35話。超災害系の大自然惑星
「おぉ~。すごい景色~!」
「大きな草原ですね。私の世界にはなかったものです」
遠くまで広がる草原を前に、オレンジポニテとブルーツインテの少女が感嘆の声をあげる。
エマとイヴの二人は大自然が牙をむく世界の経験を積むため、自然豊かなことで有名な『
ちなみに、美来は個人的な予定により不在である。
「わ、見て見てイヴちゃん! ドラゴンが飛んでる!」
「あれは……───……ワイバーンですね。TOKYOでは二足に一対の翼を持つ場合はワイバーン、四足に一対の翼を持つ場合はドラゴン、と呼び分けるのが普通らしいですよ」
「ほぇ~。そういえば、ドラゴンは未来的にも珍しいんだっけ」
「らしいですね。偶発的な発生がほとんどありえないうえ、現時点で人間との接触も少ないために生まれる可能性が低いのだとか。なので、この世界でもドラゴンを確認するのは難しいと思います」
「まぁ、出会いたくはないからいいんだけど。絶対負けるし。
というか、結局敬語に戻したんだね?」
「そちらの方が喋りやすくて……すいません」
「いいよいいよ。喋りやすい方で話そ」
二人は話しながら草原を移動する。
今日この世界にやってきたのは大自然と対峙する経験を積むためだが、もちろんそれだけが目的ではない。
話は昨日まで遡る───
♦♦♦♦♦
「イヴちゃんの肉体検査、結果出たよ~」
キャサリンがファイル片手にドアを開ける。
そのファイルにはイヴの検査結果が書かれた紙が入っていた。
装備品扱いでの同行には装備の詳細な情報が必要である。イヴがどのような機能を有しているかの確認と提出のため、このように検査が必要だったのだ。
「手続きも私の方でやっとくよ~。これでも研究者は書類仕事が多いからね~、慣れてる私がやるのがいいでしょ~」
「ありがとうございます、何から何まで」
「いいってことよ~。あ、でもね~、ちょっといくつか気になったことがあったんだよね~」
キャサリンはファイルから紙を取り出すと、イヴの身体機能について記録された箇所を指さした。
余談だが、未来技術溢れるこの街でわざわざ紙を使用するのは、こういった公的な書類は情報変換が難しいアナログな方法で記録するべきだと決められているからである。決して時代錯誤な考え方ではなく、ちゃんと理由があるのだ。
イヴはキャサリンが指さした箇所を眺め、その結果に首をかしげる。
「‟変換可能エネルギー:地脈由来のみ”……?」
「そう。構造的には他のエネルギーも使えるはずなんだけど、どうも中身が故障してるのか地脈由来のエネルギーしか受け付けてないんだよ~」
「故障……───……なるほど、あの時ですか」
イヴはエマを助けた時のことを回想する。
神の用意した木々を突き破り、更に神からの攻撃を弾いた時。おそらくはその時の衝撃で内部の機構が少し破損したのだろう。目覚めたばかりで安定していない時期だったこともあり、変な形で誤作動を起こしてしまった可能性もありえる。自己修復機能で修復できないことを考えれば、誤作動を起こしたまま部品が外れた可能性が一番高い。
特異点登録を行って以降の故障は死亡時に復元することも考えると、この故障が発生したと考えられるのはそこぐらいのものだった。
「道理で《6-A-99》の発射までに少し時間がかかったわけですね」
「多分ね~。で、この故障なんだけど、知り合いに頼んだら修理してくれるって~。ちょっと特殊な素材が必要になるんだけど~後々のことを考えたらそれがいいと思う。一応、イヴちゃんはどうしたい?」
「是非お願いします。強くなれるならそれに越したことはありません」
「わお、即答。おっけ~じゃあ連絡しとくね~」
キャサリンは暢気な喋り方からは意外なスピードで、テキパキと連絡を済ませる。
一方のイヴは、自身の成長の可能性に内心でワクワクしていた。
機械である彼女は成長機能を有しておらず、成長のためには何らかの形で外部から干渉される必要がある。そのため彼女にとっては成長とは貴重な体験であり、自覚はないが大きな憧れのようなものが存在していた。
それに、今回の話はその中でもかなり期待度が高い。
このTOKYOにおいて一、二を争う技術者であるキャサリンがわざわざ頼むほどの相手。その‟知り合い”とやらがどんな人なのかはともかく、腕が立つことだけは確かだろう。
後ろで別の作業を行っていた美来が露骨に嫌な顔をしたが、まだまだ感情の理解が未熟なイヴには、それが示す意味まで察することはできなかった。
「さて、そうなると今度は素材の確保だね~。ちょうどいい経験になるし、今回は自分たちで集めてみたら~?」
「賛成! イヴちゃんと一緒に探検行きたい!」
「なるほど、いいですね。私もそれに賛成です」
「よし、決まりだね~。じゃあ情報は送っておくから、明日にでも行ってきな~」
「はーい!」
こうして、二人はイヴの修理用素材を求め、『
♦♦♦♦♦
「そうして、とりあえず開けた場所までやってきたわけですが……」
「火山、見つからないねぇ」
見渡す限り、遥か遠くまで続く地平線。
エマの言う通り、火山らしきものはどこにも見当たらない。
「半径3~4kmぐらいある火山の内部に生成される青色の結晶を持ってきてほしいって話だったけど……なんでそんな具体的なんだろ?」
「キャサリンさんは明らかに何かを隠していました。多分、情報が限られた状態であることを含め経験してこいということなのでしょう」
「なるほどね~。そもそもなんで火山なんだろ?」
「既存の情報から察するに、今回の目標は火成岩の一種なのでは? 大きさの指定がされているのはその火成岩の生成条件が火山の状態に関わっているからであり、火山の状態を大きさでおおまかに判断していると考えれば辻褄は合います」
「おぉ~なるほど。それっぽい!」
二人は雑談しながら草原を歩く。
初めての別世界に興奮しているのか、イヴも若干早口で喋っていた。
とはいえ、興奮しているばかりではいられない。たしかに時間には余裕があるが、それも無限ではない。目的地を見つけたところで別の問題が発生する可能性もあるため、二人はなるべく早く目的地を探しておきたかった。
「地図がないのがこんなに面倒だなんて……」
「仕方ありませんね。超災害が多すぎてそもそもの作成が間に合ってないみたいですから」
「自作の地図データを持ってるらしい師匠はなんか「これもだよ」とか言ってデータ渡してくれなかったしぃ……」
エマはほとんど空白で埋まったままの地図を横目に項垂れる。
探検家にとって地図とは欠かすことのできない必需品である。しかしながら、未来の地図というのは基本的に出版されていない。
TOKYOの技術力であれば、地球全土を地図化するのはそう難しいことではない。しかし未来の世界というのはあまりにも膨大な数が存在するためその製作が間に合っておらず、世界によっては現代基準の地球より巨大な世界というのも存在しており、全世界の地図製作は現実的ではないとされている。
そういう事情があるためか、探検家たちのほとんどは有志の手によって製作された地図をダウンロードして使用していた。個人の努力で行える範疇の代物であるためか精度は公的地図に劣るものの、複数の探検家が情報を共有し合うという人海戦術を駆使することで実用に足るだけの精度は確保している。
が、しかし。逆を言ってしまえば、人が足りなければ地図の精度は非常に低くなるということである。そして『
勿論、そんな世界の地図データなんて出回っているはずがない。そのため二人は地図作成ツールを装備し、仕方なく自分たちで地図を作成していくことにしたのだ。
「私が空から周囲を確認することもできますが、どうしますか?」
「あれってエネルギーの消費激しいんでしょ? いいよ、地道に探していこう」
「わかりました。消費が少ない方法としてはソナー機能もありますが、そちらはどうしましょうか?」
「あ、それいいじゃん! ぜひ使おうよ!」
「了解です。では───」
イヴがソナー機能を起動しようとした瞬間、彼女は遠方の草が波のように揺れ始めたことに気付く。
まもなくその波は二人の元に到達し、その瞬間、ジェット機もびっくりな程の轟音が辺りを塗りつぶした。
「うわっ!? なに!?」
「《code 8-S-03》」
轟音の正体を探るため、即座にソナーを起動する。
轟音が聞こえてきた方向はわかっているため、今回はある程度の指向性を持たせた。
応答を待っていると、数秒ほど遅れてから複数の反応が返ってきた。
「直線距離およそ7kmほど先、全長およそ20m弱の存在が複数と、その周囲に二つほど人間の生体反応らしきものがあります」
「人間ってことは探検家かな。音からして、多分戦ってるよね?」
「おそらくそうでしょう。この距離でも届く轟音となると、凄まじい戦闘が行われていそうです」
「非常事態には協力して打開する! イヴちゃん、最速で向かおう!」
「了解です。しっかり掴まっててくださいね」
決断は一瞬で。
エマがイヴに抱き着くと、二人はソニックブームを巻き起こしながら姿を消す。
代わりに、草原の上空を青い一条の流星が駆けていった。
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