第97話 働き方改革を実行せよ!①(ブラッティ視点)





 どうもこんにちは!

 この度、特設新鋭軍騎竜部門の代表に選出されたブラッティです!

 特設新鋭軍の規模が大きくなったことで、内部組織の管轄が細分化されて、なんと私が特設新鋭軍内の一軍を纏め上げる将として大出世しました。


「ブラッティ将軍、新人の入隊者のリストが届いているんですけど……」


「おっけ〜確認しとく。というか、ブラッティ将軍とか、そんな堅苦しい呼び方しなくていいよ。呼び捨てとかでも」


「いけませんブラッティ将軍。立場はキッチリと弁えないとです」


「うーん……そう?」


「はい。では、私はこれにて失礼しますね」


 そして、最近の悩みは周囲の人間関係が大きく変わったこと。

 私はあんまり礼節を重んじたりするのが好きじゃない。

 だから、騎竜兵の部隊長だった頃は、部下ともなるべく砕けた関係性を続けてきていた。

 しかし……そう簡単な話ではないようで。


「なんか、色々と面倒だなぁ……」


 最近は態度を改めるように言われることが多くなった。

 立場が高い人は色々と大変なんだなぁ……なんて思うようになることが増えた気がした。

 

「それに、仕事量もビックリするくらい増えたし」


 責任が重くなったというか、肩に乗せられた重荷の重圧がこれまで体験してきた比じゃないくらいに大きい。


「リツィとも最近会えてないし、仕事漬けで疲れたよぉ……」


 休みはちゃんとあるものの、私用で外出する機会はめっきり減った。

 リツィはきっと私よりももっと働いているんだろうな。

 机の上に積まれた書類の山をボーッと眺めながら、大切な友人のことを考えた。


 リツィは私と違って凄い努力家だ。

 騎竜兵としての実力は元々高かったけど、中々認められなかった過去があった。性別が女性であり、平民という身分だったことが原因だろう。私も同様に帝国軍の中では低い地位であることが続いた。

 しかし、特設新鋭軍にスカウトされてから彼女は正当な評価を受けた。

 リツィのモチベーションも跳ね上がり、これまで以上に頑張ることが多くなった。


「うーん。忙しいのは、いいことなんだけど……極端なのがなぁ」


 私はそれなりに息抜きもしているけど、リツィはそうじゃない。

 期待されたらされただけ、それに応えようと四六時中働いているに違いない。


「あっ……!」


 そんな中、私はとある妙案を思いつきました。

 そう、それは──。




▼▼▼




「リツィ〜!」


 ということで、やってきたのはリツィが仕事をしている執務室。

 私の目論みとしては、息抜きついでにリツィにも休んでもらおうという崇高な計画である。リツィにも仕事を放り投げて肩の力を抜く時間が必要だろう。

 それを私が共有するのだ!


 大袈裟なくらいに明るく呼びかけて、私は部屋の扉を開いた。

 私の予想通り、いましたリツィ!

 真面目にお仕事を頑張っているみたいです。


「はぁ、頭に響くので声量を落としてくれませんか?」


 そして私の予想通り、とても迷惑そうな顔でため息も吐いていました……。

 友達が遊びに来たのにすっごい反応悪い。


「ブラッティ……急に来られても困るのですが」


「え〜、なんでそんな冷たいこと言うの⁉︎」


「午前中の仕事がまだ終わってないので、少し待ってください」


 山積みの書類は私の扱っている量よりも遥かに多い。

 それが幾つも机の上に立てられてるのだから、見ているこっちまでうんざりしてしまいそうになる。


「リツィ、毎日こんなに書類作業してるの?」


 尋ねると、ペンを動かしながらリツィは静かに告げる。


「はい、そうですね。これでも今日は少ない方ですよ」


「これで少ないの⁉︎」


 こんな量……私じゃ絶対に1日じゃ終わらない。

 リツィは特に顔色を変えることなく黙々と作業をこなしているけど、その異常さが私的には驚きであった。

 暫く、無音の室内にペンを動かす音が流れ続けた。

 

「こんな量、大変でしょ?」


「まあ、多いときは机に資料とかが乗り切らないですから今日は比較的楽な感じですよ……っと、これでひとまずはいいでしょう」


 動かす手を止めて、リツィは軽く背筋を伸ばした。

 

「それで、ブラッティ。何か御用ですか? これからお昼休みを取るつもりですから、多少の時間は確保できますよ」


「えっと、うん。大事な用事だよ!」


 私には分かる。

 リツィには──私以上に休養が必要だ!

 まずは、リツィの状況確認から始めよう。

 パッと見ただけでも激務なのは明らかなんだけど、聞き取り調査は大事だから。


「それで、リツィに質問です!」


「え、ええ。構いませんが……?」


「リツィ。貴女は昨日どのくらい働きましたか?」


 私の急な質問に困惑しながらも、リツィは話し出した。


「本当にいきなりですね……昨日の就業時間ですか。えっと、午前5時から仕事を始めていますね。それがどうかしたのですか?」


 いやいや。平然とした澄まし顔してるけど。

 まず、その仕事開始時間が早いっ!

 その時間、私まだ寝てるんですけど。そもそも仕事開始が午前5時って、起きる時間はもっと早いってことでしょ。本当に意味が分からない。

 最初からとんでもない話を聞かされた。

 ツッコミたい気持ちを押し殺し、その話の続きを促す。


「それで、それで?」


「適宜休憩を挟みつつ、仕事の終わりが午前の1時過ぎくらいで……」


「待って……」


「え、何か変なことを言いましたか?」


「やっぱり、聞き捨てならない内容なんだけど……あれ、私の耳が変なのかなぁ?」


 あれ、聞き間違いかな?

 早朝から日を跨いで仕事してるって正気?

 あり得ないんだけど。

 疲れを顔に出したりしていないところを見るに、なんとなくそれがリツィにとっての日常であるかのように感じてしまう。


「リツィ、因みに睡眠時間は……」


「毎日2時間は確保しているつもりですが」


 ブ、ブラックだぁ!

 リツィの労働環境。


 

 ──文句なしの真っ黒黒!


 

「ダメだよ! ちゃんと休まなきゃ!」


「えっ? いえ、私は特に体調不良などはないですし……」


「そういう問題じゃないでしょ。そんな生活続けてたらいずれ倒れちゃうって!」


 頑張り屋な人ほど潰れやすいというアレ。

 リツィは実直だから、どんな時にも最善を尽くしていようという気概が人一倍大きい。故に無意識のうちに無理をし過ぎているはずなのだ。


 リツィは私の大事な友人。

 こんな不健康な働き方を続けさせるのは、私の良心が許さない!


「リツィ、私決めたよ……」


 決意は固まった。

 この特設新鋭軍の運用はリツィが取り仕切っている。

 でも、リツィよりも立場の高い人はまだいる。


 そう、現皇帝陛下ヴァルトルーネ様。

 そして、




 ──アルディアさんだ!

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