第3話
そんなこんなで気がつけば、運命の日まで残り十二日になっていた。もう二週間を切っている。このままじゃ十二日後には殺される。
しかし、レベルの低い魔物や、同レベルくらいの魔物がいるダンジョンにもぐっても、俺のレベルはぜんぜんあがらない。
だったらもう、いっそのこと自分よりもレベルの高い魔物がいるダンジョンにもぐってみて、強引にでもレベルをあげていくしかない! 俺には、その方法しか思いつかなかった!
そうして俺は、都市内にある『失われた洞窟』という名の石碑に触れて、格上の魔物がいるダンジョンにもぐることにした。
その名のとおり、ここは洞窟型の構造をしたダンジョンだ。どこを見渡しても石の壁に囲まれていて、壁面からは宝石のようなきれいな青い光が放たれているので、視界はそこまで悪くない。
『失われた洞窟』は第五階層まである。他の冒険者の手によって既にダンジョンボスは倒されているので攻略済みだ。
そして現在、俺は足を踏み入れた『失われた洞窟』のなかを全力で逆走していた。
とにかく走って、走って、走りまくって足を動かす!
汗まみれになりながら、頭のなかで念じることで自分のステータスを確認。
【光城 涼介】
レベル:10
HP:140/1200
MP:800/800
攻撃力:190
耐久力:170
敏捷性:180
体力:160
知力:120
ステータスオープンって口にしなくても、念じるだけでステータスは頭のなかに自動的に表示される。それでもステータスオープンって口にする冒険者はいるみたいだが。
こうやって確認できるのは自身のステータスだけで、他の冒険者のステータスを覗き見ることはできない。実際に何度か他の冒険者のステータスを覗けないか試してみたが、何も表示されなかった。
ただし武器やアクセサリーなどは、ステータスの能力で性能を確認できる。魔物に関しても、名前とレベル、それから簡単な特徴だけなら確認することができる。
武器や魔物のことを調べることを、冒険者たちは鑑定と呼んでいるようだ。
自分のステータスの『HP:140/1200』という項目をチェックすると、焦りが募った。この数値がゼロになった瞬間に、生命活動を絶たれると思うと、心臓が騒音を奏でてくる。
このままじゃ、運命の日を待たずして死んじまう!
『失われた洞窟』に踏み込んで、なかなか魔物とエンカウントしないまま第一階層の奥のほうまで進んでいったら、ようやく魔物と出会うことができた。
格上の魔物との遭遇は、このゲーム世界に来てからはじめてだ。緊張で首を締めつけられているような気分になったよ。それでも勇気を振りしぼって挑む。無理やりにでもレベルアップしなきゃいけないんだ。
やってやる!
自分を奮い立たせて、ロングソードを握りしめて魔物に立ち向かった!
その結果、こうして俺は死にかけて、無様に絶賛逃走中だ。
まさか、たった一発殴られただけで、ここまでライフが削られるなんて思っていなかったよ。確かに殴られた背中はめっちゃ痛かったけど。装着した鎧がなかったら、背骨が砕かれてポックリいっていた。
自分よりも格上の魔物を倒してレベルアップする予定だったが、そもそも自分よりも強いんじゃ手に負えねぇ! 冷静に考えたら当たり前だね! でも、死にゲーだと自分よりも強いヤツなんてしょっちゅうそのへんにゴロゴロいるから、イケるって思ったんだよ!
さっきから追跡してくる魔物の足音が耳につく。後ろから向けられる殺気を感じ取って、背筋に悪寒が走った。
ゲームみたいに『逃げる』のコマンドを選んで、強制的に戦闘を終えることはできない。ここじゃあ逃げようとしても魔物がしつこく追いかけてくる。
どうにかして、この窮地を脱する方法はないか? 半ばヤケクソになりつつ、ステータスの他にもスキルをチェックする。
【無形の武装】
レベルに応じてオリジナルの武装を具現化できる。
使用の際には、武装によって消費MPが異なる。
これが、光城涼介の持つユニークスキルだ。
最初に発見したときは、もしかして強力なスキルだったりするのかもって期待したが……。
頭のなかでスキルを選択してみても。
『具現化できる武装がありません』
そう表示がされるだけだった。
スキルを持っていても、使えないんじゃ意味がねぇよ!
そういえば『ラスメモ』で殺されるときも、光城涼介はスキルを使っていなかったな。おそらく最後まで、このスキルを使いこなせなかったんだろう。
このままだと、俺も光城涼介と同じ運命をたどる! いや、自分の実力に見合わないダンジョンに踏み込んだせいで、ゲームシナリオよりも早い段階で命を落とす!
そんな最悪を現実のものとするように、洞窟内の壁面を震わせる咆哮が真後ろから轟いてきた。
「もう追いついてきやがった!」
相手は俺よりも格上だ。スピードだって速い。追いつかれて当然。
直線だった通路を駆け抜けてひらけた場所に出ると、足を止めて背後を振り返る。
これだけ全力疾走しても、ぶっ倒れないあたり、冒険者ってのは本当に常人とかけ離れた身体能力と体力を持っているんだと実感させられる。
「それでも、目の前のバケモンはどうにもできないんだけどな」
目を凝らすと、俺が通ってきた道から魔物が姿を現した。
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