第85話 最恐の専属騎士が出向く
「ぐえぁ……!」
ちょうど敵兵の頭蓋骨を粉砕した時であった。
「アルディア卿……え?」
「どうした?」
概ね、俺に用事があって来たのだろう。
帝国兵の一人が俺の方を見て固まってしまった。
まあ、ここまで酷い惨状を目の当たりにすれば、言葉も出てこなくなるか。
死体の山を築き上げ、俺の黒い鎧は血で赤く染まっていた。
スヴェル教団はもうほとんど再起不能。
このディルスト地方での戦いには関与出来なくなったことだろう。
「その……スヴェル教団の動きを封じてほしいと、リツィアレイテ将軍から……」
──伝わる前に潰してしまった。
「そうか。ご苦労……見ての通り、こちらは優勢。心配はいらないと彼女に伝えてくれ」
「はっ!」
こちらの味方は少数であったが、なんとかなった。
教団兵が戦い慣れていないことが幸いしたな。
見せしめに教団兵の一人をグチャグチャにしてやったら、半数近くの兵たちが逃げ出した。
死ぬ覚悟以前の問題。
こちらはたった一人で攻め込んだというのに、怯える必要がどこにある?
「敵将の首……ヴァルトルーネ皇女殿下は、喜んでくれるだろうか?」
こんなものに価値があるとはあまり思えないが、無様に死んだコレも一応名のある将。
討った報告をすれば、多少はヴァルトルーネ皇女殿下の箔になるかもしれない。
付近に転がっていた傷だらけの首を持ち上げる。
少しだけ血で滑るが、まあ持てなくもない。
「残党狩りは……任せておいて問題無さそうだな」
特設新鋭軍には、既に逃げ出した敵兵の掃討を命じている。
俺が出る必要ももう無さそうだ。
リツィアレイテの方も、多分大丈夫。
彼女ほどの人が負けるなんて考えられない。
戦う前から結果はほぼ決まりきっている。
この日のため、こちらがどれだけ準備に時間をかけたことか。
「呆気なかったな……」
「ふん、もう勝利気分か」
「────!」
現れたのは騎竜に乗ったリーノスとドルトスであった。
気が付けば、帝国軍の騎竜兵隊が周辺一帯に溢れかえっている。
特設新鋭軍の方で敵は撃滅したので、彼らにとっては無駄足になったようだが。
「ははっ、もう終わってるのか。流石はヴァルトルーネ皇女殿下の専属騎士様だな!」
「ちっ!」
ドルトスは豪快に笑う。
それとは対称的にリーノスは心底嫌そうな顔をして、不快げに眉を顰めた。
「援軍に来てくれたのですか?」
聞くと、ドルトスが大きく頷く。
「ああ、こっちの方が厳しいって聞いたから、苦しかったら俺たち騎竜兵隊でなんとかしてやろうと思っていたんだが……どうやらその必要はなかったみたいだな」
残すのは追撃戦のみ。
スヴェル教団の撤退はもうほぼ決まり。
騎竜兵隊を導入してまで行うことでもないものだ。
「本軍の方は順調そうですか?」
「ああ、レシュフェルト王国軍は魔道具の仕掛けに翻弄されて、戦いどころじゃない。敗走も時間の問題だな」
「そうですか」
──リゲル侯爵領での戦いよりも簡単に物事が進むな。
「順調ということですね……」
「ああ、本当にだ……順調過ぎる」
リーノスは顎に手を置き考えながら低い声で告げた。
一波乱もない戦い。
ここまでの人員を動員してきたレシュフェルト王国軍並びにスヴェル教団。
確かに手応えが無さ過ぎるという違和感が大きい。
「相手がただ無能な馬鹿どもならば、これでいいのだろうが……全員が腰抜け腑抜けばかりなんてことはないはず」
「つまり、まだ山場があると?」
「さあな。貴様からしたら、このまま何事もなく終わればいいとでも思っているんだろうが」
流石に気を緩めるのはまだ早いか。
俺が対峙したのは、スヴェル教団軍の約半数。
残りの半数はまだ森林の奥に布陣していることだろう。
逃げ帰って兵が撤退を申し出ているはずだが、それで素直に撤退するかは分からない。
「おい、どこに行く?」
リーノスに声を掛けられるが、俺はまだ終わっていないと改めて認識させられた。
敵が退くのを待っているだけじゃダメだと。
潰すのなら、全滅を狙うべきだと再認識させられた。
だから、
「残党狩りに……スヴェル教団の軍はまだ奥地にいるはずですので」
「一人で行くのか?」
「既に特設新鋭軍は追撃戦を行っています。そこに加勢するだけですよ」
全滅させるなら、俺が行った方がいいし、速い。
それ聞き、ドルトスは考え込む。
「リーノス、お前も彼と行け。念のためだ」
そして、リーノスに俺との同行を命じた。
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