告白するおはなし⑥

 センとクロは、共に喫茶エトピリカを後にした。

 冷たい風が頬を撫でる。街のざわめきが、ノイズとなって耳に刺さる。

 クロはウィッグを何度も触り、辺りをキョロキョロと見回した。自分を見ている人などいないというのに、それでも周りの目が気になって仕方ない。


 クロはふと、隣を見上げた。センは普段と変わらない様子で、クロを適度に気にかけず、隣を歩いている。


「そうだ。帰りに鯛焼き買っていく? 美味しい店があるんだけど」


 センはクロを見下ろした。

 彼の目は変わらない。普段と同じように、クロを見つめている。

 偏見もなく、憐れみもなく、ただの「クロ」として、クロを見つめていた。


「ああ、そっか」


 クロは呟いた。

 センは今、あるがままのクロを見ている。クロが求めていたものを、センは与えてくれていたのだ。

 クロは今まで、自分が与えているつもりになっていた。しかし、実際にはセンから貰ったものの方が大きい。


 自分を見つめ直す勇気。

 恐怖を跳ね除ける勇気。

 そして、相手に向き合う勇気。


 センに出会って、クロはそれらを教えられていたのだと、今更ながらに気付いた。


「クロ、どうしたの?」


 センは問いかける。クロはハッとして、センの顔を見つめ返した。


「鯛焼き、食べる?」


 そうだ、鯛焼きの話であった。クロは我に返り、ニッと笑顔を浮かべた。


「私、鯛焼きはカスタード派なの」


「え? あれ、あそこの店、カスタードあったかな……」


 センは途端に慌て始める。

 クロは、センの慌てぶりがおかしくてクスクスと笑った。


「今どき、カスタードがない方が珍しいよ。もし餡子しかなくたって、私、餡子も好きだから」


 その答えにセンは安堵した。

 クロは笑う。


 二人は手を繋ぐ。

 雪が降る中、二人の鳥子とりこは街を歩いて行った。


 ――――――

『告白するおはなし』おしまい

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