第64話 叫び

「うわあチョ、フォリスさまーー。あーあ、もう行っちまったよ。はえーなーー」


 オウブさん聞こえていますよ。


「な、なんだ、お前らは……」


 私はスザクと二人で、コウケンさんの前に移動をしました。


「この子はスザクと言います。あなたの一騎打ちのお相手をします」


「ちっ、ガキとバケもんか!」


「私の名は、フォリス、魔王様を守護する者です。馬鹿にすることは許しません」


「ふざけているのか、反乱軍わー! 俺の相手がお前達だとー! 許さんのはこっちだー!! 舐めているのかーー!!」


 コウケンさんが、大声で私を恫喝します。

 目が血走り怒りの具合が想像出来ます。


「舐めているのは、あなたの方です。なぜ偉大なる魔王様に忠誠を誓わないのですか」


「やかましい!! てめえらを殺して、反乱軍を全員血祭りに上げてやるー!!!」


 コウケンさんが頭の上で、太い棍をグルグル回します。


「言っても無駄のようですね。スザク、相手をしてあげて下さい」


 私の言葉を聞くと、スザクが、コウケンさんの前に歩き出します。


「うおおおおーーーー!!」


 カーーーーーン


 スザクの頭の上に棍が叩き付けられました。

 あまりの勢いに棍が弓なりに曲がり、スザクの足が数センチ地面にめり込みました。


「な、なんだと!!」


 スザクは、何事も無かったように立ち続けています。

 コウケンさんはそれが信じられないように驚いています。

 私は頭の上に手を置いて体を横に曲げます。

 スザクはそれを見て、コウケンさんの棍をつかみ、体をすさまじい速さで、曲げました。


 バキバキ


 まるで森の木が何本も折れたような音がして、コウケンさんの腕から血が噴き出しました。


「ぎゃああああああーーー」


 コウケンさんが叫び声を上げました。

 この世の物とも思えない、断末魔のような声です。

 コウケンさんの腕から、地面に何本もの糸が垂れ下がっているように血が流れ落ちます。


「そんな程度で、悲鳴をあげるとは、魔将軍筆頭なんてこんなもんですか」


「ぐうううううう」


 膝をつき、うなっているコウケンさんの腹を蹴り上げ、敵の兵の中に蹴り飛ばしました。


「聞きなさい。アスラ魔王軍は、降伏して忠誠を誓うなら、今よりアスラ魔王軍の兵として迎え入れます。そのまま、前に出て、その意を示しなさい」


 私は大声で叫びます。


「……」


 まだ敵兵は静かに黙ったまま動きがありません。

 私は続けます。


「これより王都内に、このスザクが数千人現れて、王都を占領します。混乱の中で家族が死なないように、前に出た者はすぐに王都に転送します。家族を安心させて、家の中で静かにするようにしてください」


 敵兵が動揺しました。

 ザワザワしています。


「それでも、まだ、アスラ魔王軍に敵対するのなら、ここから撤退し、もう一度戦場で再会しましょう。追撃はしませんので、のんびり撤退して下さい。但し、あなた達が戻る頃には王都は落ちているので、帰る先は王都の先になりますよ」


「こ、降伏します。王都へ。家族に会わせてくれー」

「おれもだーー」

「おれも、かえらせてくれーー」


 一人が声を出すと次々声が上がりました。


「き、きさまらーー。裏切ることは許さんぞーー」


「うるせーーー」


「ぎゃあああああ」


 同士討ちがはじまりました。

 私は、アスラ軍への忠誠を誓う者を、次々王都へ転送しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る