第12話 黄昏る執事と『悪役』
おかしい、お坊ちゃまが帰ってこない。日が沈んでいくのを屋敷の窓から見つつ、私……セバスはそう思いました。
まさか、お坊ちゃまの心配を私がしようとは。3ヶ月前の私が見たらたいそう驚くでしょうね。
お坊ちゃまがあの日、自身の無力さと子ども特有の「親に甘えたかった」という気持ちを聞いて。私の中での坊ちゃまの評価が変わっていきました。
お坊ちゃまは……タイタン様はただ「子どもだった」だけでした。親の愛を受けられなかったからこそ成長できず、それでも必死に親に認められようとしてきた努力も全てが無駄になって
15歳になった貴族は成人として見られ、大人の貴族としての振る舞いを要求されます。しかし、未来も過去も全て失ったお坊ちゃまにそれを要求することは余りにも酷だったのではないでしょうか?
オニキス家追放を言い渡されたあの日、
少なくとも私はお坊ちゃまが陰で努力していたことも、『迷いの森』に行っていたことも知りませんでしたよ。
確かにお坊ちゃまに嫌がらせを受けていて、使用人の中に好意的なものは一人も居なかったのは事実です。しかし……
「『嫌い』という感情は、ここまで人を表面的に見て満足してしまうんですね」
ポツリと呟いた私の言葉は自身の胸にチクリと刺さりました。長年見てきたつもりだった、理解しているつもりだった……お坊ちゃまはそういう人なのだと、自分の中で決めつけていました。
「ここにいたのかセバス。もう夕飯の時間だぞ」
「ご主人様……」
ブラド様が部屋に入ってくる。どうやら私は長い間ここでボーっとしていた様ですね……
「あの、まだタイタン様がお戻りになられていない様ですが……?」
「ん?誰だタイタンとは?」
「っ……申し訳、ありません」
それ以上その名を出すな、と言外にブラド様から通達される。出来の悪い息子など居なかった……と、ご主人様はそうおっしゃったのです。
これが貴族、これがオニキス家。道具は道具である事以外に生きることを許されない、これがお坊ちゃまがずっと抱えてきた重責ですか……!
あくまで平民である私に拒否権は無い。私はご主人様に深く頭を下げ、窓の側を離れようとしたとき……
「ぜぇ……ぜぇ……」
「お坊ちゃま……ッ!?」
屋敷の前で息も絶え絶えのお坊ちゃまが見えました。ここからでも分かるぐらい足の進みが遅く、その歩みは
「お坊ちゃま!お坊ちゃま!?」
「あぁ……セバスか。大丈夫だ、少し休めば……ぐっ!」
お坊ちゃまが脇腹を抑えて小さくうめく。私がそこを見ると、服に赤いシミが広がっていました。
森で気絶したらモンスターに囲まれてたって……なんて無茶をしたんですか!?『迷いの森』で気絶したとか死にたいんですか!?あぁ、そういえば死んでも良いだなんて言ってましたね!?
「馬鹿なんですかあなたはっ!死んでも良いと死にに行くは違うんですよ!」
「セバス……別に俺は、死にたくて迷いの森に、いった訳では無いぞ……?」
ほら、これが証拠だと弱々しく懐から出したのは……オークの牙。まさか、一人でオークを!?
あぁ、あぁ!ご主人様、どうやらお坊ちゃまのことを見限ったのは早計だったようです。だってお坊ちゃまは、タイタン様は……1人で『迷いの森』の主を倒してしまったのですから!
「こんなにもボロボロになって……まずは治療しなければ。肩をお貸ししますので掴まってください」
「い、いや……これぐらいなんとでもなる。だから先に屋敷に帰っていてくれ」
伸ばした手を振り払われる。それは明確な拒絶、死に瀕したとしても私達に助けを求める事はしたくないと……
お坊ちゃまはそんなにも、私達を信用してないんですね。手を振り払われたときに感じたのは怒りでは無く、無力感。
「三日後にはもう学園に行くのですよ?貴族として、そんなボロボロな状態だとオニキス家としての箔が……」
違う、そうじゃない。私が言いたいのはそうでは無く……
「あなたも貴族の端くれとして身なりは整えないといけません。そんなみすぼらしい格好で王家の者に会いに行くのですか?」
あぁ、あぁ……違う、違うのです。私はただ、お坊ちゃまが心配で……!
心にも思っていない言葉が突いて出る。『身体を休めてください』の一言が出てこない!
手を振り払われたことに怒りなんて覚えてないのです。私は、セバスはただお坊ちゃまの持っている重責を少しでも持って上げたいのです、なのにっ!
「大丈夫だセバス。ちゃんと伝わっているから」
「えっ……」
私が自分を心の内で責めていると、お坊ちゃまがそう言って微笑んだ。
「昔のセバスなら、そもそも俺が死にかけていてもこんな所に来ないだろう。行動で心配していることぐらい、分かっているぞ」
「お坊ちゃま……ッ」
「本当に、手を貸して貰うほどのたいしたケガじゃ無いのだ。『迷いの森』から全速力で逃げ帰っていたからスタミナを使い果たしてヘトヘトになっていただけ……」
だから、心配するな。そうお坊ちゃまは私に言いました。
あぁ。本当にお坊ちゃまは変わられたのですね……子どもの成長というものは早いものです。
お坊ちゃまは既にあのころのワガママな子どもでは無く、思慮深い青年へと成長していました……この3ヶ月の間で。
「お坊ちゃま……いえ、タイタン様」
もうお坊ちゃまと呼ぶのは失礼かと思い、私は言い換える。これが今の精一杯であることをお許しください。
もう少し、もう少しだけ時間を下さいませ。15年間の呪縛が解き放たれた時、今度は心から、あなたの成長を祝福いたします。
「夕飯の時間でございます。今夜は、シェフが腕によりをかけて作ったそうですよ?」
学園に行ってしまってその成長を近くで見られないことが残念でなりませんが。
――――――――――
【後書き】
ここまで読んでいただきありがとうございました!これにてプロローグ終了でございます。
次話からはやっと!やっと!学園カグラザカに入学し、物語が本格始動していきます!
ここまで長かった……(12話)。ここまで書いていて「あれ?ヒロインが出てこないから7割タグ詐欺じゃないか?」とか思ってましたけど、もうそんな事はありません!やったー!
続きが気になる!や、「どんなヒロインが出てどんなラッキースケベが起きるんだろうぐへへ」という変t……紳士な方は★やフォローをして待機していただけると幸いです!
明日まで待てねぇよ……と思ってる人はこちらも連載しているので読んでいただけ無いでしょうか?
現実でダンジョンを攻略するのはハードモードすぎないか? - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817330650948017988
あ、あとちなみに私は変t……紳士です!
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