石造りの部屋

 鍵穴なんてない。それなのにドアの壁面に鍵をと抵抗なく沈んでいった。そのまま鍵を左に回すとかちりと解錠された感触があった。

 ドアを開けるとそこは石造りの古びた建物の中だった。

 星空が見える大きな天窓、冷たい石壁。煌々と燃える暖炉。ロッキングチェア。木製の小さな椅子と小さな丸テーブル。その上にはアップルパイ、ナイフとフォーク、赤ワインとワイングラス、ナプキン、キャンドル、そしてまた別の鍵が置いてある。

 椅子に座り、アップルパイを食べた。グラスに赤ワインを注ぎ一口含む。

 まずい。

 ナプキンで口を拭い、暫く何もしないでじっとしていた。

 テーブルの上の鍵を持ってドアの前に立った。のドアにはちゃんと鍵穴が付いている。

 鼻から長く息を吸い、口から長く吐いた。

 俺ならやれる、と強く自分に言い聞かせた。

 鍵を差し込み左に回した。ドアが開く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る