第4話
「いやーすっきりした」
「しんじ……られない……」
事が済んで、大輔はいつも以上に朗らかな笑顔を浮かべていた。
対する凜はベッドから起き上がれもしない状態だ。
「あんなねちっこいの知らない」
「セックスがねちっこいって言われたの初めてだな」
「ねちっこいどころか粘っこかった」
抜かずの何発、なんて言葉は都市伝説だと思っていた。
自分がピルを飲んでいなかったら絶対にデキていたに違いないと凜は思う。
彼女は普段から生理不順だったり、来ても重かったりするのでピルを飲んでいることを大輔は知っている。
だからなのか、大変遠慮がなかった。もしかしたらご近所迷惑だったかもしれないが、もう後の祭りだ。
「いやあ、積年のなんたらってやつだろ。はー、すっきりすっきり。凜もヨかったみたいだし、もう次からは我慢しねえ」
「少しはして。自重をして」
「……じゃあ土曜とか、連休の前とか……あとは旅行中とか?」
指折り条件を数える大輔に、凜はもう諦めた方が早そうだとため息を一つ。
毎回こんな状態にさせられるのでは、たまったものではないが……大輔が我慢していたという事実に気づけなかったことに対しては、申し訳なく思ったのだ。
「あの、立てないんだけど」
「ああ、風呂? 今沸かしてる」
「そういう意味じゃない。いやそれもあるけど」
「ちゃんと体も洗ってやるって。大丈夫、さすがにもう今日は盛らない」
にこにこと優しい笑みを浮かべる大輔は凜の髪を撫でて、唇を寄せた。
こうした触れ合いは、常にあった。
その先を匂わせないような、軽い触れ合いだ。
(……私が学生時代に言ったことを律儀に守ってるだなんて、誰がわかるのよ……)
いつまでもこっちだって子供じゃねえんだぞと凜は心の中で悪態を吐きながら、むずがゆい。覚えていてくれて、それに寄り添うように行動を続けてくれていた大輔に、嬉しかった。
とはいえ、毎回これでは本当に体が持たない。
「もうAVなんて見なくていいよな?」
「ソウネー」
「毎週金曜からうちに泊まりにくる? ここよりは防音性高いぜ」
「はいはい……って待って、これまで同棲する家で絶対に譲れない条件が『防音』だったのってまさか……」
ハッとして気づいた凜に、大輔が照れたように笑って頬を掻いた。
いずれにせよ、彼としてもそろそろ我慢の限界だったらしい。
「そのうちちゃんとまずは言葉で説明してからと思ってたんだよ」
「そんなあ」
「そうそう、そういやあ中間地点にマンションが建つんだぜ。知ってた?」
「あー、デザイン性バツグンってやつ」
「そこ見に行こうぜ」
「……それって」
「場所もいいし、なんだかんだ貯金もしてきたから頭金は十分だ。いい加減、俺は凜が傍にいてくれないと困るしAV男優になんて負けてらんねえ」
「なにそれ!」
だから、AV男優はお前に似てたからであって別に好みじゃないんだよ、とは凜の口から出なかった。
恥ずかしさに唸って身じろぎすれば、また腰がずきりと痛んで変な声が出た。
遅かれ早かれ今日みたいになるのは必然だったに違いない。
そこに考えが至って、凜は愕然としつつ赤くなった顔を大輔に見られないように枕に突っ伏して隠したのであった。
なにそれ初耳なんですけど! 玉響なつめ @tamayuranatsume
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