式条と琉依
式条と琉依
「驚いたな……」
式条は本当に驚いた様子で琉依を見ていた。
式条の声で顔をあげ、渡辺が居なくなったのを見ると琉依は振り返って式条を見た。
「やった! 俺、ちゃんと出来てました?」
興奮した様子の琉依は目を輝かせていた。
「ちゃんと出来てたし、いつの間にそんなことまで調べたんだい?」
「これですよ、これ」
琉依はスマホを掴んで式条に見せた。
「スマホでちゃちゃっとね。全部ネット情報ですけど。はは」
「あはは、でも大したもんだよ琉依くんは。僕なんて成仏させるのにどれだけ時間がかかってるか。僕も見習わないといけないね」
「いえ、式条さんのやり方を見て真似してみただけなので。今回はたまたま最近の事故だったからですよ」
「そうだけどさ。本当にすごいよ」
「ありがとうございます」
夕方になり琉依が帰ったあとも式条は少し興奮していた。
いくら有名な三神の息子さんだからと言っても、初日にあそこまで見事に霊を成仏させることが出来るとは思ってもみなかったのだ。
それどころかもしかすると何も出来ないかもしれないとすら思っていたくらいだ。
(これは楽しみになってきたな)
見よう見まねとはいえ、あの見事な浄霊に式条は惚れ惚れとしていた。
それからというもの、琉依は毎日のようにいろんな霊をHELLO GOODBYEに連れて来た。
霊の話を聞きスマホで調べる。
わからない時は式条が今までのように自分の足で動く。
そして霊が気持ちよく成仏出来るように二人であれやこれやと手を尽くす。
そうこうしているうちに琉依と式条の連携は見事な力を発揮していた。
どんなに彷徨える霊であっても二人の手にかかればあっという間に成仏出来るという始末であった。
式条は琉依を心から信用していたし、琉依もまた式条を心から尊敬していた。
お互いによきパートナーとしての絆が深まっていったのだった。
そんなHELLO GOODBYEでの日々も、気付けば琉依が来てから半年が経とうとしていた。
「琉依くん、もうすぐ二十歳の誕生日だよね。たまには二人で飯でも行かない?」
式条の提案で二人は初めてゆっくりと顔を付き合わせて食事をすることになった。
「なんか式条さんとこんな風に話すのって初めてですよね」
連れてこられたのは式条がよく行くという近所の居酒屋だった。
「そうだね。本当は早くこうやって琉依くんと話したかったんだけど、琉依くんが毎日霊を連れて来てくれるからさ。急に忙しくなって大変だったよ」
「あは、なんかすみません。俺はただ早く何か式条さんの役に立ちたくて」
「うん、わかってるよ。でも実は僕も琉依くんが来てくれるようになってから楽しかったんだ。僕にはこうやって霊を一緒に視る人も居なかったしね。ずっと孤独と言えばそうだったから」
「そっか、そうですよね。確かに俺は家族がそうだったからそんなことはなかったかもです」
「うん。琉依くんが羨ましいよ」
「そんな、式条さんみたいな人に羨ましがられることは何もないですよ。俺は式条さんが羨ましいですから」
「僕が? なんで?」
「だって式条さんめちゃくちゃカッコいいじゃないですか。カッコいいし優しいしで絶対モテるでしょ? 彼女さんとかいないんですか? あ、式条さんっていくつなんですか?」
「ふふ、すごい質問攻めだね」
「聞きたいことは山ほどあります」
「僕はこう見えてもまだ二十四歳だよ。彼女はいない。僕のこの生活を理解してくれる人はそういないだろうし」
「やっぱりそうですよね。俺たち特殊ですもんね。ていうか、俺と四つしか変わらないんですね。もっと上かと思ってました。あ、その和服のせいじゃないですか?」
「これね。服を選ぶのがめんどくさくてさ。一度着たらはまっちゃって。これなら一年中着てられるし、選ぶ必要もないから」
「確かに。すごく似合ってます」
「ありがとう。でも琉依くんだってモテるんじゃないの? 今どきの子らしくて顔もカッコいいし」
「まあ、モテないと言ったら嘘になりますけど。今は誰とも付き合う気はないので」
「はは、正直でよろしい」
「あ、あと、式条さんに相談なんですけど」
「なんだい?」
「式条さんはこれからもずっと浄霊屋を続けていきますよね?」
「うん、もちろん」
「俺もできることならずっと式条さんのお手伝いをさせてもらえたらなと思ってます」
「本当かい? それは助かるし僕も嬉しいよ」
「でもひとつお願いがあって」
「ん?」
「俺、オヤジの金じゃなくて、ちゃんと自分で稼ぎたいんですよね」
「ん……どういうことかな」
「あのHELLO GOODBYEも式条さんの生活費も俺のバイト代も、全部オヤジのお金ですよね」
「え」
「俺が気付いてないとでも思ってました?」
「え、あ、いや……その……」
突然の琉依の言葉に式条は焦りを隠せないでいた。
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