第4話 大賢者、魔物を狩る
俺の見立て通り、メリスちゃんは順調に元気になってきた。
しかし、栄養が足りない。
麦粥だけでなく、もっと滋養があるものを食べさせてやりたいのだが……。
「申し訳ありません、大賢者様。じつは数ヶ月前から羊をさらうドラゴンが現れるようになり、街とのやり取りが滞っているのです」
と、おじさんが事情を話してくれた。
ちなみにおじさんはこの辺の農家をまとめる顔役で、教会の神官も兼ねているそうだ。
どうりでただの農夫にしては学がありそうだと思った。
「このあたりにドラゴンが? 被害はどの程度ですか?」
「月に2頭か3頭、羊がさらわれます。それよりも厄介なのは行商人の荷馬車を襲うことです。そのせいで、行商人たちがめったに寄り付かなくなってしまい……」
田舎の村にとって、行商人の存在は生命線だ。
行商人が来なくては、村では作れない塩などの調味料や、布や鉄製品などの生活必需品を手に入れる手段がなくなってしまう。
街に買い出しに行こうにも、魔物が出るのではいちいち危険を伴うことになる。
「直近で羊がさらわれたのはいつですか?」
「2週間ほど前になります」
ほう、それならぼちぼちまた現れる頃か。
俺は村人たちが羊を放している牧草地でドラゴンとやらを待ち伏せることにした。
* * *
「ヒツジさーん、花かんむりできたよー」
「ありがとうぐえー」
俺が出かけると、メリスちゃんまで着いてきてしまった。
まあ、危ないことにはならないだろうからかまわないのだが……俺で遊ぶのはちょっと困る……困る? 俺は困っているのか? 十歳くらいの女児に草で編んだかんむりをかぶされたり、ぎゅっとされたり、腕をつかんでブンブンされたり、高い高いの勢いでそのまま空高くぶん投げられることに対して本当に困っているのか? なんならちょっと楽しいまである。楽しんでしまっている自分が怖くもある。父親になったような気分でもあり、姉か妹ができたような気分でもある。なんだろう、開けてはいけない扉の手前にいるようなスリリングな心持ちだぜ!
「ヒツジさん、なにか飛んでるよー?」
俺が複雑な心境を早口で脳内実況していると、いつの間にか遠くの空にでっかい何かが飛んでいた、
魔力で視力を強化し、その何かの正体を探る。
ざっくり全体の形を言えば、馬鹿でかいトカゲ。
前肢が皮翼となっており、尻尾の先にはナイフのような棘が生えている。
なるほど、こんな人里にドラゴンが現れるなんて妙だなあと思っていたが、思った通りドラゴンではなくワイバーンだったか。
ワイバーンは俺たちのことなんて目にも入っていないようで、羊を狙って上空をぐるぐると回っている。
俺は攻撃魔法の準備をして――あ、待て、メリスちゃんの前で魔物の殺戮ショーは情操教育上よろしくないんじゃないか?
俺は、恐る恐る確認してみる。
「め、メリスちゃんはさ、羊の解体とか、見たことある?」
「うん! 皮を剥ぐのが上手だって褒められたよ! ヒツジさんも、皮剥がれたいの?」
「あ、いや、そういうのじゃないですんで大丈夫ですはい」
めっちゃ余計な心配だった。農家の子どもを舐めてたぜ……。
というわけで、俺は魔力で銀色に輝く投げ槍を創り出し、ビシュンと発射した。
銀の槍はワイバーンの首を貫くと、空中でキラキラと輝きながら散る。
「わあ、きれい!」
その様子を見たメリスちゃんが、胸の前で拳を握ってきゃっきゃとはしゃいでいる。
んでもって、ワイバーンの巨体がどしゃりと地面に落ちた。
「ヒツジさん、すごい! あれ、どうやったの?」
「うーんとね、魔法ってやつだね」
「魔法ってどうやるの?」
「うーん、一言でいうとね……一言でいうと……」
メリスちゃんにもわかりやすいように簡単に説明しようと思ったが、魔法の仕組みを簡単に説明するのは不可能なことに俺は気がついた。
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