺をしっかりと捉えており、口には笑みを浮かべている。


「よろしくお願いいたします。タイタン様、でしたっけ」

「タイタンで結構ですよ。これから3年間同じ学び舎で過ごす身……それに王女様に『様』付けされるのは流石に肝が冷えます、シアン姫」

「あら、ではお願いしますね。タイタンさん」


 軽い挨拶を交わして彼女は剣を抜く。美しい白銀のレイピアだ……ゲーム中での名前は『シアンのレイピア』、シアン姫の装備時に限り攻撃力を+32する激ヤバ武器ですあれ。


 ロングソードの8倍だぜ?あの武器。彼女はそのまま刺突の構えに入る。一方の俺は剣すら抜かず棒立ちだ。


「?剣は抜かないのですか?」

「えぇ、これでいいです」

「っ、舐められたものですね」


 俺の言葉に眉をひそめるシアン姫。ごめん、別に舐めてるわけじゃ無くて『殺さないように戦うのに剣が邪魔』なだけなんだ……


 あぁ、そう言えばシアン姫のネット上でのあだ名知ってる?それはね。


「オニキス家……剣聖の家系と聞き及びます。やはりあなたも剣の腕に自信があるようで」

「いや、そういうわけでは……」

「しかし私も研鑽を怠ったつもりはありません!その剣、抜かせてみせます!やぁッ!」

「うおおぉ!?」


 《暴走機関車娘》だよおおおおおお!!!俺はレイピアを身体を捻って避ける!くっ、頬を浅く斬られた!


 いきなり始まった戦闘、シアン姫は怒濤の刺突による連続攻撃を俺に向かって繰り出してくる!


シアン姫 の 攻撃!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


シアン姫 の 追撃!▼


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


「なっ!私の『刺突一閃』が躱された!?」

「っぶねぇ、初見で躱せて良かったー!」


 『刺突一閃』のスキルモーションがゲームと同じで助かった!どこかで使ってくると思ってたんだよ、そのスキル!


 シアン姫がパーティーに加わるのは最序盤、レベル1での話。しかし、シアン姫は最初からこの『刺突一閃』と呼ばれるスキルを持っており、ゲーム序盤から火力役として重宝されていた。


 しかし、ユーザー間でのシアン姫の評価は10点中4点と低め。その理由は……


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


「むうううぅ!当たってください!」

「いや当たったら死にますからそれ!」


 こんな風に、『刺突一閃』を連打してMP消費が馬鹿でかいからなのだ。ボス戦やこの『クラス分け』イベントの様に単発での戦闘なら火力として強いのだが、ダンジョン探索のような継戦能力が必要な場合に置いてあまりにもシアン姫は……《暴走機関車娘》だった。


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


 さて、どうしようか?このまま避けてシアン姫のMP切れを待つのも良いが、あくまでもこの『クラス分け』は実力を測るという名目がある。


 このままボーッとしててもAクラスはありえない……さて、動くか。


シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


タイタン の 反撃!▼


タイタン の パラライズ!▼


シアン姫の右足 は 麻痺 になった!▼


「うひゃっ!?」


 シアン姫が『刺突一閃』の追撃をしようと大きく右足を踏み出そうとしたその足をパラライズで麻痺らせてやった。


 右足を動かそうとしていきなり動かなくなったシアン姫は驚く。『刺突一閃』を発動したために身体が前傾姿勢になっている状態で軸足を麻痺させれば当然……


「おっと、足がもつれましたかシアン姫?」


 俺はつんのめって倒れそうになるシアン姫を抱き留める。流石に美少女を地面に顔からダイブさせるのは申し訳な……


――――ムニュ


ムニュ?


「な……なななななななな」

「な?」

「なああああああああああああああああああああ!」


 シアン姫がいきなり顔を真っ赤にして暴れ始める!おいおいおいおい、まだ右足麻痺してる状態なんだからいきなり暴れたら危ないって!


 俺は暴れているシアン姫を落とさないように抱き留めていた手に力を込める。


――――ムニュリ


「んなああああああああああああああああああ!!」

「うおっ、耳元で叫ぶな!」

「な、ななななななな何をするんですか!?どさくさに紛れて人の胸揉むなどとっ!」

「はぁ?……あ」


 俺の左手がシアン姫の胸当ての下に滑り込んでた。まじか、そんなラッキースケベある?


 慌てて周りを見るとみんながドン引きしてました。あれ?俺の学園生活終わった?


「あのタイタンって人、公衆の面前で……」

「汚らわしい……」

「シアン様の胸を……も、揉んだだと?そんな羨まゲフンゲフン、不敬なことを!」


 淫獣とかケダモノとか聞こえてくる。いやでもここで左手抜いたらシアン姫そのまま地面とキスよ!?そっちの方が不敬じゃない!?


「早く手を離しなさい!エッチ、変態、おたんこなすうううううう!」

「あぁ!今離したら地面に激突しますから!」

「うるさい!『刺突一閃』んんんんんんんんんん!」

「うぉあっぶね!」


 シアン姫がキッと睨んで持ってたレイピアで『刺突一閃』してくる。ギリギリで首を捻って顔めがけて飛んできたレイピアを避けた!

 

シアン姫 の 『刺突一閃』!▼


ミス! タイタン には 当たらなかった!▼


「当たりなさい!!」

「無茶言わないでくださいよ!?」

「じゃあ離しなさいよこの変態!」


 うるさいしもう地面に落として良いか?流石に可哀想なのでそっと地面に寝かせてから手を離す。


 すぐさまシアン姫は立ち上がろうとして……右足に力が入らずバランスを崩してこっちに倒れてきた。


「おっと、だから言ったじゃないですか」

――ムニュウ……

「なあああああああああああああああああああ!!」


 あ、またやっちまった。わざとじゃ無いんだぞ!?ホントだからな!?

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