第14話 一人の家
ぐらす……言うんは何ね?
その道具を使えばやえの目が見えるようになるとうぃるは言う。
本当じゃろか。神様じゃあるまいしそんな事出来るんかいな。
「行ってくる。
3日後の朝には帰る。
やえにいっぱいに咲いている桜を見せてあげる」
そう言ってうぃるは出て行った。昼間着るための服を自分の身体に括り着けて。里人から貰ったと言う銭を持って。あっと言う間に狼の姿で走り去った。
後に残されるやえは山中の家に一人だけ。それでも不安など微塵も無かった……最初のうちは。下女に囲まれる里長の家から離れ、一人で暮らすのは安心する空間。その筈だった。
なんでじゃろ。なんで胸の辺りが締め付けられるんじゃろ。
音がしてびくっと振り向く。
ただ風が家の壁を叩いただけ。そんなの今まで気に留めた事も無かったのに。
料理をしても、ご飯を食べても美味しくない。
なんでじゃろ……
そんなの答えは決まっていた。
今日はうぃるが帰って来る筈じゃ。
やえは陽も登らないうちから目覚めて外に出た。けど何時まで待っても狼の姿は見えない。
遅くなっちょるんか。道にでも迷うちょるんじゃろか。
その後も何度も表に出て良く見えない辺りを見回すやえ。だけど人影らしきものも狼の姿も家に近付く事はない。
事故でもあったんか。
まさか思うけど、異人さんに襲われでもしたんじゃ。
すでに周囲は赤く夕刻になろうとしていた。
狼の姿になれば移動は早い。これで帰って来れるねぇ。
と考えながら周囲を見回す。ぼーっとはっきりしない周りの景色。
すると動く物が在る気がする。
家の方に近付いて来る。あれは二本脚で立つ人の姿。
まだ夕方になったばかり。うぃるも徐々に獣毛が生えてくる程度で人間の形を留めている時刻。
やえは走り出す。
足が勝手に動く。家の近くなら歩き回った。すぐつまずくような事は無い。
人の形をした影にやえは飛びついていた。
「うぃる、うぃる。
帰って来たんじゃねぇ。
遅くなるならそう伝えてくれんといけんよ。
心配しちょったよ」
「……お前、やえか?!」
その声の響きはうぃるの物では無かった。
だけど聞いたことがある声。
やえの腕に一瞬で鳥肌が立つ。それは近づかれるだけでぞっとする、里長の屋敷にいた下男の声であった。
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