第73話 余裕の理由

 大きな肉にかぶりつき、それを酒で流し込むと、ドワード第二王子がコウケン魔将軍に話しかけた。


「コウケン、反乱軍のフォリスって知っているか」


「私が戦ったのはスザクという化け物でした。そのスザクを連れてきたのがフォリスという超美少女でした」


 二人がフォリスという名を口にする度に、フォリスさんの体がビクンビクンと、まるでしゃっくりをするように動くのが面白い。


「ふむ、俺は戦ったが、まるで歯が立たなかった」


「で、ありますか。私が戦った赤黒い化け物スザクも強かった。私が赤子扱いでした。しかも、そのスザクが、王都に何千もいました」


「な、なにーー。あの赤黒いのそんなに強かったのか」


 三人の王子が驚いた。


「自称魔王野郎は相当な戦力を保有していると言うことか」


 ドワード第二王子がつぶやいた。

 でも、この言葉を聞いても第三、第四王子には余裕があった。

 一体、二人のこの自信は、どこから湧いてくるものなのだろうか。

 不安そうな、ドワード王子とコウケン魔将軍の顔を見て、ジセイ第三王子が、黒い手帳の様な物を机の上に置いた。


「兄さん、コウケン、これがなんだかわかりますか」


「……」


 ドワード王子と、コウケン魔将軍が首をひねっている。

 すると第四王子も、同じ物を机の上に置きニヤニヤして口を開いた。


「魔法書だ」


 な、何のだよ!!

 もったいぶりゃーがってー!


「な、何の魔法書でしょうか」


 コウケンさんがおそる、おそる質問した。


「ふふふ、オフスウィータ……」


「うわあああああああああーーーー!!!!!」


 僕は悲鳴を上げて椅子を倒して、後ろへごろんごろんと転がってしまった。

 おかげで長いスカートがまくれ上がり、下着が丸出しになっている。

 誰だよーー、僕にこんなセクシーで大人な下着を着せたのはーー。

 メイドの誰かが着せてくれたんだろうけど、はいている自分が驚いてじっと見てしまった。


 顔を上げたら、三人の王子とコウケン魔将軍、フォリスさんまで驚いた顔をして見ている。

 僕は男だから見られることは別に気になりませんが、この下着をはいている自分が恥ずかしくなり、真っ赤な顔になりスカートをなおした。


「……」


 五人がわれを忘れて見ていたけど、スカートを直すと五人は我に返った。

 すると、ジセイ第三王子とファージ第四王子の目が、夜の湖のような暗い目になり僕を見てきた。

 また、あの狂気の顔になり見つめてくる。

 やばい、なにか感づかれた。なんとか誤魔化さないと……


「アズサさん、何を驚いているのですか?」


 第三王子ジセイさんが静かに優しげな声で聞いて来た。

 だが、顔はあの狂気をまとった、背筋の寒くなる表情だ。

 うまく誤魔化さないと何か感づかれてしまう。

 ――やばい、やばい。

 驚いてはいけないところで驚いてしまった。


 あの魔法書のオフスウィータこそが、自分の命を犠牲にして、自分より強い相手を殺す魔法なのだ。

 僕が魔王とばれて、魔法を発動されれば、ここで僕の人生が終ってしまう。

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