第23話 料理番、村の危機を知る。

「コイツはえらいことになったな……」


「わたし、たたかう! わるいくまさんたおす!」


 臨戦態勢の状態になって、勇み足の獣人の子の姿が、アレスの目に映る。


 アレスは、若干気後れしていた心を取り戻すかのように、笑った。


「良い心掛けだ。こいつはな、背を見せた者から、襲う習性があるんだ」


 ガサガサっと、姿を見せたグランドベアが草むらへと潜り込み、また姿を消す。


「チィ。やはり俺達の事は無視かよ」


 アレスはおもむろに、大剣を肩から振り下ろす。


「嬢ちゃん! さっき逃げたヤツ等の後ろを追ってくれ! 俺は分かれた方向へと追ってみる! もしかしたら村の方まで行ってしまうかもしれない! そうローレンに伝えてくれ!」


「わかった!」


 タタタ、と駆けていく獣人の子の背を見つめて、アレスは分かれて走る。


「頼んだぜ! 勇気ある少女!」


 剣を抜き去ったまま、アレスは森の中へと、勢いのまま飛び込んだ。



「ふぃー、お疲れっす!」


「ぜぇぜぇ……、バテた……」


「お疲れさま! お兄ちゃん!」


「みんなお疲れ様! 手伝ってくれてありがとう! 一人じゃ絶対に無理だったよ」


 額をぬぐう少女。肩で息を吸う年配の女性。幼女はカラッと元気な様だった。

若いって凄い。僕は、お店を手伝ってくれた皆に向けて、お礼の言葉を送った。


 お客さんの流れが落ち着いたところで、CLOSEDの看板を入り口のドアノブに掛けたら、とりあえず一呼吸。お店は休業状態へと入った。


「それじゃー、解散! またお願いするかもだから、その時はよろしくね!」


「はい!」


「もう無理……」


「凄かったよ! お兄ちゃん!」


 ボランティアスタッフの子達をお店の外へと送り出して、がらんどうになった外を眺めている。列ってどれぐらい長かったんだろう。ずっと忙しくて外の様子はまるで分からなかった。


「ん?」


「出たぞー!」


「こっちだ!」


 なにやら騒がしい集団の姿を発見した。その中に見知った顔を見つけて、声を掛ける。


「ローレンさん!」


「おっと、勇者さま」


 駆け始めていたローレンさんに呼びかけて、彼は足をピタリと止めた。


「どうされたんですか? すごく慌ててらっしゃるようですが……」


「ええ。実はですね……。ゴニョゴニョ……」


「ええっ!? グランドベアが村の外れに出たっ!?」


「ちょ、ちょっと声が大きいです、勇者さまっ! まだ私も分からないので、村の皆さんには内密にお願いします……」


「な、内密にって……。そんな悠長な事、言ってていいんですか……」


 グランドベアというのは、最低でも50レベは無いと倒せない、上級モンスターと言われているのが定石。もちろん装備もレベルも無い村の人ならば、一撃で致命傷になる。


「勇者さまにも、来て欲しいのです! お願いできますか!」


 僕に頭を下げたローレンさん。それってつまり……、戦えって事だよな。


「わ、わ、分かりました……。ちょっと準備したらすぐに行きます!」


「場所は例の柵と、同じ場所です! お願いします!」


 また駆け出したローレンさんを見て、僕はまた建物内へと入った。


「なべ……、鍋どこだっけ……」


 アレしか装備できないのだから、ヤバイよね。


 てか絶対倒せないでしょ。僕まだ低レベだし。


 コツコツ、レベル上げてからにしたかったんだけどな……。


「せめて、コレ食べてからにしよう」


 獣人の子が戻ってきたら、一緒に食べようと残していた、保存用のローレンバーガーへと僕は手を伸ばした。


 もぐもぐ。


 うまい。包みをビリビリと不躾に破いて、そのまま手で掴んで頬張る。


「ステータスは……。後でいいや、とりあえずコレ持っていこう!」


 僕は背負い鞄に詰めるだけローレンバーガーを詰めて、背負ったら走り出す。


 ええい、もうなるようになれ。


 でも不思議と何故か、上手くいくような気がしていた。どうしてだろう。ずっと、幸運続きだったからかな?

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