金髪お嬢様の本領発揮
周囲の流れが雪乃にへと完全に傾く中、彼女は静かに口を開いた。
「さて……貴方達に聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「な、何だよ……」
悠然とした態度を取る雪乃に、田頭は戸惑いながらも返答をする。
「私はある事に対して、とても心を痛めています。それが何なのか、お分かりですか?」
雪乃は穏やかな口調で、田頭や八田野高校の面々に語り掛けていく。その様子は一見すると、慈愛に満ちた聖母の様である。
しかし、その奥底には底知れない何かが渦巻いていそうな気がしてならなかった。
その雪乃の問い掛けに、田頭も八田野高校の生徒達も、何も答える事が出来ずに黙り込んでしまう。
雪乃が発する雰囲気に圧倒されてしまい、思考が上手く纏まらないでいた。
「誰もお答えにならない……という事は、誰も分かっていない。理解をされていないのですね? なるほど、それは残念です」
雪乃は少しだけ困った様な表情を見せる。その仕草は、どこか演技臭かった。
その事に、田頭や八田野高校の生徒は気付かない。彼らは雪乃の言葉に、ただただ困惑するばかりだった。
「では、仕方ありませんね。私が代わりに教えましょう。それは……貴方達が犯してしまった罪についてです」
雪乃はそう言うと、再び不敵な笑みを浮かべた。
その笑みを見て、八田野高校の生徒達は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「つ、罪、だって? おい、女……お前は一体、何を言っていやがるんだ……?」
田頭は雪乃の言っている事の意味が分からずに、戸惑っている。しかし、他の生徒達も同じ様に、彼女の言葉の真意を測れずにいた。
「分からないのであれば、はっきりと言います。貴方達のやった事はとても酷い事。許されない行為なのですよ?」
雪乃はそう言い放つと、静かに息を吐く。そして、彼女はゆっくりと田頭と八田野高校の男達に視線を向けた。
彼女の瞳には明らかな怒りの感情が宿っており、その迫力に、その視線を受けて男達は思わず息を呑んでしまう。
「ゆ、許せない行為だ? はっ、笑わせるなよ、女」
そして雪乃の雰囲気に気圧されていた田頭だったが、言われたままなのは我慢ならないのか、どうにか気を取り直すと雪乃に反論する。
「そんなに俺達のやった事が気に入らないか? 自分のとこの生徒が襲われたのがそんなにか? え?」
田頭はちらりと次郎の方を見ながら、雪乃に問い掛ける。
襲われたという点では次郎は該当はしないが、これまでに起きた被害者の中には草薙学園の一般生徒達も含まれている。
その事を指して田頭は口にしたのだった。彼は彼女の真意がそこにあると思うと、そうした考えに対して鼻で笑う。
「生徒会長様の責務か何か知らねえが、ご苦労なこった。だが、そんな事は俺達からすれば知ったこっちゃねえな。あんたのとこの生徒がどれだけ苦しもうが、俺達が得をすりゃそれで良いんだよ」
田頭はそう言うと、蔑む様な笑みを浮かべながら、雪乃を睨みつける。その言葉に、八田野高校の生徒たちは同意する様に首を縦に振る者もいれば、嘲笑を浮かべている者もいた。
しかし、そうした八田野高校の男達の態度に雪乃は特に反応を示さず、彼女はただ田頭の事をじっと見つめている。
その雪乃の視線に何故か居心地の悪さを感じてしまい、田頭は落ち着かない気持ちになってしまう。
(な、何だよ……。どうして、こんなにも嫌な感じがするんだ……?)
自分の事を見つめてくる雪乃の視線が、妙に気になった。その視線に彼は嫌悪感を覚える。
しばしの間、辺りは沈黙を保っていたまま誰も話さずにいたが、それ以上の返答が無い事を悟ってか、雪乃は小さく溜息を漏らす。
「それだけですか?」
「は?」
雪乃からの問い掛けの意味を把握しかねてか、田頭が呆けた声を出す。
「もう一度尋ねます。貴方が仰られた事以外で、何か他に無いのでしょうか?」
「他にって……いや、ねぇけどよ」
雪乃に対して田頭がそう答え、他の男達からも特に声が上がらない。先程に返した田頭の返答が八田野高校の総意だと言わんばかりに、他の者達は口を閉ざしていた。
その事に、雪乃は再び小さなため息を漏らすと、静かに口を開く。
「……はぁ。貴方は、貴方達はどうやら……勘違いをしている様ですね」
「勘違い……? 勘違いって、何が―――」
「私はそんなどうだっていい事に対して、許さないと言っている訳ではありませんよ。私が許せないのは、もっと別の事です」
雪乃のその発言に、その場の空気が一瞬にして凍り付く。どう考えても口にしない様な言葉を、彼女が口にしたからだ。
彼女は自分の学校に通う生徒達の事を、どうだっていい事だと吐き捨てたのだ。そうした事実に、八田野高校の生徒達は唖然としてしまう。
「いや、じゃあ、何で……?」
「決まっています。貴方達が、私の大切な人を傷付けたからです」
「……は?」
雪乃の口から放たれた一言に、八田野高校の男達は固まってしまう。その言葉の意味を、上手く飲み込めなかった。
そして雪乃は小さく微笑んだ。それは田頭や他の男達の反応を見て微笑んだ訳では無い。彼らの背後にいる存在―――次郎の事を見つめながら微笑んだのだった。
彼女は再び田頭達にへと視線を戻した。その頃には彼女が浮かべていた微笑みは既に消えていた。
「私が許せないのは、貴方達が山田君の事を傷付けたからです。貴方達が自らの汚くて醜い欲望の為だけに、彼の時間を無駄に浪費させてしまった事です。それが……貴方達の罪です」
射る様な鋭い視線を彼らに向けながら、雪乃ははっきりとそう告げた。その彼女の姿に、男達は思わず圧倒されてしまう。
「な、何を言ってやがんだ、お前……」
「まだ分かりませんか? 彼に対して迷惑を掛けたが大罪であると私は言っているのです。それなのに何故、その罪を自覚していないのですか?」
「いや、意味が分からねえよ!? 何だそりゃ!?」
雪乃の言葉に、八田野高校の男の一人が困惑しながらそう叫ぶ。他の者達も似たような表情を浮かべており、理解出来ないといった様子を見せていた。
「田頭さん! もうこの女、ヤっちまいましょう!」
そんな中、一人の男がそう叫んだ。すると他の男達もそうだと同調する。
「何であいつが倒されたのは良く分からねえけど、多分、不意打ちを喰らっただけだ! あんな細い女が俺達に敵う訳がねえ!」
「そうですよ、田頭さん! この女、ちょっと綺麗だからって調子に乗ってやがんですよ。ここは俺達の方が強いんだって事を教えてやりましょうぜ!!」
「……そうだな。こいつと話してても、何が何だか意味が分からんだけだ。―――さっさと終わらせちまおう」
田頭の発言に、他の男達も大きく賛同する。彼らは雪乃を次郎にへと向けていた敵意を、彼女にへと完全に向けた。
そんな彼らの行動に、雪乃は全く動じていなかった。寧ろ、どこか楽しげな笑みを浮かべている。
悠々とした余裕の態度を見せる彼女に、男達は苛立ちを覚えてしまう。
「おい、待ちやがれ! お前達の相手は俺だろ! あいつには手を出すな!」
雪乃に向かう矛先をどうにか自分にへと戻そうと、次郎が必死に叫びを上げる。しかし、その言葉に耳を傾ける者は誰一人いなかった。
男達が次郎の声を無視して、雪乃にへと近付いていく。そしてその中の一人がもう我慢出来ないとばかりに飛び出していった。
彼はそのまま勢いよく拳を振り上げながら、彼女にへと目掛けて殴り掛かる。
しかし次の瞬間、雪乃は自らの制服のスカートの内側に右手を伸ばした。そしてそこから何かを取り出した彼女はそれを男にへと突き付ける。
「へ?」
それを見た男が間の抜けた声を発した。それはどう考えてもあってはならない物だった。
雪乃が手に持っていたのは黒光りする拳銃だった。その銃口が男に向けられ、躊躇無く引き金が引かれる。
乾いた発砲音が鳴り響き、何かが発射される。それは銃弾では無く、銃の先端部分。それが銃身から射出され、男の胸元辺りにへと着弾をした。
「がぁっ!?」
当たった男は悲鳴を上げ、身体をビクンと跳ねさせると同時に地面に倒れ込んだ。そして気絶してしまったのか、白目を剥いて気を失ってしまった。
「な、何だ、今の……?」
「いや、それよりも、今、こいつは一体、何をしやがった……?」
突然の出来事に、八田野高校の男達が混乱する。目の前で起きた出来事に思考が追い付かない。
「あら? この程度で気絶してしまうのですね。山田君でしたらまだ立ち上がるでしょうに、情けないですわね」
雪乃はつまらなそうにそう口にすると、持っていた拳銃を手から落とした。拳銃が音を立てて地面を転がっていく。その光景に男達は唖然とする。
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