第65話 すでに完成品である
建設途中で柱しかないけど陽にまぶしく輝く神殿。
壁がないので巨大な東屋のようでもある。
少し離れたところに神官たちが寝起きするための建物。
日に何度か時刻を知らされるために鳴らされる鐘のための塔もある。塔はもともと侵略者を見張るための物見の塔であった。
この一帯を神に祈りをささげるための場所に作り替えたかったのだろう。
信者らの理想に折り合いをつけさせるにはどうすればいいのか?
サタージュは言葉を待つ人々に語った。
「この神殿はすでに完成している、ゆえにこれ以上の工事は不要である」
彼の言葉にきょとんとしている人々をしり目に言葉は続いた。
「神に祈りをささげる場所が四方を壁に囲まれた建物の中のみとだれが決めた? この状態なら清冽な空気、降り注ぐ陽光、あるいは月や満天の星の光に直接触れながら神と触れ合うことができるのだ」
なるほど、なるほど。
たしかに、古代ギリシャの遺跡パルテノンに近い見た目になるけどそれも神殿だものね。
精霊ロゼはうなずいた、そして、
「でも、雨ぐらいは防いだ方が良くない? 屋根のところにステンドグラスを張るとかしたらきれいだと思うけどできるかな?」
追加の提案をしてみた。
「不可能ではありません。貴白岩は強度もありますし、硝子を屋根にはめ込むことは造作もないです。もともとドームのてっぺんはガラス張りにする予定でした」
工事の責任者が答えた。
「あの、でも神殿の儀式は聖なる力を強化するための秘術やら、一般の信者には見せないものも多くありまして……」
大司教が問題点を挙げた。
「それならば聖力で壁を作ればいいではないか? できぬのか?」
サタージュはこともなげに言った
「「「「壁?」」」」
それに多くの人が首を傾げた。
「
こうすればいいのだ、と、サタージュは目の前に透明な壁を張って見せた。
「さらに、
透明な壁が不透明な壁になり向こうが見えなくなった。
なるほどこれなら、その時だけ普通の建物のように壁に覆われた状態にできる。
聖なる力がそんな応用を利かすことができると知らなかった神官たちは驚いた。
「素質のあるものを何名かよこしてくれれば、伝授することができるぞ」
大神官はすぐにサタージュに教えを受ける者たちの人選を急がせた。
すっかり忘れていたことだが、さすが世界を支える四柱の精霊だとロゼは感心した。いきなり中止にせよ、と、言えば反発が起きるし、かといって、このまま工事を続けさせることもできない状況を、こんな発想でおさめてしまうとは。
技を伝授するために二人は数日間エルシアン王都に滞在した。
サタージュが指導に当たっている間、ロゼは王太子妃の話し相手になったり、家臣に街を案内してもらったりしていた。
そして指導が一段落して、二人はフェノーレス山に戻ることとなった。
別にどこからでも一瞬で戻れるのだが、一応体裁を整えるためセナ湖から戻ることにした。
戻る間際にサタージュはカレンデュラ王太子妃に言った。
「あのね、これはあくまで僕の意見だよ。君は母の王妃とともに父の国王に捨てられたって言っていたけど、国王は心を病んだ君のお母さんに、一番幸せだった思い出のある場所の近くで療養してもらいたかったんじゃないかな。だって、結婚して以来、毎年僕たちのところに訪れてくれていた二人はとっても仲睦まじく幸せそうだったからさ。君にとって今となってはそれはどちらでもいい話なのかもしれないけど、一応心にとどめておいてほしいと思ってね、じゃあね、元気な赤ちゃんを産んでね」
二体の精霊は言葉が終わるとセナ湖から姿を消した。
正しさや清らかさをよりどころにして生まれたサタージュ神への信仰、その宗教が大陸に大小さまざまな嵐を巻き起こすがそれはまた別のお話。
☆―☆―☆―☆-☆-☆
【作者あいさつ】
今回で二章完結です。
お読みいただきありがとうございました。
三章開始までしばらくお待ちください。
三章からは主人公が変わります。
一、二章で活躍したキャラたちも出てきますからね。
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