森国ユグドラと『神聖大樹』①
森国ユグドラへの道を歩き、近づくにつれ……ハイセは、妙な物を見た。
「……なんだ、あれ?」
やや高台の場所で見えたのは、森国ユグドラ。
そして、ユグドラの近くにある、国一つ覆い尽くせそうな『大樹』だ。
デカい。とにかくデカい木だ。樹齢百年、千年……いや、数万年はあるんじゃないかという、巨大な木。天にまで届きそうな大きさの木に、ハイセは驚いていた。
「あなた、知らないの?」
「あ?」
「あれ、『
「…………は?」
その名は、四大クランの一つ。
エルフの国にして森の国であるユグドラを拠点とする、亜人種族が多く在籍するクラン。
プレセアは、ハイセの顔を見て言う。
「S級冒険者でも、あなたみたいななりたてじゃない。四大クランを運営するS級冒険者四人は、『
「…………」
「あの木、アイビス様が《能力》で生み出したものなんだって」
「マジ?」
淡々と言うプレセアだが、どこかキラキラした眼をしていた。
ハイセは特に興味がないが呟く。
「四大クラン、か」
◇◇◇◇◇
四大クラン。
クランとは、S級冒険者のみ作ることができる、冒険者チームを傘下におくことができる組織。世界には百以上のクランが存在するが、数あるクランの中でも最大規模で、ひとつに国に匹敵する規模を持つのが四大クランだ。
東方に位置する、亜人種族が多く所属する『
北方に位置する、人間界最大の歓楽街を経営する『
南方に位置する、ドワーフ族のみで運営される最大の鉱石発掘集団『
西方に位置する、人間のみ、そして刀剣に関する《能力》を持つ者のみが加入を許される『セイファート聖騎士団』
この四つを、四大クランと呼ぶ。
「……サーシャは、こんな規模のクランをねぇ」
「サーシャ?」
「お前には関係ない」
ハイセは、ポケットから手紙を取り出す。
「ガイストさん、すごい人と知り合いなんだな……」
とりあえず、ユグドラに入国してから『
◇◇◇◇◇
正門で冒険者カードを見せ(案の定、驚かれた)入国。
すぐに依頼を───ではなく、ハイセは宿を取った。
プレセアも同じ宿を取り、二人は町へ。
「有料で案内するけど」
「いらない。適当にブラついて、メシ食う」
「そ」
特に文句はないらしく、プレセアは無言でハイセの隣を歩く。
宿を出て、すぐに気付いた。
「それにしても、エルフ……は当たり前か。亜人種族が多いな」
「森国ユグドラは亜人種の国だからね」
エルフが最も多い。
獣の特徴を持つ獣人や、背中に翼の生えた翼人なども多くいた。そして、人間が最も少ない。
町も、木造建築がほとんどだ。自然が多く、国の中を多くの川が流れている。渡し舟などもあり、物資を船で運んでいるのも見えた。
城下町の中央には、高級宿や飲食店、冒険者ギルドがあった。
「せっかくだ。ギルドに依頼の確認だけしておくか」
「…………」
「……? どうした」
「別に。私、ここで待ってるから」
プレセアの姿がいきなり消えた。
『精霊』の力で姿を隠したようだ。
ハイセは首を傾げたが、特に気にすることなく冒険者ギルド内へ。
ギルド内は、エルフや亜人種の冒険者で溢れていた。
「おい、見ろ……」「人間……」「一人か?」
「ガキじゃねぇか」「ソロかね?」
ハイセを見るなり、周りからの視線を感じた。
ハイセは無視し、受付カウンターへ。
中年の受付嬢に、ハイベルグ王国からの依頼書と冒険者カードを見せる。
確認した中年受付嬢は目を見開いた。
「は、ハイベルグ王国からの依頼!? しかも、え、S級冒険者……!?」
「依頼は明日以降取り掛かる。手続きだけよろしく」
「は、はい……」
S級冒険者。
その言葉に、ギルド内がざわつく。
ハイセを値踏みする視線が多数、馬鹿にするような、侮蔑するような視線も多い。
だが、ハイセは無視。こういう視線は慣れていた……が。
「おいおいおい、S級冒険者だと? ガキじゃねぇか。偽造カードじゃねぇのか!?」
と、牛の獣人とその仲間たちが笑っていた。
ハイセはチラッと見るが、それだけ。
「あぁん? おいガキ、なんだその眼は」
「…………」
「は、こんなガキがS級冒険者とはな。人間のは見る眼がねぇぜ」
受付嬢が書類を確認し戻ってきた。
「依頼は受理されました。こちら、霊峰ガガジアへの入山証です。あの……おひとりですか?」
「あー……いや、もう一人いる。外で待ってる」
「わかりました。その入山証を見せれば入山できます。霊峰ガガジアは東門から行けますので、東門を管理する『
「挨拶?」
「ええ。『
「まぁ、わかりました」
「ガキ、無視すんじゃねぇ!! ───っっこ、が」
と、牛獣人がいきなり喉を押さえ、バタバタ苦しみだした。
ハイセはそれを無視して素通り。牛獣人の仲間たちが倒れた牛獣人を介抱している間にギルドを出た。
すると、ハイセの隣にプレセアが現れた。
「あれ、お前だろ」
「ま、そうね。精霊にお願いして、首を絞めただけ」
「……やっぱり聴いてたのか、会話」
「ええ。ありがとね」
「何が?」
「入山、聞かれた時に私のことも言ってくれた」
「…………さて、メシでも食うか。この辺、いい匂いするし……なんだか甘いの食べたいな」
「独り言。『あんみつ通り』に、おいしいスイーツの店が多く並ぶエリアがある。ここから西の通り」
「…………」
ハイセは、西の通りに向かって歩きだし、その隣にはプレセアが並んだ。
◇◇◇◇◇
その日の夜。
ハイセは、自分の部屋で古文書を読んでいた。
「…………ふむ」
この古文書は、拾い物。
だが、どうも自分に縁があるような気がして手放せない。あの場で出会うことが運命だったような気さえして、今はどこへ行くにも必ず持ち歩いている。
理解できたページは三ページ。そこに書いてあったのは、『
書かれていた言葉は、『エイゴ』という異世界の文字。
どういうわけなのか、ハイセは『エイゴ』を少しだけ理解できた。この古文書を書いたのが、ハイセと同じ『
「───……!」
そして、いくつかのページを理解できた。
試しに、部屋で能力を使用してみると、完全に『武器』を具現化できた。どうやらハイセは、異世界の武器を完全に理解することで、具現化できるようだ。
「試し打ちは───まぁ、明日でいいか」
明日は、霊峰ガガジアへ向かう。
そこなら、いくらでも『的』がいるだろう。
「訓練も、しないとな」
初めて生み出した武器は、
その後、デザートイーグルを、そして
独学で射撃訓練を行い、ガイストに体術をより深く習い、ハイセは強くなった。
「よし……」
ハイセは、新しく産み出した銃をいじり出した。
◇◇◇◇◇
翌日。
朝食を食べ、ハイセとプレセアは東門へ。
「……すごいな」
「ええ」
東門から見えたのは、『
思い切り見上げなくては全貌が見えないほどの大きさだ。
たった今気付いたが、東門は大樹を巻き込むように設置されている。門の傍にはエルフの守衛が二人いた。
ハイセは、冒険者カードと、ガイストの手紙を守衛に見せる。
「S級冒険者のハイセだ。ハイベルグ王国からの依頼で、霊峰ガガジアに入る。この先に行かせてくれ。ああこれ、俺の知り合いがおたくのところのクランマスターに、って」
確認したエルフが目を見開き、ペコペコして詰所へ消えた。
それから数分後、慌てたように、初老のエルフがやって来る。
「こ、これはこれは。ガイスト様のお弟子様とは……お待たせして申し訳ございません。ささ、こちらへ」
「え? ああいや、ここを通りたいだけで……手紙は、ガイストさんの知り合いだから、弟子の俺が通りますよって、教えておこうと思っただけで……」
「さささ、どうぞどうぞ!! クランマスターがお待ちです!!」
「え、えっと」
ちょっと面倒なことになったな。と、ハイセは思った。
ガイストは「力になってくれるかも」という意味で手紙を渡したのだが、特に助力は必要なかったので、「ガイストの知り合いです。この先に進みます」という意味合いで見せた。
だが、まさかクランマスターに呼ばれるとは思っていなかった。
「さささ、さぁ!!」
「あ、ああはい。わかった、わかりました。用事あるんで五分だけなら」
初老のエルフの剣幕に押され、仕方なく着いて行くことにした。
「……私、ここにいるから」
プレセアは、着いてこなかった。
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