第36話一つの小さな噂から 黄金豚の家系ラーメン

 宿泊客の侯爵令嬢さん、システィーナ様だったかな?来た時は車いすに乗っていたけど、宿泊中に元気になったとかで、表情豊かで元気で綺麗なお嬢さんに変身していた。 

 

 それでも車いす生活だったからか、筋肉が衰えているので当分の間リハビリも兼ねて逗留していったのだけど、日に日に元気に力強くなっていくお嬢様に医者も舌を巻いたらしい。 

 

 衰えていた筋肉がこんなにも早く力を戻していく事は、まずないと言われ、温泉になにか秘密があるのか?食事になにか秘密があるのか?色々聞かれたけど、俺達は何もしていない。 

 

 お嬢様は八百万の食事を大層気に入って、お店にも足を運んでくれた。 

 

 今度侯爵家からお礼に食材を送るので、お店でつかってほしいと言われた。 

 

 お礼も何も普通に接待して、他特別な事はしていないが。 

 

 そういえば綺麗だったお嬢様が、途中からもっと美しくなったと言ってもいいレベルで可愛さとか見た目の綺麗さが格段にあがった気がしないでもない、周りの男どもがお嬢さんを見て息を呑み、緊張するくらいの美貌だったが、温泉の効果かなにかなのか? 

 

 兎に角、気持ちよく過ごせたのなら問題ないだろう。 

 

 それよりもここ最近の客層の方が気になっている。 

 

 お嬢さんが王都に帰って、数日、病人や持病があって完治の難しい人などがうちの店に並ぶようになった。 

 

 なんで知っているかって?そりゃ列を整理していて病人が並んでいたら気になるさ、聞けば侯爵令嬢の話が今王都で爆発的に話されていると言う。 

 

 あの美しいが難病に悩まされている侯爵令嬢、自らの家が薬師と錬金術師の大家なのに完治させる事が難しく、幾人の名医、神医が治療を諦めた、あの侯爵令嬢が完治して、そしてより健康に!美しくなって王都に凱旋した!! 

 

 ただ死を待つだけだった侯爵令嬢は、生きる事を諦め、口までもが麻痺で動かなくなる前に美食の数々を求めた!もうあと何か月否何日口が動くかもわからないなか、ウェールズの街に現れた宿、そして八百万亭を訪れ、そこで食事をすると驚く程簡単に令嬢の麻痺は解け、衰えた筋肉をつける為に、庭園を歩けば元気になり、宿の大浴場に浸かれば肌はより美しく!髪はより艶やかに!麻痺を隠すために強めに施した化粧で痛んだ肌を、もちもちのつるつる美肌に仕上げた!! 

 

 以前より美しく!以前より屈強に!しなやかに!張り巡る筋肉!お嬢様はより健康になり、八百万亭の遊戯の数々を楽しんで凱旋したお嬢様が言った言葉は、まさに桃源郷のような場所だったと! 

 

 そんなお嬢様を回復させた八百万亭!なんと主人はあの聖王国の教皇様自らが聖人認定を下し、我が国の5大英雄である、戦姫ニーア、鮮血の聖女クリスタ、笑う災害のフィガロ、海神ルーカス、天秤のギムレッドなどの英雄達が認め守っている超VIPで他にもS級やA級冒険者達からも信頼厚く、領主でもありSS級冒険者でもある、ラウンズのリーター、アーサーが頭を下げてでも私の領地で店を開いてほしいと言った程の人物で、他にも聖王国の教皇はもちろん、グラナダ・フォン・リナリア嬢やガウェイン・フォン・サードなどが好待遇で我が領地にと望まれているとか。 

 

 更には王家直属の従者部隊ナンバー3とナンバー6を護衛にする事を王家の方針で決めたと言う、超重要人物。 

 

 そう・・・・私です!!。 

 

 なんでか知らないうちに、そんな噂が広まり、病人が列に並ぶようになった。 

 

 俺のスキルは病人に効くようなスキルはなかったはずなんだけど、と病人用のスープを用意する。 

 

 病気の人にいきなり飯は出せない、だが何故か並ぶのもしんどい、つらいと言っている病人や車いすの患者さんが、うちのスープを飲むと完治するのだ、急に元気になって嘘みたいに調子が良くなる、そうなってくると今度は、腹が減るのだとか、何日も病気で寝ていたのなら、スープかおかゆだけにしとけばいいのだと思うのだが、スープを飲んだあと胃腸も強靭になるのか、とにかく飯やパンなどしっかりした物が食べたいといって、その日のランチを出すと、食べながら泣き始める客もいた。 

 

 もう自分は飯なんかも食えず、このまま死ぬのだろうと思っていたと、美味い美味いといい泣くのだ。 

 

 中には大金を置いてこうとする客もいたけど、うちは料理屋なんで差し入れの食材くらいなら受け取るけど、病気の治療費だっていうなら受け取らないよと言うと、あっちこっちから食材が届くようになった。 

 

 おかげで仕入れに出かける事も少なくなった、冷蔵庫だけだと腐って使い物にならなかっただろう、マジックボックスに感謝している。 

 

 この街の冒険者同士の結束や絆も他の街に比べると強いと言う。 

 

 八百万の夜の部に激安でモツと酒を販売しているんだけど、俺も気分が良くなると音楽を流したりする様になった。 

 

 曲の趣味を俺の趣味なのでかなり偏っているが、その中の一つの曲が客に受けた。 

 

 アニメの曲でファ〇リーと言う曲なのだが、これが冒険者に受けた。 

 

 それから冒険者同士による団結力が強固な物になっていき、街の住人にも浸透していき、衛兵なんかも口ずさむ様になってきて、この街自体が強い絆で出来上がり始めた。 

 

 新人冒険者に中堅が指導してやる事もあれば、熟練が中堅で燻っている連中にアドバイスしたり背中を押してやったりして、今までに無い、いい関係が築けていた。 

 

 一人が困っていたら、二人、四人、八人と力を貸すそんな関係だ。 

 

 今日も道端で誰かが口ずさむ、俺達はファ〇リーと。 

 

  さて今日はちょっと難しいラーメンに挑戦しよう、俺も大好きな家系というジャンルだ。 

 

 ラーメンは麺から自分で作ると、とても膨大な努力が必要で簡単には作れない。 

 

 黄金豚の骨、黄金に変わる前の栄養たっぷりの骨を、砕き髄が出やすい状態にしてガンガン煮る、他の店でも使っているかわからないけど、頭骨と脳みそなどもガンガン煮て骨がぼろぼろと崩れるほど煮る。 

 

 そこに青ネギの頭、王玉タマネギ、黄金豚のチャーシューも一緒に煮る。 

 

 ガンガン煮るのだが、これが凄い匂いで鼻の奥が痛くなるほど豚骨の豚の匂いを感じる。 

 

 かえしは醬油、砂糖、みりん、酒、千年昆布をこれでもかと入れて煮立たせ、灰汁をとり冷ます。 

 

 この千年昆布が素人でも美味いと思える醬油豚骨に導いてくれる、旨味成分の爆発させた様な美味さを感じるのだ。 

 

 はっきりいってプロのラーメン屋が異世界の食材を使ったらもっとぶっ飛んだ美味いラーメンを作る事は確かだ、それだけ素人でも具材で美味い家系ラーメンまで迫る事が出来る。 

 

 七色豚なんかは食材最高峰だけど、豚骨の出汁をとるのには向いていない、むしろ複雑になってえぐみや苦みなんかも出て来る可能性がある、それと味に一貫性がなくなり、一杯目と二杯目で味に違いが出たりと極端に扱いが難しい。 

 

 その点、宝石、鉱石シリーズの動物は、骨が宝石化、鉱石化する前の旨味を骨に集めている段階の物を使えば、それはもう美味い出汁がとれる。 

 

 問題の麺はここはプロにまかせた方がいいと思う。 

 

 小麦から自分で挑戦してもいいが、加水率によって麺のもちもち感なんかは変わってくるし、茹でる時にちぎれやすくボソボソになったりと、簡単にすぐ作る事は難しい。 

 

 拘りたいなら麺屋さんの麺の種類を何種類かいただいて、昆布水で食べて確認するのもいいだろう。 

 

 家系ラーメンなので中太麺のもちもちした麺を購入。 

 

 ノリを三枚、ほうれん草、チャーシューも3枚、味玉にネギ。 

 

 さてねねとリリとニーアさんなんだが、実は扉の前でこちらを見ている、匂いがきつくて近づけないんだろう。 

 

 窓とドア全開で換気すると、大部分の臭いにおいは消えていった。 

 

 これなら問題ない、ああっ鼻痛かった。 

 

 「おに~ちゃ~ん、しゅごい匂いだよ」 

 

 「私達にはまだ臭く感じます」 

 

 「はにゃ痛い」 

 

 「今日は家系の醬油豚骨ラーメンだよ」 

 

 「うん?この匂いなら美味しそうに感じる、お鍋は凄い匂いだったのに」 

 

 「本当だ、いい匂いになってる」 

 

 「ちょっと怖いなぁ」 

 

 「じゃあまずは俺が」 

 

 ズズズっうん!いい味だ!ガツンと感じる豚骨の味に、まろやかでキレのある醬油の味!普通に作ったらここまで作るのに相当労力を使ったはずだ。 

 

 後を引く感じもたまらないなぁ、麺の小麦感も感じれてくにくにと風味もいい! 

 

 まずは海苔とほうれん草と麺を掴んで、上ににんにくのすりおろしを少し載せて、すする!!。 

 

 むほほっ!これだよこれ!豚骨ににんにくにノリにほうれん草!特ににんにくが乗せた時とそうじゃない時とでは格段に味が変わる!このにんにくの痺れる感じもたまんない!。 

 

 そこに飯を食い、スープを飲む! 

 

 まだだ!今度は海苔をご飯に巻いて、ほうれん草、にんにくでガブリ!! 

 

 むほほほほっ!!うんまい!久々すぎて脳があまりの美味さにパニックになっている! 

 

 チャーシューも忘れちゃいかん!しっとり赤身の部分なのに脂の美味さをどことなく感じるチャーシュー!このとろけ具合がまた飯を誘うんだ! 

 

 全身に巡る!脳が痺れる美味さ! 

 

 そんで塩辛くなった口に、水を流し込む。 

 

 「ぷっは~さいっこう!!」 

 

 「ごくん・・・お兄ちゃんばっかり!私も食べる!」 

 

 「私も!!」 

 

 「私も食うぞ!」 

 

 ねねが思いっきりラーメンを吸い上げる。 

 

 「ズズ、うん!なにこれ!すっごい美味しい!あんなに臭かったのに、まろやかだよ!」 

 

 「本当!濃厚なのにすっきりしてる!」 

 

 「こいつは美味いぞ!この前のとは全然違う!濃い味なのにうんまい!後引く味だ!」 

 

 「にんにく・・・・臭いけど・・・・・美味い・・・・」 

 

 「なんでカタコトなの?」 

 

 「にんにく・・・・口・・・・臭くなる・・・・・美味い・・・」 

 

 「あぁなるほど、口がかぁ・・・でもちょっとだけなら・・・・うん!刺激的な味!ガラッと変わった!」 

 

 「個性と個性がぶつかってるみたい!美味しい!」 

 

 「あたしはにんにく好きだな!なんかわからんが罪悪感がはんぱなくって美味い!」 

 

 俺が米をただ指さすと、俺がやっていたみたいにみんなも食べ始めた。 

 

 「ごはんと合う!海苔もほうれん草も美味しいけど、やっぱりにんにくかなぁ?」 

 

 「チャーシューのとろとろ感とご飯!スープ!犯罪的です!」 

 

 「美味さの暴力だよ!これは!美味さでガツンと殴られてるみたいな美味さだ!」 

 

 ニーア・・・わかってるじゃないか、家系は暴力的に美味いんだ!高血圧の物を食べていると言う背徳感、抗いずらいクリーミーな旨味!水を飲み一旦落ち着くともう一度飲みたくなるスープ!腹がいっぱいなのに吐きそうって感覚じゃなく、謎の満足感と満腹感が体全体に広がり、昼寝前のふわふわした感覚に陥るのだ!! 

 

 「ラーメンまた食べたいってお客さん多かったけど、今回のは食べたらまた反響凄いだろうなぁ」 

 

 「そうね、前もまた作ってくれって言う人沢山いたものね」 

 

 「こんだけ美味いとそりゃあなぁ、なんで同じのつくらないんだろうな」 

 

 「同じの作ってもいいけど、そればっかりになるのは嫌だなとおもって、そろそろまたトンカツとか作ろうかな、この前のとは別の豚で」 

 

 「それいいかも、材料ちがければまた味も変わりそうだし」 

 

 豚も牛も種類多いからな、別の豚とか使うだけでもかなり変わると思う。

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