第96話 一致団結せし者たち
「やあ、無事に和解が成立したよ」
リーノスとの話を終えて話し合いの行われている部屋に戻ると、満面の笑みを浮かべたエーベルハルトがそう言い放った。
マリアナ嬢、フレーゲルの二人もほのぼのとした雰囲気で楽しそうに話している。
時間にして十数分。
こんなに早くに問題が片付くとは予想していなかった。
「えっと、早いですね」
「ああ、双方共に親睦を深めたいという気持ちがあったからね。これからは、帝国のために支え合うことを約束したよ」
エーベルハルトの言葉に続き、マリアナ嬢も告げる。
「父のことは私が必ず説得します。ゲルレシフ公爵家側から歩み寄りの姿勢があったと知れば、きっと父も納得してくれるはずですから」
頼もしい姿であった。
か弱い令嬢などではない。
ライン公爵家の代表たる風格がそこには確かに存在していた。
「そうですか」
「はい、それに……フレーゲル様のことも、報告しなくてはなりません」
随分と嬉しそうに話す。
フレーゲルも頬を掻きながら、そっぽを向き赤くなっていた。
エーベルハルトとの会談がまるでついでだったのかと思うくらいに二人の感情の揺れ動き方が手に取るように伝わってきた。
「フレーゲルはもう王国貴族ではありません。しかし、現在はルーネ様の忠臣として活躍しています。お二人の仲に関しても、きっと認めてもらえると個人的には思いますよ」
「アルディア、そんな褒めんなよ……」
「事実を正当に伝えただけだ。フレーゲルの頑張りは皆が評価している」
一時的に二人の婚約話は白紙になった。
しかし、フレーゲルはマルグノイア子爵家から出て、俺と帝国に来てくれた。
恩返しというほど厚かましいことは言いたくないが、フレーゲルが幸せになるための立場というものを固められたのは良かったと感じている。
「良かったな」
「……ああ、お前に付いてきて正解だったよ」
そう言ってくれるだけで、俺のやってきたことが無駄ではなかったと、そう思うことができる。
「さて、いい雰囲気のところ申し訳ないのだが、今後の方針についての擦り合わせをしたい。いいかな?」
エーベルハルトがそう切り出す。
綻んだ口元を再度引き締め、俺は頷いた。
マリアナ嬢も真剣な顔になる。
「ディルスト地方での一件、私も聞き及んでおります。レシュフェルト王国が戦争を仕掛けてきたと」
「語弊があるな……あれは、戦争なんていうものですらない。馬鹿な一部が勝手に攻めてきただけのことだ」
マリアナ嬢の言葉を遮るようにして、イラついた視線を送ってきたのはリーノス。
彼の言う通り、あれは無計画な侵略行為。
身勝手なレシュフェルト王国の一部過激派が暴走したに過ぎないことである。
「レシュフェルト王国全体の意思でヴァルカン帝国と対立する道を選んだのならば、向こうの上層部は無能揃いということだろうな」
「我が帝国はこの大陸最大の軍事国家。確かにディルスト地方に攻め込んできた王国の行いは些か浅慮な気がするね。王国軍の陣容が連携力に乏しかったもの気になる点だ」
リーノスの言葉に頷き、補足するようにエーベルハルトも告げる。
大方、誰が主導したかはこちらも把握している。
ヴァルトルーネ皇女に敵対心を燃やしていたレシュフェルト王国の第二王子が黒幕……というか、元凶であろう。
まあ、こちらはイクシオン第四王子との繋がりがある。
向こうがどのように攻めてくるかなど、ある程度把握できるし、対策を立てることも可能だ。
「向こうのやらかした人物は今頃、責任を取らされてるんだろうな」
「そうだとしても、こちらに非はない。自業自得だろ」
リーノスとフレーゲルは辛辣な意見を述べた。
他人事であるからこそ、その件にはそこまで興味がなさそうである。
「まあ、その辺りの内容は日を改めてまた話し合いましょう。王国との付き合い方は今後慎重に検討する必要がありそうですから」
どうせ嫌と言うほどに向こうの国に関しての話題は尽きない。
両国の関係悪化は始まっている。
山積みの仕事とこれからすべきことを考えると頭を抱えたくなることばかりだが、
「そうですね。この国の未来のためにこれから協力し合えるんですから!」
「マリアナの言う通り。同じ方向を向いて進んで行こう」
ヴァルカン帝国に来てから、随分と頼もしい人たちと知り合えた。
ヴァルトルーネ皇女が俺をここまで導いてくれた。
良縁に恵まれたのも、彼女のおかげだ。
「はぁ……お花畑はそれくらいにしてくれ。他国に目を向けるのも大事だが、国内にもまだまだ解決すべき課題が多いんだぞ」
「リーノス、そんなにカリカリするなよ。肩の力を抜いた方がいいぞ」
「兄上はもう少し緊張感を持つべきです!」
ゲルレシフ公爵家の兄弟仲も良好なようで、俺たちはその様子を微笑ましく眺めていた。その後も色々なことを話すこととなったが、特に重要な案件に関しては次に顔を合わせる時に話し合おうということとなった。
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