金髪不良、チンピラと対峙する
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「おい、そこのお前ら! そこで何をしてる!」
次郎は智絵が入って行った路地裏に入り込んだ瞬間、大声で叫んだ。
その声聞いた智絵はビクッと身体を震わせた後に振り向き、次郎の姿を捉えると驚いた様に目を大きく見開いた。
「山、田……?」
智絵は掠れる様な小さな声で呟く。その瞳にはどうしてこんな場所にいるのかという、困惑の色が浮かんでいた。
そして次郎の声に反応したのは智絵だけではなかった。智絵を囲っていたチンピラ共も次郎の方へ目を向ける。
「あぁ? 誰だよ、てめえ」
「何だ、このガキはよ」
次郎の乱入に、智絵を囲っているチンピラ共は一斉に彼を睨む。そのどれもが威圧的で殺気立っている。
「おい、峰岸の娘。このガキはお前の知り合いか」
その中の一人、リーダー格の男が智絵に話し掛ける。その口調は何処か高圧的であった。
「いや、その、そんな……彼は、その、そんなんじゃ……ありません」
「じゃあ、何だって言うんだよ。お前、あいつの名前を知ってたよな?」
「そ、それは……」
智絵は言葉に詰まる。彼女の額には冷や汗が流れていた。
智絵としては次郎を巻き込みたくない。そんな一心で、何とか誤魔化そうとしていた。
しかし、目の前にいる男は智絵が言葉を濁す様子に苛立ちを覚える。
「黙ってないで答えろよ」
その男が語気を強めて言ったその瞬間、智絵は小さく悲鳴を上げた。
「おい、止めろ」
その様子を見かねた次郎が、男に声を掛ける。しかし、その男の態度に変化は無い。
「うるせぇよ、ガキ。引っ込んでな」
「……」
男は次郎に対して敵意を剥き出しにしており、次郎をただの邪魔者としてしか認識していない様であった。
その視線を受けて、次郎は何も言わずに男をジッと見つめ返す。その顔に怯えの色は無い。
それを見た男は苛立ちを募らせていき、舌打ちをした。
「ちっ……嘗めたガキが。いいか、痛い目に合いたくなかったらさっさと消えな。俺達はこの女に大事な用があって来てんだ。分かったら失せろ、クソガキが!」
その男は苛立ちを隠さずに、次郎を怒鳴りつける。
しかし次郎はその程度では怯まない。鋭い眼光を男に向けると一歩前に出て口を開く。
「悪いが、そいつは聞けない相談だな」
「何?」
「いい歳したおっさん共が寄ってたかって一人の女の子に絡んでるのを見て、ほっとける訳ねえだろうがよ。それとも何か、アンタらはそういう趣味なのかよ?」
次郎は相手を挑発する為にわざとらしく鼻を鳴らす。その仕草に男の怒りは更に増していく。
「こっちは忙しい身なんだ。ガキの相手なんかしてられっかよ」
「ああ、そうかい。なら、力尽くで追い返してみな」
次郎はニヤリと笑う。すると男もそれにつられて笑みを浮かべた。
「笑わせてくれるぜ、ガキが。そんなへっぴり腰で勇んだところで、どうしようも出来ねぇよ」
「ぐっ……!」
次郎はリーダー格の男からそう指摘されると、痛いところをつかれた様な渋い表情を浮かべた。
確かに次郎は現状、前屈みの姿勢でいる為、へっぴり腰と捉えられても仕方が無い。
しかし、威勢を見せつける為に直立しようにも、主に下半身の一部分のせいでそれは叶わない。寧ろ、その部分が直立している始末である。
「まぁ、でも。今直ぐに土下座するんだったら許してやるよ。そうした方が身の為だぞ、なあお前らよぉ」
「そうだ、そうだ。調子に乗ってるからこういう事になるんだぜ」
「おい、ガキ。怪我する前にさっさと土下座しな。これ以上、恥を晒したくなければな」
リーダー格の男の言葉に周りのチンピラ達も同調する様に笑い声を上げる。
しかし、その光景を目の当たりにしながらも次郎は毅然とした態度で立っていた。
「断る。誰がてめぇらに頭を下げるかよ」
次郎ははっきりと言い放つ。その発言にリーダー格の男は眉間に皺を寄せ、怒りを露わにした。
「けっ、このガキ、良い度胸してるぜ。せっかくの忠告を無視しやがってよ。……おい、やれ」
「へい」
リーダー格の男が指示を出すと、チンピラの一人が次郎に向かって殴り掛かる。
その動きは中々に速い。次郎が以前に喧嘩をした八田野高校の不良に比べても断然に速かった。
しかし、次郎は余裕の面持ちでその右拳を左手で受け止め、掴んだ。
「な、何ぃ!?」
予想外の出来事にその男は驚愕の声を上げた。
そして次郎は掴んだ相手の右拳を、決して離しはしないとばかりに、渾身の力で握り締める。
「いでででででででででででで!!」
あまりの痛みに、その男は悲鳴を上げながら次郎の手を振り払おうと必死に抵抗を試みるが、びくりともしない。
やがて、その男の骨がミシミシと軋む音が聞こえてきた。
「……悪いな。今日の俺は気が立っていて、力が抑えられないんだよ。だから、せいぜい頑張って耐えるんだな」
次郎はそう言うと、自らの右手を力強く握って拳を作り、そのまま振り上げた。
「歯ぁ食い縛っとけよ、糞野郎」
次郎は握ったその手を勢いよく振り下ろす。その一撃は見事に相手の顔面に直撃。
その衝撃によってその男は吹っ飛んで地面に倒れ伏す。その瞬間、周りにいた男達の間に動揺が走った。
「な、何だコイツ……」
「あのガキ、こんな強かったのかよ!?」
次郎の圧倒的な強さに、その取り巻き達は恐れ戦き始めた。
しかし、周りとは違ってリーダー格の男は次郎の強さを目の当たりにしても、まだ余裕がある様子を見せる。
「ほう、言うだけあって少しはやるじゃねえか」
そう言って倒れた男の傍まで近寄ると、その顔を覗き込む。
男は鼻血を出していて、口からは泡を吐いていた。どうやら、今の一撃で気絶してしまったらしい。
「馬鹿がよ。ガキ相手に一発ダウンとか情けねぇな」
リーダー格の男は呆れた口調で言うと、その男の顔を軽く蹴り飛ばした。
「ま、松永さん……それはちょっと……」
他の男達が慌てて止めに入るが、リーダー格の男―――松永は聞く耳を持たない。
「あ? 文句あんのか?」
その一言で男達は黙ってしまう。
「お前らも分かっているんだろうな。俺達は遊びでやってんじゃねーんだよ。相手がガキだろうと容赦するな。徹底的に潰せ。分かったな」
「「へ、へい!」」
リーダー格の松永の言葉に、部下の男達は震えた声で返事をする。
そして彼らは次郎の方へ視線を向けると、各々が懐に手を入れて得物を取り出した。
その得物から鞘を抜くと、キラリと光る刀身を露わにする。短刀―――所謂、ドスと呼ばれる代物である。
それを見た次郎の顔つきが険しくなっていく。
「……まさか、そんなものを取り出すとはな」
次郎が呟くと、松永はニヤッとした笑みを浮かべる。
「ガキ相手に大人げないとでも思うか。だがな、世の中はそういうもんなんだよ。弱い奴が強者に食われる。それがこの世の摂理なんだよ。例え誰が相手だろうと、容赦はしない。恨むなら自分の運の無さを恨みな」
そう言い放つと、松永は部下達に合図を送った。彼らはドスを持ったまま、次郎にへとじりじりと迫っていく。
「ふん、上等だ」
次郎はそう口にすると、前屈みになっていた姿勢を正して真っ直ぐに立つ。
その表情には微塵の怯えも無く、逆に不敵な笑みすら浮かべていた。
「掛かって来いよ、卑怯者共。返り討ちにしてやるぜ」
次郎はドスを構えた男たちに対して挑発的な言葉を口にする。その次郎の様子を見て、松永は眉をひそめる。
「……は? お前、頭おかしいのか?」
松永は怪訝そうな顔で次郎を見る。
「別におかしくはないさ。ただ、お前らが気に入らないだけだ。それに俺は今、非常に虫の居所が悪いんでな。覚悟しろよ、糞野郎ども」
次郎は不敵に笑うと、その両手をポキポキ鳴らして構えを取る。
しかし、そうした次郎の言葉を受けても、松永は怪訝そうな表情を崩さなかった。
「あ? そんな事を聞いてんじゃねえよ。俺が言いたいのは……」
松永はそう口にしてから、次郎にへと指を差した。正確に言うならば、ある部分を指し示したのだった。
次郎はその松永が示すある部分を目にする。そこには次郎の股間があった。
「てめえ、何でこの状況であそこをおっ立ててるんだよ。もしかして、変態か何かか?」
「……」
呆れた口調で松永はそう言い、次郎の股間をジト目で見つめる。そして松永は、「マジかよ、こいつ……」と言わんばかりの表情を浮かべている。
その指摘に流石の次郎も言葉を詰まらせた。反論出来る要素が何一つ無かった。
いくらこれが昼時に食べてしまったマムシやすっぽんの効能からくるものであったとしても、事情を知らない彼らそして彼女からすれば、次郎がこの状況下にも関わらず興奮しているようにしか見えないのだ。
「うわっ……」
「嘘だろ……」
「……」
松永の部下である男達も引き気味に次郎を見ており、智絵に至っては無言のままドン引きしていた。
「……ふっ」
その状況に次郎は苦笑いを零す。
「……か、掛かってこいやぁ!!」
次郎は流れを修正しようと無理矢理に声を張り上げて叫んだ後、右手で握った拳を力強く握り締めてファイティングポーズを取った。
その次郎の姿に、松永は溜息を吐いた。
「もういい、お前ら。こんなのに構っている暇は無い。さっさと終わらせるぞ」
松永は部下に対してそう指示を出すと、部下達は次郎に向かって走り出した。
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