第四章『至る我道』

34話。いわゆるプロローグというやつです

「■■■───!」


 全長35mほどの巨大な飛竜が咆哮する。

 その先には、身長195cmの大男。

 日本の成人男性の平均身長は171~173程度だと言われている。たしかに、平均よりも20cm以上高い身長を持つ彼は大男と呼んで差し支えないだろう。

 だが35mの竜を前にして20cmの差など、非常に小さな誤差に過ぎない。文字通り、のようなものだ。それだというのに、飛竜はその大男へこの上ない警戒を向けていた。


「カァ~ッカカッ!」


 大男は笑う。

 金色に輝く巨大な金棒をその手に携え、飛竜を前に仁王立ち。

 恐れる理由など一つもないというような、余裕の姿勢だった。


「来いよ来たれよ食ろうてみろよ! 殴りがいのあるやつァ大歓迎!」

「■▪■───!」


 挑発されたと感じ取ったのか、飛竜は怒りのままに口を開けた。

 開いた口から放たれるは、赤黒い火球。いわゆると呼ばれる攻撃である。

 その火球は大男の元まで直進し、着弾と同時に爆発する。

 周囲の地面が赤黒く燃え上がり、あまりの温度に一部はガラス化してしまっていた。並みの生物ならこれだけで死滅するような一撃だが、大男は平然とした顔で立っている。


「あっちィ火の粉だなァ! だが俺様にゃア遠く及ばねェ!

 それで終わりか? まだまだ来いよ。踏ん張れたらの話だがなァ!」


 彼は大地を踏みしめると、足元にクレーターを残しながら飛び掛かる。

 二発目を構えていた飛竜の顎をそのまま踏みつけると、彼は振りかぶった金棒を全力で振り下ろした。






「───吼えろ、《怒槌いかづち》!」






 雷がちる。

 けたたましい轟音が衝撃波となって大気を揺らし、爆発にも似た光が白く広がる。

 飛竜の身体ごと周囲100mあまりを圧し砕いた彼は、満足そうに大地を踏みしめた。


「カァ~ッカカッ! い~ぃ手ごたえだったァ!」


 降ってくる瓦礫を気にも留めず、彼は笑う。

 溶岩のように赤黒い肌を持ち、雷のような特徴的な二本角を持つ大男。

 彼のことを、他の探検家たちはこう呼んだ。


───『獄卒』。である彼に相応しい、シンプルな異名である。

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