第59話復刻メニュー番外編 とろけサバの味噌煮 情報屋トムソン

 復刻メニューも終了するかと思われたが、とろけサバの味噌煮定食を復刻すると、みんなに言ってほしいと言われ、明日はとろけサバの定食だとギルドでは話題で持ちきりになった。 

 

 こんなにも早い段階でメニューが分かった事と、明日はとろけサバって所だ。 

 

 八百万ではなんだかんだで、家では中々食わない素材達が使われていたりする、雫牛や地龍、輝き鳥、花蜜牛など、まぁどれも家で食うというよりは店で食う様な食材だったりするのだが、とろけサバは違う、魚の中でも一般的で美味い、しかも身も大きかったりで庶民の味方だ。 

 

 それだけに食べ慣れているとも言ってもいい、姿焼きなんかは海辺の街では当たり前の様に売っているし、塩焼きなんかはそれこそ自分で買って焼ける。 

 

 それだけに、流石に明日の八百万はそんなに混まないんじゃないか?並ぶ人間も少ないんじゃないか?と言う話も出た。 

 

 魚も悪くないが、あまりにも一般的すぎるってのもなぁ、明日は他の店にいくかどんな風に変わっているか確認もかねて、他所の店に行ってみようなんて人間もいるはずだ。 

 

 そして当日、八百万の列を見てみると、いつも通り?否いつもよりももしかして混んでるかも?な列が出来上がっていた。 

 

 ほとんどの人間が魚よりも肉派であるだろうし、とろけサバはいつでも食えるし、調理も難しくない、それなのにみんな八百万に並んでいる事を疑問に思った。 

 

 八百万は確かに美味い、だがそんな八百万でも庶民的な魚を高級魚には変えられない、安い、美味い、ボリューム満点なのはわかるんだけど、流石にとろけサバはなぁ、ありふれてある食材な故に、こんなに列ができる程か?って考えてしまう。 

 

 そんな俺はその前回出された、とろけサバの味噌煮なるものを食べてはいない。 

 

 確かに聞いたことのない調理法だがなぁ、そんな調理法一つで、ここまで列作るほどのもんができるのか?斗真の旦那の腕を馬鹿にしてるわけじゃないし、侮っているわけでもない、ただ純粋に想像がつかないんだ、貴族様か通う高級料理店に連れて行ってもらえると言われたら高級な食材や滅多に食べれない食材を想像するだろ?なのに店までいって、食わせるのはとろけサバだって言われたら、ため息の一つや二つはつくだろうな、それだけ庶民の食い物として浸透してるってわけだ。 

 

 味噌煮・・・・・味噌煮ねぇ・・・・・・確かに味の想像はつかねぇな、けど塩焼きとか煮てスープの具材にとか、高級店なんかで考えるなら、シェフの特性ソースとかだな、とろけサバの身にあったソースにたっぷりつけて、パンと一緒に食べるんだ。 

 

 そうだろ?そんなもんさ、だけど八百万は米を食わせる店だぜ?とろけサバの塩焼きに米・・・・・・・うん?想像上じゃ悪くはないなぁ。 

 

 悩むなぁ、他所の店も変わってきたって言うし、他の日だと八百万が何だすかわかったもんじゃない、とろけサバってこんな時でもなきゃ他の店に偵察になんざいけないし、でもこの八百万の列の並びようが妙に気にかかる。 

 

 美味いもんには飛びつくのがウェールズの人間だ、それでいて極親しい人間にだけひっそりと教えて、ゆっくり店が繁盛していく、八百万の場合噂を広めたのが5大英雄のあの人達だからなぁ、それ以外にも大物も何人も店まで足を運んでいる。 

 

 情報屋のトムソンは考える。 

 

 知らないって事は罪なんだ。 

 

 無知って人間は罪人なのさ、知っている人間だけが勝つ!この世を制するってな、だがとろけサバと知っていて飛び込む、一食無駄にするってのは気が引ける、人生一日に飯は三度、人生で飯を食う回数ってのは大なり小なり誤差はあれど、決まっているってもんで、食うって事は突き詰めれば快楽になる、幸せな時間てわけだ。 

 

 それを己の知識欲の為に一食無駄にしていいものか?飛び込んだ先の情報が確かな物なら財産となり、豚のしっぽを掴まされたら、俺はただの間抜けになる、情報てのは大抵がそういうもんだ。 

 

 ってたかが飯の話じゃねぇか!なんて考えながらもいつの間に並んで、悩んでいる内に列は進んでいく。 

 

 並んじまったもんは仕方ねぇと待っていると、俺の順番は意外と早く回ってきた。 

 

 ここの店は出すまでが早いから、回転もはやいのか、スルスル列が吸い込まれていく、さてそんなこんなで、とろけサバの味噌煮食わせてもらおうじゃねぇか。 

 

 白と赤が交じり合った様な、トロっとしたもんに包まれているとろけサバ、ショウガの細切りが添えられている。 

 

 すっかり箸の扱いにも慣れ、魚の身を箸で掴むとこれが柔らかい、タレに存分につけて口に放り込むとこれがしっとりホロホロに身がキュッとしている、んでもって甘じょっぱい味ととろけサバの油がじゅわぁっと口に広がる。 

 

 目をカッと開く!こりゃあ米が必要だ! 

 

 身を口にすると、米を口に突っ込む!少量で馬鹿みたいな量の米が食えちまう!味噌の甘じょっぱい味と魚の旨味が溶けて混ざって極上の美味さになってやがる! 

 

 ごっそりと豪勢に箸で身をかっさらうと口に頬張る! 

 

 こいつは豪勢だ!口の中いっぱいのとろけサバと味噌の味!鼻から良い香りが抜ける!豪華だ!十分に豪華で華やかさ満載に口の中を旨味が暴れまわり、怒涛のだんじり祭りを開催しながら、のどに消えていく。 

 

 こりゃ!他の店には確かにねぇ! 

 

 付け合わせの塩オクラを味わい、ひじきと人参とこんにゃくの煮物、サトイモとインゲン人参の煮物もあり、出汁の効いた厚焼き玉子まである。 

 

 ここでちょっといつもより、小鉢が多い事に気が付く、牛肉とこんにゃくの巾着にキャベツの漬物、豆腐にレンコンとサトイモのキムチまでついてやがる。 

 

 聞き耳を立てて聞いてみれば、斗真の旦那がとろけサバだけじゃお客さんが損に思うかもしれないと、とろけサバの時は小鉢が多めにつくとかって話だが、こいつはちょっとしたご馳走だぜ。 

 

 塩オクラがまたこりこりのトロトロで美味いわ、ひじきの煮物も米にあう!サトイモとインゲン、ニンジンの煮物もしっかり火が入っていてホクホクと美味い! 

 

 卵には少しの甘味があってこれもいい!牛肉とこんにゃくの巾着はじゅわっと出汁が染み出る!豆腐と醬油の大豆の旨味にキャベツの漬物はちょうどいい塩加減だ、サトイモとレンコンのキムチは食感と辛さもちょうどよく米がまたぐいぐいと進む! 

 

 こんだけ小鉢がついているのに、とろけサバの身もデデン!と量がある。 

 

 身のしっかりしている所もうまいのだが、ハラミの部分が極上でやばい!とろっとろで口の中でしんなりとろけていく!こんなに安い魚なのに!庶民の味方なのに!味はまじで国宝級に美味い!とけるのがやばくて癖になる!。 

 

 そのハラミの部分もちょこっとなんかじゃない、豪勢に切り取って、米の上に乗っけるの一気に口の中にかっこむ!! 

 

 とろとろとろける脂が米と味噌と絡み合って、口の中では力強い海の風味達が、神輿を運ぶかのように米と魚を喉奥に運んでいく!ソイヤ!ソイヤ!そいや!ソイヤ! 

 

 美味い!これほどの米と相性のいいものが他にあるだろうか?味噌煮も美味いが塩焼きにも興味が出始めた、ここの米ととろけサバの塩焼き一緒に食ったら、塩焼きもやばいんじゃないか?今までになかった味覚の扉をひらいちまうんじゃないか?八百万は生でも食えるってのが売りの店だ、刺身って手もある!おい夢が広がるなぁ。 

 

 塩味の丸くなった味噌に甘目の味が脂と絡む、口の中に入らないと表現の出来ない桃源郷を味わい、ただただうん!うん!と味わう。 

 

 この味噌ダレだけでも美味いのはわかってるんだ、でも魚の脂と絡まるともう米吸いお化けの様にいくらでも食える何かに変わっちまうんだ。 

 

 いつも普通に俺達が食ってる、とろけサバがこんなご馳走に変わっちまうなんて、小鉢も沢山ついて自分で焼いて食うのもいいけど、もうちょっと金だして八百万で食った方が全然いいじゃねぇか。 

 

 塩焼きで八百万で酒を一杯ってのもいいかもしれないなぁ。 

 

 夜の部には近づいた事のない八百万だが、今度夜によってみるのもいいかもしれない。 

 

 最近では夜も繁盛しているっていわれているし、内臓料理とやらも気になる、知らないよりは知っている方がいい。 

 

 

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