第9話 雨

次の日は朝から予報通りの雨が降っていた。

「さいあく…」

窓の外を見ながら千珠琉は呟いた。

(まあでも夜までにやむかもしれないし…)

諦めずに雨がやむのを待つことにした。

しかし、期待も虚しく夜になっても雨はやまなかった。


【残念だけど、中止だね】

溜息をきながらメッセージを打つ。

泣き顔のスタンプも送る。

すぐに既読になる。

【流星群はダメだけど、少し会う?】

「………。」

昴からのメッセージへの返信に少し迷った。

会いたい気持ちはもちろんある、しかしまだ怖い。流れ星の後押しがあれば会っても大丈夫な気がしたし、流れ星に自分の気持ちを願えた。それが無くなってしまった。

【雨だし、やめとく】

そう打って、“ごめん”のスタンプも送って座っていたベッドに背中からダイブした。

(流れ星見たいって言ったからダメだったのかな?…でも口に出してない。文字だけだよ。)

その日はそのまま眠りについてしまった。


翌朝はまた、昴の原付がバイトに行く音が窓の外から聞こえてきた。

(また早番なのに付き合ってくれようとしたんだ…。)

ベッドの中にいた千珠琉は半分夢の中のような意識だったが、昴の優しさをあらためて実感していた。


(意地悪言っても付き合ってくれるところが好き。)


(意地悪言ってくるところが本当は好き。)


(ぺピコ半分くれるところが好き。)


(いつも一緒に学校行ってくれるのが好き。)


(笑顔が好き。)


(困った顔も好き。)



(昴…いなくならないでよ…。)


抱いていた枕に顔を押し付けた。



それから数日雨が降り続いた。

テレビでは極大日ピークを過ぎても何日かは流れ星が見られると言っていたが、それももう厳しいかもしれない。

この時期の雨は夏の終わりが近づいていることも感じさせ、ネガティブな気持ちになってしまう。

“ 昴とずっと仲良く一緒にいられますように”

ほんの数日前までは当たり前に叶うものだと思っていた願いごとが、急に神様から見放されて絶対叶わないものになってしまったように感じる。昴もバイトが忙しいのか、とくに何も言ってこない。

次に会ったら泣いてしまうかもしれない、怒ってしまうかもしれない。兎に角みっともなく引き留めない自信がないので、このまま会わずに終えた方が良いのかもしれない…などと弱気に考え始めた頃、昴からメッセージが届いた。


【明日の夜、流れ星見に行かない?】

意外な内容に少し戸惑う。

(流れ星?この前のはもう見れないんじゃない…?)

【また流星群あるの?】

そんな情報は千珠琉の耳には届いていない。

【違う】

よくわからないメッセージにさらに戸惑う。

【この前の流星群はもう終わったよ??】

“?”を浮かべたうさぎが首をかしげたスタンプを送る。

【まー俺に任せて。絶対流れ星見れるから。じゃ、明日あした夜な!】

“グッ”と親指を立てた宇宙人のスタンプと“またね”と書かれたUFOのスタンプが連続で送られてきた。

なんだかよくわからないうちに、昴のペースに飲まれるように会う約束をしてしまった。

(絶対見れる流れ星…?)

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