反逆者として王国で処刑された隠れ最強騎士〜蘇った真の実力者は帝国ルートで英雄となる〜【書籍化&コミカライズ企画進行中】

第87話 化け物同士

　破壊の限りを尽くす。

　迫り来る敵を粉々に粉砕し、その武勇を轟かせる。

　そんなものは別に誇らしいことじゃない。

　ただ敵を殺すためだけにひたすら剣を振るう。

　それはもう、そこらの獣と何ら変わらない行為。

　専属騎士としては、相応しくない行いに等しい。

「何を言っている？」

「言葉通り。俺は今から、専属騎士に相応しくない戦い方をします。リーノス卿からしたら、見たくもないようなものです」

「だから、俺に去れと？」

「はい」

　それに、彼がいると本気が出せない。

　巻き込み事故なんて笑えないからな。

　正攻法でなんて戦わない。

　俺に出来る最大限の技巧と強引な戦い方によって、この大蛇の首を刎ね落とす。

「待て、それは俺が邪魔だと言っているのか？」

　少し怒ったような声音のリーノス。

　それに対して俺は、低い声で返す。

「そうだ」

「────っ！」

「まさか、敵に殺される前に味方の流れ弾で死にたくはないだろう？」

　曖昧な答え方をすれば、彼はこの場を去ってくれない。

　だから、敢えて強めにそれを告げる。

「俺が足手纏い、か」

「はい。リーノス卿がいると、本気で戦えない」

「分かった」

　彼は決して弱くない。

　だが、この場においてはまだまだ実力不足であるのは明らか。

　ここは俺だけで挑む方が効率もいいし、勝率も高くなる。

「すみません」

「謝るな。この化け物に歯が立たないというのは、さっきの一太刀で十分自覚している……お前にしか倒せないというのも、なんとなく分かる」

　彼は騎竜を操り、後方へと下がった。

「アルディア=グレーツ」

　去り際の彼はこちらをじっと見ながら、一言。

「死んだら許さない。一人で戦うと言うのなら、必ず勝て」

　彼らしい激励だ。

　死んでしまえば、彼と話すこともできなくなる。

　なにより、ヴァルトルーネ皇女の進むべき道を切り拓いてあげらない。

　だから俺は、

「心得ました。貴方に認められるような専属騎士の働きぶり……してみせますよ」

「……増援は必ず呼ぶ。それまで頼んだからな」

　そう言い残し、リーノスは全速力で騎竜を飛ばした。

　彼が完全に離脱したのを確認。

　それから、俺は大きく息を吐いた。

「ユル……サナイ。コノダイチ、ワタシノ、モノ！」

「ここは帝国領内。侵入者は排除します」

　蛇との交渉は決裂。

　そもそも、分かり合える未来など見えてすらいなかった。

　高速で飛んでくる尻尾の攻撃。

　周辺の木々は吹き飛び、地面には無数の凹みが作られる。

「コロス……」

　攻撃範囲が広いため迂闊に近寄れない。

　横薙ぎを身を屈めて回避。

　刺突は剣で軌道をズラす。

　振り下ろされる打撃には、左右に動きつつ直撃しないように気を付ける。

　──被弾は最小限に。

　一撃の威力が高いから、まともに攻撃を受けてしまえば、次の行動に支障が出る。

　一般兵が剣や槍を振るうのとは別物。

　攻撃を受けつつ、カウンターを決めるという手法は取れない。

「流石に隙がない」

　距離を取れば取るほど、向こうに有利な展開に。

　逆に距離を詰めようものなら、容赦のない尻尾での攻撃が短いスパンで降り注いでくる。

　懐に忍ばせていた複数本の短刀。

　俺はそれを白蛇の瞳に向かって投げ付ける。

「ムダナコトヲ」

　しかし、それは完全に読まれており、尻尾によって落とされる。

「ウガウゥ！」

　大きな口が俺の四肢を噛み砕こうと飛びついてくる。

　なんとか後方にバックし、流血沙汰にはならなかった。

　──尻尾にだけ気を取られていると簡単に噛まれる。

　知恵がある分、俺の行動パターンも段々学習されていそう。

　早めに仕留めないと、死ぬのはこちらか。

　全力で剣を振れる環境ではある。

　相打ち狙いなら割と簡単にやれるが、それだとリーノスとの約束を反故にすることになる。それに今後を考えれば、今、重傷を負うのは望ましくない。

「──先に落としておくか」

「シンデ、シマエッ！」

　張り上げられた尾に合わせて、俺は剣を構えた。

　姿勢を低くし、その攻撃がこちらを捉えるギリギリを待つ。

　砂埃を巻き上げながら、迫り来るその尾を力の限り、

　──斬った。

　先っぽをほんの少しだけ。

　出血もそこまで多くなく、大したダメージにはなっていないだろうけど。

「ギャガァァァァッ！」

　恐らく、この化け物は己の一部を斬られるという経験をしたことがないはず。多少の痛みだろうけど、この一撃は白蛇撃退に十分な一手である。

「これで、帰ってくれれば一番いいんだがな」

　無駄な労力は無いに越したことはない。

「グゥ……」

「あと一押し必要、か」

「ジャマヲ、シナイデ。……ワタシニハ、コノバショガ、ヒツヨウ……ナノ！」

「何が目的かなんて知らない。この場所は帝国の領土……あの方の愛する大切な場所だ」

　どちらも引けないのなら、ぶつかり合うしかない。

　競り合って、

　張り合って、

　どんなに強敵だとしても譲るものは何一つとして存在しない。

「この場で引けば深くは追わない。だが……」

「アキラメナイ……ウガァァァッ！」

　地面に大きなヒビが入る。

　俺が踏ん張り、跳躍したものによって出来たものであった。

　少し遅れて、ヒビ割れた地面は大きく陥没していた。

　鈍重な音と共に蛇の尾が地面を大きく破壊した。

　周囲にはまだ複数本の木々が残っている。

　足場として利用しながら、白い蛇との距離を詰める。

　俺の使用した木を薙ぎ倒し、段々と足場は失われていく。

　──そろそろ決めるか。