第25話・新たな出会い(前)

 次の日。ギルム様から明日には書類が完成すると言われたのでカシャ村に帰るのは明後日になりそうだ。


「もしかしてグレイは帰るのか?」

「もちろん帰るぞ」

「そうか……」

「ええ!? グレイにぃは帰るの……」


 見るからに沈んだ表情を浮かべるゼノンとメルナを見た俺は頭に手を置いて撫でる。ゼノンの方は恥ずかしくしていたが受け入れてメルナは嬉しそうにしていた。


「また来るから大丈夫だ」

「本当に来てくれるの!」

「ああ」

「なら次に会う時はお前に勝つからな!」


 次に会える時の事を思い浮かべているのか、ゼノンは笑顔を浮かべた。


(まあ、問題はこの屋敷に入れるかどうだよな)


 まず貴族街に入る時に検問があり、さらにシフール辺境伯の家の前には見張りがいる。

 

「まさかゼノンとメルナがここまで懐くとはな」


 朝食の場で寂しそうな表情を浮かべているギルム様を見て居た堪れなくなる。俺はギルム様の表情を横目で見た後、残ったデザートを食べて立ち上がった。


「では今日は街を歩きます」

「そうか……なら、アシュリー。グレイの護衛を頼むぞ」

「え?」

「はい! わかりました」

  

 アシュリーさんはメイドですよね。俺はやる気満々なアシュリーさんを横目で見ながら目を見開く。


「アシュリーさん?」

「グレイ様、私の加護はバトルメイドなので護衛としてお使いください」

「いや、アシュリーさんの仕事は大丈夫なのですか?」

「その辺は部下や執事長が何とかすると思いますよ」


 なんか突っ込むと負けな気がするのでこれ以上はスルー。すると隣で座っていたゼノンとメルナが羨ましそうにコチラを見る。


「父上! オレも一緒に行きたいです!」

「わたしも行きたい!」

「こらこら、お前達は勉強があるだろ」

「うぐっ、で、ではグレイが明日行く迷宮には同行しますよ!」

「それもダメだ! お前はまだ8歳なんだぞ」

「グレイも8歳です!」


 なんかゼノンとギルム様の言い合いがヒートアップしてきた。俺は何とか止めようとした時、ギルム様の隣に座っている女性が口を開く。


「アナタ、何でもかんでも否定するのは良くないですよ」

「それは……だが迷宮は危ないところだぞ」

「別にウチの護衛をつければ大丈夫だと思います」


 豪華なドレスを着ているギルム様の奥様。おそらく正妻の方なのかギルム様は言い返せてない。


(ギルム様も苦労されているな)


 2人の言い合いは奥様が勝利したみたいでギルム様はガックリ肩を落とした。それを見た俺は巻き込まれないように大部屋から出て行く。


 ーーーー


 辺境都市ロジエの平民街。俺とアシュリーさんは平民が着る布の服に皮のブーツを履いて街を探索していた。


「ここが街1番の市場ですか」

「ええ、色んな物が揃ってますよ」


 見た感じ新鮮や野菜やお肉、他には屋台の料理など美味しそうな物が揃っていた。

 俺はアシュリーさんに連れられて周りをキョロキョロも見ていると商店街の端に到着。もう一周見ようかなと悩んでいた時、建物の前に大きな馬車が止まっているのを見つける。


「お前ら着いたぞ!」

「キャァ!?」


 大柄の男性が手に持っているのは銀色の鎖。その先には5人ほどの少女が黒い首輪をつけており無理やり引っ張られていた。


(奴隷か)


 ゲームでは名前だけ存在していた奴隷。購入はできなかったが悪徳奴隷商人を倒すサブストーリーもあり俺も覚えがある。


「グレイ様、ここから離れた方が良さそうです」

「そうですね」


 これ以上ジロジロと見ていると目をつけられてしまうので離れようとした時、金色に狐耳をした少女が目に入る。


(なっ!? あの顔はまさか!)


 俺は見た事がある顔を目にした時、まるで雷に打たれたような感覚に陥る。その相手はゲームのメインキャラの1人であり辛い過去をもつ獣人の少女だ。


(ゲームの時よりは幼いがアイツは確実にルナだよな)


 狐耳の少女で名前はルナ。彼女は前衛アタッカーとしては他のキャラと比較しても頭ひとつ抜けており個人的に欲しい人材だ。


「あの、どうされましたか?」

「あのアシュリーさん。あの金髪の女の子が欲しいです!」

「へ……。ええ!?」


 隣にいたアシュリーさんが驚いた表情を浮かべるが、俺はそんな事は気にせずに言葉を発する。


「申し訳ないですがもう1人増えそうです」

「それは、まあ、グレイ様が欲しいなら仕方ないですね」

「ありがとうございます!」


 明らか動揺しているアシュリーさんを連れて奴隷を連れている大柄の男性に声をかける。


「あの、すみません!」

「ん? なんだ坊主?」

「そこにいる金髪の獣人が欲しいのですがおいくらですか?」

「あー、お前さんはお金を持っているのか?」


 奴隷商人のもっともな意見を聞いた俺は、腰につけている皮袋から他の人に見えない角度で金貨を取り出す。


「これでどうですか?」

「どこかの金持ちのガキか」


 金貨を見て目の色を変えた大柄の男性は笑顔を浮かべた。俺は戸惑うアシュリーさんと共に大柄の男性に案内されて建物の中に入る。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る