第58話 重苦しい街

「中へどうぞ」


 もう一人の美少女が商館内へ案内してくれた。

 こんな所を組織の人間に見つかったら……。

 殺されるって思ったが、見つからなくても、殺されるのは同じか。そう思った。


 商館内には所狭しと、武器と防具、魔法薬が置いてある。

 商談用なのか、テーブルが二つだけ置いてあり、その一つに案内された。


「単刀直入に言うニャ」


「……」


 俺は、返事も出来ずにツバを飲み込んだ。

 もう猫耳少女というのは気にならなくなっていた。


「支部の場所を教えるニャ」


「なっ」


「対価として、お前の身柄は支部が無くなるまで保護するニャ」


「しばらく考えさせてくれ」


「いいニャ。気が変わったらいつでも来るといいニャ」




 俺は、よろよろ商会を出た。

 商会を出た瞬間、組織の人間の姿を見つけることが出来た。

 下手くそな監視だ。

 それに比べエドバン商会の尾行はどうだ、この俺でも見破ることが出来ない。


 ――格が違う


 俺はホテルの部屋に戻ると、ベッドに寝ころび天井を見つめた。

 エドバン商会をただの商会と思っていた。

 ふふふ、笑える、敵が多い商会だが、それを解決する実力も、組織の支部ぐらい、簡単につぶす事が出来るほどの実力もある。いや、それ以上の実力があると判断出来る。

 だが、組織の支部を売る事を出来ないでいた。


 三日が過ぎた夜、来客があった。


 ドッカーーン


 俺の部屋の扉が破壊された。


「よう、バルカス」


「なんだ、おまえら、忙しいんじゃねえのかよ」


 俺の部屋に来た来客は、組織の最高幹部の四人だった。


「ははは、組織の裏切り者を殺すのが一番重要な任務だ。最優先して来てやったぜ」


「まあ、俺はまだ裏切っていねーがな」


「嘘を付け、裏切っていねーなら、なぜ失敗の報告をしねーんだ」


「それかー。それなら、俺がつけられていたからだ。そのまま報告に戻れば、支部の場所がバレてしまうからな」


「嘘を付け、お前に尾行なんぞ付いていなかったぞ」


「いつまで、しゃべっているつもりだー、いくぞー」


 最高幹部が四人で一度に襲いかかってきた。

 この四人相手では勝てるはずも無い、俺は情けないことに目を閉じてしまった。


「うぎゃあーー」

「ぐああーー」

「きゃあああ」

「ぐはあっ」


 四人が吹き飛ばされた。

 俺には何が起きたかわからなかった。


「シャドウ、よくやったニャ」


「猫耳少女!!」


 窓から猫耳少女が入ってきた。


「アドは、アドにゃ!!」


 な、なんだよ、それ!

 自己紹介のつもりか?


「アドさん、いったい、何が……」


「お前には、アドが見えない護衛、シュドウとシャドウをつけておいたニャ」


 俺は、組織の支部の場所を話し、保護を受ける決意をした。


 この後、組織の場所を教えたら、半日で支部長コルトの事をつかんでいた。

 アドさんがすごいのか、エドバン商会がすごいのか、いずれにしても逆らわないようにしよう。


 俺がホテル暮らしをしていると、街は暗く重苦しい雰囲気に包まれてきた。

 魔王を名乗る反乱軍が、何万もの兵士で攻めてきていると噂が広がってきたのだ。

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