第26話・メインヒロイン
大柄でスキンヘッドの男性に案内された俺とアシュリーさんは応接室の中に入る。
「すぐに商人を呼んで来るぜ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
いかつい男性が部屋から出て行ったので俺はソファに座りアシュリーさんの方を見る。
「まさかグレイ様が奴隷に興味を持たれるとは……」
「別にクロッカス王国では奴隷は合法ですよね」
「ええ、このお店も場所的にしっかり許可を取られている場所だと思います」
もはや呆れて物が言えない雰囲気になっているアシュリーさんを他所に待つ。少しして痩せ気味の男性と先程の狐耳の少女が一緒に入ってきた。
「お待たせしました! 私の名前はバエド、このダブロス奴隷商に勤めている商人です」
「ありがとうございます。僕の名前はグレイです」
「アシュリーです」
なかなか食えない表情を浮かべているバエドさん。まあ、ここで面倒なやり取りは時間の無駄なので切り込む。
「あの、その金髪の獣人の名前はなんですか?」
「彼女の名前はルナですよ」
(やっぱりそうか!)
俺の予想通り彼女の名前はルナだった。そう考えるとここで購入出来るのはかなり大きいので早速値段交渉を始める。
「それで値段の方はおいくらですか?」
「うーん、獣人族の少女なので金貨3枚くらいですね」
「奴隷の相場は金貨1枚なのに彼女は金貨3枚もするのですね」
「!? それを知ってましたか……」
アシュリーさんのツッコミでバエドさんは冷や汗を流し始めた。
(まさかぼったくろうとしていたのか?)
確かに世間知らずの金持ちのガキとメイドなら騙せる。そう考えるとイラッと来るが、正直金貨3枚出しても欲しい戦力ではある。
「まさか私達を騙そうとしていたのですか?」
「そ、それは! も、申し訳ありません」
かなりイラついているのか果敢に攻めるアシュリーさんと平謝りをするバエドさん。
このままだと話が長くなりそうなので俺は口を開く。
「あの、適正価格はおいくらなのですか?」
「て、適正価格は金貨1枚と銀貨20枚と考えてます」
「その言葉に嘘はないですか?」
「もちろんです!」
この状況を打開したいのか焦って言葉を口走るバエドさんを見た俺は皮袋から金貨2枚を取り出す。
アシュリーさんは責め足りなかったのか不機嫌だがここは我慢してもらう。
「では、その価格で購入します」
「へ?」
適正価格を聞いた瞬間にお金を出した俺にバエドさんは目をぱちくりさせている。
(さっさとこんなところは出たいんだが)
固まっているバエドさんは数分後に復帰。目の前に置かれた金貨2枚を受け取り立ち上がった。
「で、では! 契約成立ですね!」
重たい空気から脱出したかったのかバエドさんは深く頷いた。そしてお釣りの銀貨80枚を貰った後、使用人が新しい奴隷の首輪を持ってきた。
「えっと?」
「あ、奴隷の説明がまだでしたね」
(この人、大丈夫か?)
商人としては赤点レベルのバエドさんを見た俺は思わずため息を吐きそうになる。だが今はルナとの契約が大切なので彼から説明を聞く。
「まず奴隷の扱いですが主人の思うように使ってもらって構いません。ただし主人が死んだ時は解放宣言がされてない限り奴隷商に戻ってくる事になります」
「そ、そうなのですね」
「ええ、他には奴隷は基本的に主人に絶対服従で反抗すると首につけている首輪が締まります」
この内容を聞くだけで薄い本が出来そうだ。俺は違う事を考えているとバエドさんが微妙な笑顔を浮かべた。
「まあ、大まかな点はこんな感じですが質問はありますか?」
「いえ大丈夫です」
特に問題がなかったので俺はバエドさんに向かって頷き。ルナとの奴隷契約を結び建物から出て行く。
ーーーー
ルナが来ていたのはボロボロのワンピースみたいな服。俺は流石にまずいと思って周りを見ると服屋があったのでアシュリーさんに頼んで一式揃えてもらう。
(ここでルナを買えたのは大きいな)
ルナの年齢は主人公の2個上だ。年号的に俺と主人公は同じ年齢なので彼女の方が年上になる。
「まあ、アシュリーさんには申し訳ない事をしたな」
さっきからアシュリーさんを振り回しているが、彼女はクールなまま手伝ってくれる。俺はアシュリーさんに感謝しながらベンチに座る。
「さてとこれからだな」
メインヒロインの1人である獣人族の少女ルナ。彼女を購入する事でストーリーにズレが生じるかもしれない。
俺はその事を考えながら空を見上げているとアシュリーさんの声が耳に届く。
「グレイ様、買い物は終わりました」
「ありがとうございます!」
振り向くと茶色いシャツに狐の尻尾に合わせたズボンを履いているルナ。靴はブーツっぽいのでザ・平民みたいな服装に見える。
「普通に可愛いな」
「!?」
ゲームの画面で見るよりも可愛く見える。俺はロリコンではないので彼女の成長した姿を考えてみているとルナが口を開く。
「あの、しゃべっても大丈夫ですか?」
「あ、別にいいし敬語もいらないよ」
「わかった! じゃあ普通に話すね」
最初は緊張していた面持ちでコチラを見てきたが、優しく返答するとルナは笑顔を浮かべた。
「えっとご主人様の名前は?」
「俺の名前はグレイだよ」
「グレイ様! カッコいい名前ですね」
俺の名前を呼んだルナは可愛い笑顔のまま頷いていた。その後は互いに軽い自己紹介をして街の中を歩く。
(そういえばルナの能力を知りたいな)
ゲームでの職業は獣戦士で前衛アタッカーだったはずだ。まあ、女性の獣戦士なら他にもいるのだがルナには他とは違う能力を持っている。
(確かルナには特殊な能力があったんだよな)
特殊能力がルナの持ち味でこの能力がヒロインたる所以。俺はその事を思い出しながら教会に向かって歩き始める。
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