第98話 働き方改革を実行せよ!②(ブラッティ視点)
アルディアさんのことを私は信じていた。
リツィのことを大切に考えてくれて、リツィのことをちゃんと支えてくれる。それだけ頼り甲斐もあったし、実際に凄い人であると何度も実感させられる出来事は多かった。
それなのに、リツィにこんな激務をさせるなんて。
ヴァルトルーネ様が皇帝陛下になったから、態度が変わったのだろうか?
なんにせよ、これは由々しき事態!
私はリツィを強引に引き連れ、アルディアさんの執務室の前に立っていた。
「ブラッティ……いきなり入ったら迷惑になりますよ?」
リツィはなんだか弱気である。
「リツィ、これはアルディアさんとちゃんと話し合わないといけないことなんだよ」
「え?」
「だって私は、リツィが無理しているのを見過ごせないもん! リツィに無理な仕事を振ってるのがアルディアさんなら、私は彼を許せない」
リツィは、アルディアさん関連の話になるとどうも消極的になってしまう。
しかし、それでは何も解決しない!
私がガツンと言ってやって、リツィのケアをしてあげなければ!
「失礼します! アルディ……ア、さ……ん?」
扉を開くところまでは良かった。
リツィのためにと意気込んでいた私は欠片も戸惑うことなく踏み出せたから。
しかし、部屋に足を踏み入れた瞬間、外との空気の違いが伝わってきて絶句した。
「……えっ、ちょっとこれは?」
リツィも顔を青くしている。
私も同様に硬直してしまった。
「な、ななっ……!」
驚くのも当然である。
だってそこには、リツィの部屋以上に悲惨な光景が広がっていたのだから。
リツィよりも広い執務室……そのはずなのに、積み重ねられた書類の山によって明らかに部屋が狭く見える。
その部屋にはアルディアさん以外の人たちも数人いた。
しかし、大抵の人は目の下にクマを作り、やつれ果てた顔をしていた。
「ああ、リツィアレイテ将軍にブラッティ将軍。申し訳ありませんが、少しお待ちいただけますか?」
誰も死んではいないのに、死臭が漂ってくるかのような重い空気だ。
例に漏れず、アルディアさんの目の下にもクマができている。
リツィと同じくらいか、あるいはそれ以上に過酷な労働環境を感じさせていた。
「アルディアさん、あの……今からお話を」
「申し訳ありませんが、仕事がまだ……」
ああ、これは。
ダメなやつだ……!
私はドカドカとアルディアさんの前まで歩みを進める。
リツィも仕方なく私の後を追うようにアルディアさんの前まで来ていた。
なんとなくこの人もまたリツィと同じような匂いがする。
──間違いない。誰かが強引に休ませない限り、永久機関のように働き続けるタイプの人だ!
「アルディアさん、こっち来て!」
既視感のある光景になるが、私はアルディアさんの手を引いていた。
そして、もう片方はリツィの手を握っている。
アルディアさんは何か言いたげな顔をしつつも特に抵抗することなく椅子から立ち上がる。
「あの、ブラッティ将軍。あまり遊んでいる暇はないので、用事があるのなら手短にお願いしたいのですが……?」
「手短済ませるよ」
「なら、良いんですけど」
苦笑いを浮かべるアルディアさんの顔には、感情がないように思えた。
不味い、これは……疲れていることを無理やり誤魔化している状態な気がする。
私は無言で二人の手を引き、執務室を出た。
「どこに行くんですか?」
「静かに話せるところ!」
思わず、感情的な言葉が出てしまう。
アルディアさんでさえ、私が憤慨している理由を理解していない。
私は、大事な友人が無理をしているのが許せない。
それはリツィだけじゃない。
アルディアさんだってその一人なのだ。
「アルディアさん、私怒ってますから!」
「え?」
「自覚がないようなので、あまり口うるさくは言わないですけど。もっと他の人の気持ちを考えてください」
私でさえこんなに心配なのだ。
ヴァルトルーネ様だったら、もっと心を痛めると思う。
これはリツィ同様に私からしっかり言い聞かせなければならないようですね!
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