第14話 打ち明けられた真実

「そんなっ!」


「ばかなっ!」


 若い婚約者同士の誤解が氷解した後、ロゼラインは改めて自身の死について語った。

「「自殺じゃなかったなんて!」」

 二人は声をそろえて驚いた。


「たしかに不明瞭な点が多い事件でした。ただそれを追及しようとすると兄上や義姉上の家族が、これ以上彼女の死についてかきまわすな、と、言われ、それでうやむやになっていたのですよ」


 ゼフィーロがつぶやいた。


「不明瞭な点と言いますと?」


 アイリスが説明を求めた。


「まず、我らが王族は暗殺を防ぐために身体が出来上がる十五・六歳以上になると、毒に耐性のある体になるために毎日少量ずつそれを摂取して慣らすことを始めます。そして数年もたつと主だった毒物への耐性が出来上がります。これは王族の一員となる予定の婚約者もされることであり、義姉上は御年十八歳、耐性がほぼ出来上がっている年齢でしたし、それで服毒自殺を考えられるのは少々不自然です」


「でも、私はお茶を飲んですぐ心臓の痛みを感じてこと切れたのよね」

 ロゼラインは死の瞬間を思い出して言った。


「ええ、毒物はティーカップに残っていたそうです。そしてそれに対応する毒物が義姉上の私室で発見されました。しかしふつう自ら毒を入れたのなら、それが入った瓶も姉上のいた控室にありませんか? 仮に姉上自身が入れたにしても、耐性の利かない稀有な毒物を義姉上はなぜ、そして、どうやって入手されたのかの説明ができていません」


「へえ、けっこう緻密にものを考えるたちなのね。なかなか優秀な探偵ぶりよ」

 クロが感心してつぶやいた。

「恐縮です」

 照れたようにゼフィーロは咳払いをした。


 一瞬でもつれた心を切り裂いた「爆弾発言」の主を、猫とはいえ、敬意を払う存在とゼフィーロは見なしたようである。


「そもそも、兄上の婚約破棄宣言は相手のサルビア嬢や一部の取り巻き連中しか知らない突発的なできごとでした。それを義姉上が予見して自殺のために希少な毒を手に入れておく、と、いうのは説明としてはおかしい。そして毒の成分ですが、一応魔法省の監査官が分析したそうなので教えてもらいましたが、クーデン男爵が治める領地にのみ生息するブルーセージという植物から抽出された希少な毒物でした」


「クーデン! サルビア嬢の!」


 アイリスが息をのむ。


 確かにサルビアにとって、当時婚約者だったロゼラインは「邪魔者」以外の何物でもなかったし、彼女がロゼラインに殺意を抱いても不思議のない話ではあった。


「まあ、だいたいサタ坊が説明した通りのようね。あげられた『疑問点』も彼が語った内容通りならつじつまが合うわ」

 クロが言い、ロゼラインも納得してうなづいた。

「サタ坊?」

 ゼフィーロが尋ねた。

「私に力を与えてくれた神というか、精霊というか…。なんていうのかな、正しい報いを司る存在で、この黒猫はそれを補助するためにここにいるわけで……」

 あの異空間で概念の精霊が話した事を伝えるのは難しい。ほんの少しもずれがないように説明しようとすると、あの時のように観念的で理解しにくい話になって事がややこしくなる。


「つまり『正義』の神みたいなものね」

 けっきょく思い切り端折ってロゼラインは説明した。

「おお、ではこの黒猫殿は神の御使いのような存在というわけですね」

 ゼフィーロが感心して言った。外れているわけではないが正確とも言い難い。でも、そんなものね、と、ロゼラインはごまかした。


 クロはちょっぴりドヤ顔である。


「サタ坊はすでに真実をつかんでいてロゼラインに聞かせたのよね」


 クロの言葉にロゼラインはうなづき、ゼフィーロとアイリスにも異空間で彼が話してくれた『真実』を話した。



「なんとまあ、その話が本当なら関わった人間は全て反逆罪に問われるほど由々しき事柄です。王族に危害を加えようとした時点で大逆と見なされ、王族と婚姻の約束を交わした者も准王族となりますので同様に扱われます」

 ゼフィーロが説明に対し言った。

「でも、今となっては先ほどの事実を証明するのが難しいのでは?」

 アイリスが言う。

「そこが悩ましいところです。関わった人間は全て死罪相当の大きな罪を犯している。それで義姉上は命を落とされたわけだが、今となっては彼らがすんなり事実を認めるとは思えないし、よほどの証拠を押さえてないと、事実を明らかにすることすら難しいでしょう」

 ゼフィーロがため息をついた。


 行き詰まり感が広がる中、クロがつとめて明るい調子でいたずらっぽく言った。


「それならまずできることからコツコツやっていくのが得策よ。まずはあの強制わいせつヤローに引導を渡しちゃいましょ」

 

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