おまけ

 それから、三十分ほど経ってからのことだった。


 学校からの帰り道で、僕とすももさんが仲良く肩を並べて、その後方十メートルほどのところに金剛先輩と鳳会長(とその取り巻きたち)が並んで歩いている。


 まあ、そんな放課後の一コマ――


「ねえ、金剛さん。ちょっといいかしら」

「何だ、ご令嬢?」

「貴方、なぜいまだにスマホの待ち受けを荒野さんの画像にしていらっしゃるの?」

「ああ、これは気づかなんだ。忘れていたな。ははは」

「なら、なぜいまだに荒野さんのプリントされたシャツをこれ見よがしに着ているのかしら?」

「ああ、これは仕方あるまい。先ほどの戦いでもともと着ていたものを肌蹴て襤褸々々ぼろぼろにしてしまったからな。まさか裸で帰るわけにもいかんだろう? ふぬははは!」

「なら、なぜ学生鞄に荒野さんの顔のリアルな刺繍がされたままですの?」

「いや、まあ、色々とな。作ってしまったのだよ。すぐに取るわけにもいくまいて」

「貴方……もしかして、本当に?」

「待て! 待つんだ、ご令嬢! 落ち着きたまえ。それから何だね……その対戦車軽装甲火器のような仰々しいものは……いや、まったくもって誤解なのだ。ああ、いかん。ダメだ。やめたまえ。や、やめろおおおおお!」


 もちろん、この後すぐ――


 僕たちの後方でドンパチが始まったのは言うまでもない。


 金剛先輩対鳳会長とその取り巻きたち。すももさんによると、「いつものことだよ」なんだそうだ。


 なるほど。それで皆、やけに銃火器に詳しかったわけか。まあ、戦争ごっこはご近所迷惑にならない程度に。どうぞご勝手に。


 と、まあ、そんな硝煙の上がる後方戦線は置いておくとしてだ。


「ねえ、すももさん」

「何? 荒野くん」

「好きだよ」

「うん。知ってるよ」


 違う。全然違うんだよ。


 それは同じ意味なんかじゃないんだ。


 たしかに言葉はたった二文字――でも、それは時と場所、それに隣にすももさんがいるかいないかで、幾千もの色取りに変わっていくんだ。


「だから、すももさん。大好きだ」


 これから一緒に幾つもの思い出を作っていこう。


 そして、いつか二人できっと笑うんだ。僕たちの恋の最初の一ページにゴッドパンチが記されることに。


 そう。恋はいつでもゴッドパンチ!


 だから届け。この思い。熱い拳に乗せて。大好きな人のもとへ。そして、この物語を読んだあなたのもとへも。


(了)

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恋はいつでもゴッドパンチ! 一路傍 @bluffmanaspati

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