42. 夏休みを阻むもの

 夏休みが近づいている。

 ここ最近は、なぜ気象庁はまだ梅雨明けを発表しないんだと思うぐらい暑い日々が続いているが、それとは反対に教室の雰囲気は華やかだ。みんなもうすぐ訪れる1ヶ月半ほどの長期休みに、どこか落ち着かない様子だ。


 その空気に呑まれるかのように、俺の気分も浮ついていた。朝のHRが終わってスマホを触る手が、必要以上に軽やかに舞う。

 学校生活が特別嫌いとかではないが、1日の時間を自分の好きなように組み立てられるのは魅力的だ。1ヶ月半という期間があれば大抵のことはできる。新しいことを覚えたり、今あるスキルをレベルアップさせたり。


 だが、俺たち学生に待ち受けているのは夏休みだけではなかった。

 前の席から「なぁ、れん」とやけに低い声で呼び掛けられたので、スマホから目を外す。


「後生だ、勉強を教えてくれ」


 夏の計画に色めき立つ教室の中で、目の前の広樹ひろきは俺に向けて合掌していた。

 もはや累計何度目か分からない後生を混じえた頼みに、俺は辟易しながら答える。


「俺がこういう時に返す常套句、知ってるだろ?」

「あぁ、『所詮テストは記憶力の勝負だから、教えられることなんてほとんどない』……だろ?」

「そうだ」

「頼む、それでも教えてくれ」


 広樹は合わせた両手に額を当てながら再び懇願してきた。


「いつになく真剣だな」

「あぁ……赤点取ったら、夏の大会出れねんだ……」


 なるほど、だから夏休みに浮かれた教室の中で、珍しく目の前の現実である期末テストに意識を向けていたのか。

 たしか昨日野球部のやつが言ってたな。ウチの高校は、赤点の奴には補習のインターハイが待ってると。


「ちなみに昨日は勉強したのか?昨日から部活休みだよな」

「あぁ、6時間はやった」

「まじかよ。なに勉強したんだ?」

「えっと──」


 広樹は昨日の勉強録を俺に話した。

 その内容はひどく初歩的なもので、あと4日間で試験範囲をカバーできるのかと不安になったが、しかしかなり具体的だった。どうやら本当に勉強自体はしたらしい。


 中学の時にも散々この手の頼みはされていた。そして、それに応える度にこいつの不真面目さに呆れていた。「疲れた」だの「気分転換」だの言って、結局遊びの方へシフトしなかった例がない。

 なので何回か勉強会もどきを開いてからは、こういう要求が来ても先ほどの常套句で流していた。

 課題を見せるだけならともかく、不真面目な生徒を相手にする勉強会は時間を犠牲にしすぎる。


 だが、いま両手を拝む様子は過去のそれとはまるで雰囲気が違う。

 さっきの質問も、どうせ「今日から頑張る!」みたいな回答が来ると思っていたが、かなり勤勉な答えが返ってきた。

 どうやら今回はマジのようだ。ハレー彗星よりも珍しいマジ広樹のようだ。

 俺はふっと息を吐き、スマホの画面を暗転させながら口を開いた。


「わかった。先生になるよ」

「え!マジ!?」


 広樹はガバっと顔を上げた。

 さすがにこの様子なら俺の指導をちゃんと聞くだろう。

 知識はインプットとアウトプットを繰り返して定着していくから、しっかり教えられる環境なら俺にもメリットがあった。


「まぁ体育祭の時は迷惑かけたし、借りを返す時だな」

「おぉ………神道しんどう神……!!」

「逆から読むと?」

「んしうどんし………!!」

「お前頭やわらけえな」


 まさかのノータイムでガチガチの逆読みがきた。漢字の方で逆読みするかと思ってたのに。

 こいつ本気出したら俺よりも頭良くなるんじゃないか?


「シンドーくーん、ついでにアタシもー」


 柔軟な坊主に感心してると隣から声が掛かった。

 広樹の交渉が成立したと同時に、柏木かしわぎが便乗してきたようだ。


「柏木も赤点あると夏の大会出られなかったりするのか?」

「うん、そうだよ。超ヤバーイ」

「あっさりしてんな」

「違うよ神道くん、現実を直視してないだけだよ」

「あぁ……」


 星乃ほしのの冷静な指摘に納得の声が漏れる。

 よくよく見ると、柏木の目がいつもより遠くを見てる気がした。

 すっかり普段の調子に戻った広樹が尋ねる。


陽花はるかは星乃さんに教えてもらえばいんじゃね?」

「私もそうしてあげたいんだけど、今回あんまり余裕なくて……。教えられるほど自信ないっていうか」

「まぁ期末は試験範囲も教科増えるしな」

「うん……ごめんね陽花」

「ううん全然!ナギは自分の勉強に集中して!シンドーくんが教えてくれるから大丈夫!」

「まだ教えるって言ってないんだが」


 慰めるように星乃の頭をナデナデする柏木は、ふと思い立ったようにこちらを向いた。


「あっそうだ!じゃあ代わりに、アタシがシンドーくんに英語教えてあげるっていうのは!」

「それはつまり……柏木が俺に英語を教えて、俺が柏木に英語以外を教えるってことか?」

「イエス!」

「天秤の皿に穴が開きそうなぐらい釣り合ってねえな」


 図々しいにも程がある要求を純粋に口にする柏木に、一種の羨ましさすら感じる。


「まぁいいけどさ」

「ほんとー!?やったー!」

「なんとまぁ、菩薩の蓮だな」

「逆から読むと?」

「なだんれのつさぼ、あまとんな」

「すげぇなお前……」


 再びノータイムで出てきた異国語のような言葉に戦慄する。特技だろこれ。

 思わぬ生徒が増えたが、そこまで問題ではないだろう。柏木流の英語の勉強の仕方は前から気になっていたし。


「神道くん大丈夫?陽花も一緒になっちゃって」

「一人も二人もあんまり変わんないよ。料理と一緒」

「料理………一人分作るのも二人分作るのも変わらないってこと?」

「そう」

「へぇー。………ちなみに、三人分になったら大変?」

「え?」


 星乃は伺うような目線を俺に向ける。


「ごめん、私どうしても小論文が自信なくて。神道くん、先生になれたりする?」

「小論文か。それなら得意だな」

「え、それじゃあ………?」

「あぁいいぞ。俺に教えられることがあれば」

「ほんと!?ありがとう!」

「良かったねナギ~。ナギナギナギ~」


 瞳の輝きを取り戻した柏木はここぞとばかりに星乃をナデナデ………いやナギナギする。


「暑いって………あっ神道くん、私も生物教えようか?」

「あー……いや、生物は大丈夫。暗記がほとんどだし」

「………うん、そうだね」


 一瞬だけ間を置いた星乃は、柏木に絡まれながらそう返した。

 おそらく魚の魅力が全開になる生物のレクチャーは少し興味があったが、星乃の勉強時間を削ってまでお願いするものじゃないなと思った。






「で、どこで神道塾やる?」


 1限の古文が終わると、広樹は4人の中心を向きながら尋ねた。

 俺は数枚のルーズリーフを整理しながら話す。


「図書室とかでいんじゃないか?」

「えーやだー、アタシ静かなとこ苦手ー」

「じゃあファミレスか?」

「えーやだー、お腹空いちゃーう』

「文句が多いなこの生徒」

「アタシ的には誰かの家がいいなー。ヒロキくん家は?」

「俺ん家?んー、姉貴が絡んで来るんじゃねえかなぁ」

「あのヤマンバか」


 中学の時、何度か広樹の家で見かけた女性を思い出す。

 いつも派手なメイクをしていたのが印象に強く残っている。


「ヤマンバじゃねえよ。もう卒業したらしいぞアレ」

「まじか、大学デビューか」

「社会人デビューだな」

「あれ、もうそんな歳か」

「そうそう。つーわけで社会に揉まれて男に飢えてる姉貴が蓮に襲いかかるから、俺ん家はキビーな」

「なんだよそれ………広樹の家は絶対NOだ」

「じゃあ、ナギの家は?」

「私の家は……ちょっと……」


 矛先を向けられた星乃は困ったように言葉を詰まらせた。

 家に魚関連のアレコレがどっさりあるんだろうか。俺と柏木ならともかく、広樹はまだ星乃の秘密を知らないからな。

 ていうかそもそも男子を自分の家に呼ぶのに抵抗があるのかも。俺も星乃の家の前までは行ったことがあるが、中に入ったことはない。


「ていうか、そういう陽花ん家はどうなんだ?」

「ウチー?ウチは無理だよ、猫でいっつも家散らかってるし」

「え?柏木って猫飼ってるのか?」

「そうだよー」

「あれ、蓮知らなかったんだな」

「あぁ、初の耳だ。……ちなみにビョウシュは?」

「ビョウシュ??なにそれ?」

「犬種の猫版で『猫種』。ペルシャとかマンチカンとか」

「あぁー!普通に雑種だよ、保護した子だから」

「なるほど……」

「見せてあげよっか?」


 柏木が何度かスマホに指を走らせた後、画面を上にしてこちらに差し出してきた。

 太陽のようなオレンジ色のケースに包まれた端末を、はやる気持ちを抑えながら受け取る。

 スマホに表示されていたのは動画のようだった。


(お、おぉぉ……!!)


 再生ボタンを押すと、クッションと思われる布の上で眠る一匹の毛玉が映し出された。ふわふわと伸縮を繰り返す毛並みは、黒と茶色が入り混じる、通称キジトラと呼ばれる柄だった。

 個人的ベストオブ可愛い毛色であるキジトラの猫は、やがて伸びをしながら目を覚まし、尻尾を振りながらカメラの持ち主へとジャレついてきた。


(か、かわいすぎる………モフりてえええええ〜~~)


 愛くるしい姿にモフりの衝動が疼く。

 思えば最後に実際の猫を触ったのはいつだっただろうか。たしか小学生の時猫を飼ってるやつの家で撫で回して以来だから、5年はこの毛皮に触れていない。

 だから最近俺の両手には生命の息吹を感じないのか……。この毛玉と触れ合えたらそれはそれはどんなに良いことだろう……。


「蓮は陽花ん家がいいってさ」

「……まだ何も言ってないだろ」

「顔が言ってる。目が言ってる」

「ついでに心も言ってるよ」

「………」


 エスパー二人からの視線に耐えられずにそっぽを向く。見るなよ顔も心も。

 顔の熱がいつもより高い気がするので、咳を払って排熱を試みる。


「ルーちゃんカワイイでしょ」

「あぁ、めちゃくちゃ。………ルーちゃん?」

「うん。カレールーみたいな色だから、ルーちゃん」


 英単語を織り交ぜる某芸能人じゃなくて、カレーの方か。

 たしかにそう言われたらカレールーに見えるかも。響きも可愛いし、いい名前だ。

 ギリギリまで画面を見ながらスマホを持ち主に返すと、柏木はそれをポケットに入れながら俺に尋ねた。


「てか、シンドーくん家はどう?」

「俺ん家は」

「無理無理無理!蓮の部屋2人ならいけるけど、4人は絶対無理だよ」

「ん……?」

「えぇー残念」

「神道くん一人暮らしだもんね。4人だと難しいか」

「え……?一人暮らし?…………あぁっ!?そうだ、蓮いま実家じゃねえのか!」

「忘れてたのかよ」


 なんか引っかかる発言だなと思ったら、広樹は実家の俺の部屋を想像して話していたらしい。たしかにあの部屋に4人は無理だ。乗車率200%だ。

 そういえば、家族以外まだ誰も俺の家に来たことなかったな。みんな俺の部屋が一般的な一人暮らしの、ワンルームぐらいの大きさだと思っているようだ。


「実家じゃないならいけるかもな!あの部屋より狭いワンルームなんかこの世に存在しねえだろ」

「まぁ、2LDKだから普通に広いぞ」

「えぇっ!?」

「No way!!」

「すごい……神道くん家ってお金持ちなの?」

「いや全然。でも、金はないけどコネはあったらしい」

「金で買えないものってやつかぁ。じゃあもう蓮の家で決定だな!」

「けってー!!」

「えぇ……」

「お?なんかまずいのか?」


 広樹は下衆いニヤケ顔をしながら俺に聞く。「そういう物は置いてねえよ」と目で答える。今どきアナログにお世話になるやつがいるか。時代はデジタルだ。

 ノートパソコンの深淵を開けられなければ見られて困るものはないが、それとは別に漠然とした不安が募る。

 実家の自分の部屋ならまだしも、一人暮らしの男の家に女子を気軽にあげていいのだろうか。

 近所の子供にしか見えない柏木はセーフにしても、星乃はいささか微妙だ。二人きりじゃなければ別に問題ないのか?


「ふっふっふ、シンドーくん」

「うん?」


 俺が逡巡してると柏木が不敵な笑みを浮かべた。


「シンドーくんの家にしてくれるなら、ルーちゃんを撫でる権利をあげましょう」

「おい、みんないつ空いてるんだ?今日か?明日か?俺の家はいつでもいけるぞ」

「誰よりも前のめりになったぞ」

「神道くんホントに猫好きなんだね」


 どうでもいい迷いが全部消し飛んだ。

 これほど魅力的な提案はない。自分の家で勉強するだけで猫と触れ合えるなんて。


「じゃあシンドーくん家決定ー!てか、そんなに触りたいならシンドーくん家にルーちゃん連れて行こうか?」

「えっ……………いや、ストレスになるから大丈夫だ。ルーちゃんによくない」

「ガチじゃんこいつ」


 広樹の静かな指摘が飛ぶ。

 猫に触れたいのは山々だが、それは猫の健康を害してまで叶えたいとは思わない。何よりも当事者のルーちゃんが優先されるべきなんだ。


「あの子お散歩好きだから大丈夫だと思うけどねー。までも、結局ナギがいるからルーちゃん取られちゃうか」

「取られる?」

「なんか、昔から陽花の家行くとルーちゃんずっとくっついてくるんだよね」

「すごいよ、たぶんアタシより懐いてるよ」

「星乃さん優しいからなぁ。動物にもそのオーラが伝わるんだろうなぁ」

「そうか?」


 魚のオーラを感じてるんじゃないのか。あわよくば食べてやろうみたいな。


「それじゃあ蓮の許可も出たことだし、早速今日にするか。みんな予定大丈夫か?」

「うん、私は大丈夫」

「アタシもー。あっ!ていうか良いこと思いついちゃった!」

「ん?」


 なんとなく嫌な予感を感じながら返事をすると、柏木の人差し指がビッとこちらに向かれた。


「せっかくなので、今日の夜は神道シェフに作ってもらいましょう!」

「えっ、すごい良いそれ」

「名名名案だな!」


 柏木の提案に生徒たちは目を輝かせる。


「教える上に飯も作んのかよ」

「シンドーくん、ご飯を作ってくれたらルーちゃんのお腹を触らせてあげましょう」

「おい、みんな何食いたいんだ?和食か?中華か?フレンチか?」

「蓮が陽花に転がされてるぞ」

「神道くんなんでも作れるんだね」


 億劫な気持ちが全部蒸発した。

 これほど魅力的な提案はない。自分の家で料理するだけで猫の究極のモフりポイントを触れるなんて。


 勉強会の場所と日時が決まり、ついでに俺がシェフになることも予定されたので、その場を取り仕切るように広樹が声を上げた。


「それじゃあとりあえず、今日の放課後から神道塾スタートだな!」

「何言ってるんだ、もう塾は始まってるぞ」

「へ?」


 間抜けな返事を聞きながら、俺は先ほど古文の時間にしたためたルーズリーフ達を、広樹と柏木に渡した。

 書かれたものを見ながら広樹が尋ねてくる。


「なにこれ?」

「お前らの勉強プログラム。とりあえずこれやっとけば赤点は回避できる」

「ヤバー。これさっき作ったの?」

「あぁ、なかなか面白かった。ひとまず次の時間は自習だから、2人とも漢字の問題集からな。範囲はそこに書いてある通り。30分経ったらテストするから。合格点取れなかったらシバくから」

「おい……スパルタと脅迫は違うんだぞ」

「シンドーくん……目がマジだよ」


 紙を持った生徒2人は鬼と対峙したかのように顔を引きつらせた。


「神道くん、いきなりそんな厳しくしなくても……」

「星乃、これには2つ理由がある。まず1つは、こいつらは中間テストで赤点を取っている。科目の増えた期末では、赤点の可能性がより高まる」

「「う゛っ」」


 広樹と柏木は現実という壁に激突したかのようなうめき声を出す。


「そして2つ目。こいつらは前回、寿司を食べたいっていう不純な動機で成績を伸ばした教科がいくつかある。例えば数学とか」

「たしか、陽花が60点で、佐野さのくんは50点ぐらいだっけ」

「そう。2人とも赤点を大きく超えている。が、それゆえに油断している。おそらく『数学はそんなに勉強しなくても赤点は大丈夫!』とか思ってる」

「「う゛っ!!」」

「そういえば今日の朝、陽花そんなこと言ってたね……」

「その油断が一番危険なんだ。むしろ中間が全部赤点だった方がいいまである。失敗から成功へ転換するより、成功から成功を維持する方がよっぽどメンタル的に難しいんだ」


 昔読んだ本の一部を引用して星乃に説明する。厳しさの理由を知った星乃は「なるほど……」と言いながら柏木の持ってる紙を横から覗き込んでいた。


「まぁシバくっていうのは冗談だけどさ、テストがあった方が習熟度が見えて分かりやすいと思う。とりあえず、そのくらいの危機感でやってくれってこと」

「……わかった、せっかくここまで作ってくれたんだ、やるぜ俺は」

「たしかに、こんなに丁寧に作ってくれるって、シンドー先生逆に優しいかも!」


 飴のような言葉を掛けると、意気消沈してた2人は活気を取り戻し自分の机に向かった。

 すげえ、休み時間に広樹が勉強するとか受験の時以来だな。

 彼らの熱量を温かい目で見てた星乃は、あることに気づいて俺の方を向いた。


「ねぇ神道くん、そういえばさ」

「うん?」

「このプログラムって、私の分はないの?」

「いや、星乃は小論文だけだし」

「………」


 あ、「つまんない」って顔してる。

 俺を見る星乃の表情は、ほんのわずかだがムッとしていた。

 それはきっと、星乃と知り合ったばかりでは分からないような、そのぐらいの些細な変化だった。

 

 星乃の場合は自分の勉強もあるだろうし、放課後の時間だけでいいと思っていたが、この生徒はそれだと満足してくれなさそうだ。

 俺は少し考えた後口を開いた。


「それじゃあ………次の時間に書き方のコツとか教えるから、一緒に考えながら放課後までに3つ以上は書いてみよう。小論文は数が大事だから。………それでいいか?」

「うん!わかった!」


 星乃は誰にでも分かるぐらい嬉しそうな声で頷いた。


「え?星乃さんだけなんか手厚くね?ずるくね?」

「いいからお前は早く漢字やれ。シバくぞ」


 こちらを振り向いた広樹に鞭のように言葉を叩きつける。

 小論文は暗記の世界じゃないんだからサポートする時間が多いのは当然だろ。

「おーこわ」と小声で呟いた広樹が前に向き直すと同時に、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。

 早速集中が途切れた坊主に前途多難の思いを感じながら、俺は星乃の方に机を寄せた。

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優等生少女と経験値バカ 蒼井きつね @blue_fox000

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