第33話・クリムゾン・ミノタウロス

 ロジエの迷宮ランク1。出てきた魔物は星1の雑魚ばかりだったのでガンガン進み、お昼頃には最新部の5層に到着。ボス部屋の目の前にある安全地帯でアシュリーさんが収納袋からお昼ご飯を取り出してくれた。


「お昼はミックスハサミか!」

「美味しい」

「おふたりともすごい勢いで食べてますね」

「あれ? 僕も結構食べている気がするよ」

「リードスさん、それは言ったらダメです」


 ガツガツと勢いよくミックスハサミサンドイッチを食べるルナとゼノン。影が薄い事を気にしているリードスさんは苦笑いを浮かべてあるが周りはあまり気にしてくれない。

 

(リードスさんは泣いていいかもしれない)


 武術の腕は確かで能力もあるのに影が薄い残念イケメン。属性を並べると濃い気がするが今のメンツには負けるみたいだ。


「ま、まぁ、最後はボス戦だし気合を入れて行こうか」

「リードス様、自分の影が薄い事を誤魔化してませんか?」

「アシュリー様、それは言わないでください!」

「それよりもミックスハサミをおかわり!」

「僕も!」

「じゃあ自分は紅茶を貰いますね」

「ええ……。なんかみんなの反応を見て泣きたくなってきた」


 やりたい放題の俺達を見た通りかかった若手の冒険者は目が点になっているが無視してくつろぐ。

 そして綺麗に食べ終わったので片付けをした後、装備を背負い直してボス部屋の前に立つ。


「ここのボスはパープルダッシュキャタピラーだよ」

「パープルダッシュキャタピラー?」

「さっきのグリーンキャタピラーを大きくして肌色も紫になったボスですね」

「そうだね。まあ、ボスと言ってもそこまで強くないし大丈夫だと思うよ」

「なら、さっさと入ろうぜ!」


 俺は何か忘れている気がするがゼノン達は勢いよくボス部屋に侵入。部屋の中心には赤い魔法陣があり……ん? !?


(しまった!? なんでコレを忘れていたんだ!)


 迷宮のボスは通常ボスが出現する青色の魔法陣と3%の確率で現れるレアボスの黄色い魔法陣。基本的にこの2種なのだが0.1%くらいの確率で赤い魔法陣……普通では現れない強力なイレギュラーボスが現れる。

 

「赤い魔法陣なんて見た事ないよ」

「え? 赤いのが普通じゃないのか?」

「ゼノン様、ボスの魔法陣は青色が普通ですよ」

「じゃあなんで赤い魔法陣が現れているんだ?」

「それは私にもわかりません」


 リードスさんとアシュリーさんはパニック気味だ。対するゼノンとルナは楽観的に考えており余裕そうに武器を振り回していた。


「ザコボスなんて僕が倒す!」

「いや、オレだ!」


 なんかルナとゼノンが言い合っており今にでも駆け出しそうだ。対するリードスさんとアシュリーさんの顔は真っ青でガクガク震えている。


「なんだこのプレッシャーは!?」

「震えが止まらないです」


 赤い魔法陣から感じるプレッシャーをモロに受けており、俺も片手剣を引き抜き構える。


(何か来る!?)


 真っ赤に光る魔法陣の中から現れたのは身長3メートルくらいで筋骨隆々な体に牛みたいな顔をした魔物。ゲームではミノタウロスと呼ばれており強力な近接攻撃を繰り出す強いモブだった。


(おいおい、クリムゾン・ミノタウロスじゃん!?)


『旋律の勇者と煌めく戦乙女』では隠しボスの一体であるクリムゾン・ミノタウロス。さっきの特徴以外にも真っ赤な皮膚に大きな戦斧を持っておりゲームでは星4プラス相当の隠しボスだ。前に戦った星4のモブ魔物であるサーベルタイガーと同じレベルだがこっちは隠しボスなのでステータス的には差がある。


「リードスさん、あれの何処がキャタピラーなんだよ!?」

「それは……今はそれどころじゃない!」

「「え?」」

「ゼノン様、ルナ様、申し訳ありません!」

「グレイ君も逃げるよ!」


 アシュリーさんはゼノンとルナを無理矢理担ぎ上げた。俺もリードスさんに腕を掴まれる。

 このままボス部屋から脱出しようとしているみたいだが半透明の結界に体が弾かれた。


「なっ!? なんで出れないんだ!」


 おそらく逃げられない仕掛けがされている。それしか思いつかないので頭の中で色々考えているとクリムゾン・ミノタウロスが吠えた。


《ブモオォ!》

(まずい!?)


 ゲームの時も見た息を大きく吸い込む動作。俺はリードスさんに掴まれた腕を無理矢理解いて防御魔法を発動する。


「水城壁!」


 俺が今使える水魔法の中で最高の防御力を誇る水城壁。この魔法は上位魔法で俺の前には滝みたいな壁が形成された。


『ブモォ!』

「ぐうぅ!」

「ご主人様!」


 クリムゾン・ミノタウロスが放ったのは火属性のブレスで、口から勢いよく炎を吐いておりかなり強力だ。


(持ち堪えられるか?)


 属性の相性的にはコチラの方が有利だかステータスではおそらくクリムゾン・ミノタウロスの方が上だ。

 俺が作った水の壁も相手の炎の吐息を受けてドンドン押されていく。


「属性相性はグレイ君の方が有利なのに押されているのか!?」

「先生! オレ達も攻めようぜ!!」

「ゼノン様、今は動かない方がいいです!」


 直撃こそ俺の水魔法で防いでいるが、防御陣の外に出るとダメージを負う可能性がある。なので相手の吐息が終わるまでなんとか耐え忍ぶ。


「クソ!」

「ご、ご主人様!」


 クリムゾン・ミノタウロスの吐息が終わった時、周りの温度は上がっており水蒸気が上がっていた。

 俺はすぐさまポーチから魔力ポーションを取り出して飲み干す。


(流石にマズイな)


 ランク1の迷宮ならレアボスでもそこまで強くない。その油断がイレギュラーボスの可能性を消していた。俺はその事を思って悔しくなって拳を握り締める。


「とりあえずアイツを倒さないと出れないようだね」

「なら、僕達で総攻撃をしかけましょう!」

「そうだな! オレ達が力を合わせれば倒せるだろ!」

「では私の合図で攻めますよ!」

「ちょ、お前ら何を言っているんだ!?」


 ゼノン達は焦りからなのかマトモな判断ができていない。その結果、武器を構えて突撃を仕掛けたので俺はなんとか立ち上がり後を追う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る