第32話 第85回 優駿牝馬
澄み切った皐月晴れの青空に、歓喜、情念のにじんだG1ファンファーレが鳴り響きます。
府中、東京競馬場。
舞台はチャンピオンディスタンス、芝二千四百メートル。いまだ成長のさなかにある若馬十八頭、いずれにとっても未知の距離です。
クラシック二冠目。三歳牝馬限定競争、オークス——
さて注目馬ですが、やはりこの二強を置いては語れないでしょう。
一番人気は、桜花賞の雪辱に燃える芦毛の二歳女王。スランネージュ。
そして二番人気は、桜のティアラを戴いた一番星。プレミエトワール。
桜花賞のハナ差決着の再現となるか、はたまた星空は雪で覆われるか。
もちろん、二頭を迎え撃つ刺客も粒揃い。
簡単には戴冠を許さない
前走桜花賞は三着のビルヴェルヴィント。
四着馬のアプリオリ。
さらにアプリオリの宿命のライバル・アドレセンスキッスは、重賞フローラステークスを制して出走権を確保。怒りの連戦に臨んでいます。
この他桜花賞からはスカイライト、ヨッコイショコラが引き続き参戦です。
そして最大の曲者が《ロードカナロア》産駒、ファイアスターター。
ここまで他の追随を許さない大逃げで三連勝中。
前走スイートピーステークスの八馬身差での逃げ切りは、兄の姿と重なります。
言わずとしれた名牝の娘たちもこのオークスから名乗りをあげます。
クラースナヤ、そしてクイーンオブミモザ。
両馬ともに母はオークス勝ち馬。
母も得意とした東京の舞台で、親子制覇となるか。
この他、注目すべき新顔はシュトレッケ、ユニコーンルージュ。
ともに逃げ馬とあって、ハイペースの展開は必至でしょう。
さあ18番プレミエトワール、やはり悠々とゲートに収まります。
十八頭。全馬体勢整って、いよいよ始まる二分半の全力勝負!
二冠となるか、刺客が勝つか!
第85回
さすがは優駿、全馬スムーズな出足。
ヨッコイショコラ今日は遅れません。桜花賞馬プレミエトワールと仲良く殿を進みます。
さあやはり一番に動くのはこの馬だ。
《ロードカナロア》産駒ファイアスターター!
ハナを奪って視界良好、宣言通りの大逃げだ!
先頭から見ていきましょう。
スタンド前の直線を抜けて、最初に一コーナーに入るのは5番ファイアスターター。
すでに二馬身ほどの差を開けて8番シュトレッケ、4番ユニコーンルージュと三頭、レースを引っ張っていきます。
そこから離れたところで馬群を率いるのは15番クラースナヤ。
重なるように2番エタンセルロゼ、9番エルジェーベト、17番ドリーミングアローもここにいます。折り合いはどうか。
それに続いて母とよく似た好位追走、13番クイーンオブミモザ。
そこから半馬身ほど置いて12番、とてとて走るかわいいトテトテ。14番カラメリゼもここ。
それらを虎視眈々と狙うのが一番人気、最内1番スランネージュ。
ファンの期待を一心に背負って、良馬場となったコーナーを駆けていきます。
そして後方からの競馬が16番ビルヴェルヴィント、11番キリエエレイソン。
その背後に6番アプリオリ、7番アドレセンスキッスが続きます。
桜花賞同様、また隣り合わせの因縁の両頭。今度こそ逆襲となるのか。
そして殿、すでに二馬身ほど離れた位置を走るのが三頭。
3番、今日は頼むよヨッコイショコラ。桜花賞馬の18番プレミエトワール。二番人気。
この後方につけて殿を進むのは10番スカイライト。今日はプレミエトワールをマークしているようです。
さあ、逃げ先行馬の多い今回のオークス。
馬群は縦長、先頭から殿まですでに二十馬身はあるでしょう。
非常に早いペースでレースが展開しています。
そして二コーナー回って向正面の直線区間。
さあ、ここでファイアスターター! ロケットエンジンに火がついた!
一緒に逃げていたシュトレッケ、ユニコーンルージュを離してぐんぐん加速する!
クラースナヤ率いる集団とはすでに十馬身差! 逃げ切り体制に入ったぞ!
だが女王は逃げ切りなど許さない!
ここでプレミエトワール、ギアをひとつ上げて間を詰めにくる!
それに導かれるように、殿を走る追込み勢は早めの仕掛け!
そして中団ではスランネージュも動き出す!
トテトテ、カラメリゼをかわし、じわりじわりと順位を上げてくる。
このオークス! 全十八騎、人馬ともに展開はもう折り込み済みです!
ここでファイアスターターが最初の千メートルを通過!
58秒!!! これは速い! 会場が大きくどよめいている! やはりスピード決着だ!
ファイアスターター、集団との差はおよそ十五馬身! これだけの逃げ!
ファイアスターターが逃げに逃げまくっている!
しかし、馬群先団も追い始める! クラースナヤ、クイーンオブミモザが上がる!
逃げていたシュトレッケ、ユニコーンルージュとの差は五馬身ほどに縮まってきた!
後方ではアプリオリとアドレセンスキッスの熾烈な位置取り合戦だ!
やはりこの両頭も馬群の隙を縫って上がってくる! 好位を取ったが大丈夫か!?
その背後には、プレミエトワールが来ているぞ!!!
ファイアスターター三、四コーナー中間の
いまだ後方との差は開いている! しかしここからは未知の距離!
全馬経験したことのない、二千四百メートルが牙を剥く!!!
さあ四コーナーを回って最後の五百メートル!
一番に飛び込んできたのはやはりファイアスターター!
だが逃げ切りなど許さない!
シュトレッケ、ユニコーンルージュをちぎってクラースナヤ! クラースナヤがクイーンオブミモザとともに二番手で四コーナーを回ってきた!
そして馬群をついて芦毛の馬体! スランネージュが躍り出る!
背後に率いるのはアプリオリとアドレセンスキッス!
そして外回ってプレミエトワール! 上位人気馬による
ファイアスターター、リードはまだ五馬身ほどある!
だが後続いっせいに鞭が入る!
このハイペースをモノともしない、乙女達による叩き合いだ!!!
クイーンオブミモザ苦しい! それを差してアプリオリ前に出る!
だがクラースナヤは譲らない! 母のための戴冠を目指す!
ここでスランネージュ並びかける! 芦毛のヒロインがターフを駆ける!
だが外、ピンクの帽子、プレミエトワールの王道に他馬はなし! 目指すは樫の栄冠ただひとつ!
残り二百メートル! 一騎対四騎! 坂を登る!!!
ファイアスターター死力を振り絞る! だがリードはない! 坂が苦しい!
ここでスランネージュだ! なんとファイアスターターに届く!
あれだけの差を持ってしても女王は逃げ切りなど許さないのか!!!
しかし外からは女王がもうひとり!
一番星の末脚でプレミエトワールが駆け上がってくる!!!
やはり最後はこの二頭! 静かな雪か一番星!!!
届くのか!? 届くのか!?
届いた! 並んだ!
差し切ったーッ!!!
プレミエトワール、オークスも獲ったーッ!!!
皐月晴れ、府中の青空にきらめくのもまた一番星!
三着まで一馬身差もない大接戦を制したのはプレミエトワール! プレミエトワールです!
ウワーッ! とんでもないタイム!!!
オークスレコードだーッ!!!
二着スランネージュ、三着クラースナヤもレコードペース!
令和六年三歳世代! 末恐ろしい乙女たちです!!!
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