おわりのおはなし

おわりのおはなし

 窓からの景色は暗く、空には星がまたたいている。

 クーはキッチンで晩御飯のオムライスを作りながら、ニコへと声をかけていた。


「ニコちゃーん、読書もいいけど手伝ってよー」


 クーはタマゴをかき混ぜながら、ソファに座るニコへと声をかける。

 しかし、ニコがクーに返事することはない。厚表紙の本を開き、黙ってページをめくっている。クーの声が、耳に届いていないのだ。

 クーは頬を膨らませる。タマゴが入ったボウルを作業台に置き、ニコへと近付いて行った。


 背後からニコに近付く。ニコの耳元に口を寄せると、大きく一言。


「わっ!」


 ニコは驚いて肩を跳ねさせた。弛んだ両手から本が落ち、膝を滑って、背表紙を下にして落ちる。

 落ちた先は、ニコの爪先である。


「ぎゃっ!」


 あまりの痛さに、女性らしからぬ濁った悲鳴をあげる。それ以上声を上げることなく、背を丸め悶絶する。

 クーはというと、まさかニコが本を落とすと思っておらず、頬を引き攣らせてしまった。


「あー、ごめんね。大丈夫?」


 クーはおそるおそる声をかけ、ニコの顔を覗き込んだ。その瞬間、後悔した。

 ニコが般若はんにゃのような顔でクーを睨みつけたのである。

 

「大丈夫なわけないでしょう!」


 クーの髪をがしと掴み、ぐいっと引っ張る。

 クーはあまりの痛みに悲鳴をあげた。


「いたたたた!」


「今回は許しませんわよ!」


「わーん! ごめんってばー!」


 やはり二人は、とても仲が良いらしい。


 ――――――

『きみのトリコ!』おしまい

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