第46話 共闘

 隠れ村に来て五日目の内に第十九階層まで攻略し。

 六日目である今日は第十九階層にて《レベル》上げです。


「今日はよろしくお願いします」

「ハッ、全身全霊を尽くさせていただきます」


 それと並行して隠れ村の狩人長、ネラルさん達との連携の練習も行います。

 最終守護者はかなり強力で配下も召喚するので、一パーティーで倒すのは困難だと進言した結果です。

 ネラルさん達はちょうど第十九階層を攻略し終えたのもあり、快く協力してくださりました。


 渓谷の上の丘陵地帯に繋がる扉を抜けて、第十九階層に入ります。

 歩いているとミノタウロスに遭遇するので、まずはヴェルスさん達が、次にネラルさん達が戦ってお互いの動きを確認しました。

 そしてその後、二パーティー合同で戦います。


 一パーティーでも危なげなく倒せていた相手です。

 仲間が増え戦場把握により意識を割く必要が生まれたとは言え、特に苦戦することなく倒せました。

 近接組の連携も、戦闘回数が五回を超える頃にはまずまずの出来になっており、今戦っているミノタウロスも開戦から二十秒と待たず《ドロップアイテム》に変えられました。


「いやはや皆様、本当に動きが良いですね。私共わたくしどもより《レベル》が低いとは信じられません。秘訣などあるのでしょうか」

「あはは、ありがとうございます。ただ、秘訣というか、僕達が強いのは師匠の──」


 ネラルさんが言ったように、ヴェルスさん達の《レベル》は彼らより少し劣ります。

 ヴェルスさん達はまだ五十台前半なのです。


 《迷宮》魔物は深い階層ほど《レベル》のばらつきが大きくなります。

 そのため、安全マージンをきちんと取っていると《レベル》上の魔物が現れることはどんどん減って行き、《経験値》効率が落ちるのです。


 この仕様は《迷宮》に潜る狩人にはまず初めに教えています。

 なかなか上がらない《レベル》に業を煮やし、レベリングが不十分なまま深い階層に挑戦してしまい、強い魔物に殺されることがないようにです。

 『複数の群れと同時に襲われる可能性を考える』、『《宝箱》はミミックかもしれないので気を付ける』、『《封魔玉》は必ず提出する』、『《迷宮核》には絶対に近づかない』などと並び、《迷宮》挑戦者基礎知識の一つに数えられます。


「村で噂になっておりましたがそれほどなのですか。ならばいつか私も御教授ごきょうじゅ願いたいものです」

「私はいつでも構いませんよ」

「では、今日の狩りが終わった後にでもよろしいでしょうか」

「分かりました。ヴェルスさん達と一緒にネラルさんにも助言しましょう」


 そんな調子で第十九階層での活動はつつがなく終了しました。

 連携の確認も終え、ヴェルスさん達の《レベル》も少し上がり、そして次に挑むのは第十階層。

 最終守護者と戦う前に景気づけで雑魚狩りをしよう、という訳ではもちろんありません。


「ぞろぞろ居やがるな」


 谷底をミノタウロスの群れが闊歩しています。

 攻略時はスルーしましたが、第十八階層にはレギオンが発生していたのです。

 ミノタウロスは通常は群れないため、レギオンの規模も十四体と控えめですが、油断して正面から挑めば厳しい戦いとなるのは火を見るより明らかでしょう。


「これだけ離れていれば強化バフは気取られません。わたくしに合わせてください」


 ネラルさんの言葉に《上級》以上の《魔術師系職業》を持つ皆さんが頷き、集まって魔力を練り始めました。

 しばしの構築時間を経て、〈儀式魔術〉が発動します。


「〈ブレッシングフィールド〉」


 渓谷の上、坂道を上り切ったところにある広場が白い光に包まれました。

 この光の範囲では、味方は《パラメータ》が向上し、自動で傷が癒されていきます。


「協力ありがとうございました」

「次はボクが中核をやりましょう。アーラさん、手伝ってもらってばかりですみません」

「ん、私、補助も範囲攻撃も不得意、仕方ない。それより術式構築、問題なかった?」

「ええ、むしろ我々の方が手間取ってしまって面目ないです」

「それなら、安心」


 などと話している内にミノタウロス達が適度な位置まで移動したため、魔術師組が二つ目の〈儀式魔術〉の準備に入ります。


「構築開始!」


 ネラルさんチームの魔術師の掛け声で大規模な魔力が練り上げられて行きます。


 〈儀式魔術〉。

 それは複数人で発動させる〈魔術〉です。


 構築に参加するには《職業スキル:儀式魔術》を持っている必要がありますが、一人では扱えない大規模な〈魔術〉を発動できます。

 例えば先程の〈ブレッシングフィールド〉のような広域強化バフ〈魔術〉は、本来ならもっと等級が上の《魔術系スキル》が無くては使えません、


「やっぱ気付かれるよなぁ」

「これだけ濃密な攻撃の気配がすれば当然だね」


 谷底にいたミノタウロスは攻撃の気配から私達の居所いどころを特定し、この広場へ続く坂を上り始めます。

 さすがの決断速度、及び移動速度ですが、この調子なら〈儀式魔術〉の方が先に完成するでしょう。

 射程外に逃げられず、かつ坂から充分に離れるのを待った甲斐がありました。


「あと十秒で完成です!」


 坂の終点に立つ魔術師さんがそう告げました。


「ではヴェルス様、タチエナ殿、そろそろ仕掛けましょう」


 ネラルさんの言葉で〈剣術〉組が武器を構え、魔術師さんの両脇に立ちます。


「〈飛断〉」

「〈息吹斬〉!」

「〈斬光聖十字〉」


 三種の斬撃が宙を翔けます。


 〈下級剣術〉はタチエナさんが。

 〈上級剣術〉はヴェルスさんが。

 そして《剣術》と《光魔術》の〈複合術技〉はネラルさんが放ちました。


 しかしそれらは、先陣を切るミノタウロス達の〈術技〉で相殺されます。

 〈儀式魔術〉に備えていつでも迎撃できるよう準備していたからです。


 〈術技〉で硬直するミノタウロス達を置き去りに、他の者達は気にせず進みます。

 〈術技〉の準備が出来ている者はまだ残っているため、彼らに迎撃されれば〈儀式魔術〉の威力はかなり減殺げんさいされるでしょう。


「いきますよ、〈エクスプロージョンストライク・グランド〉」


 〈術技〉の硬直が抜けたヴェルスさん達が退避した段階で、〈儀式魔術〉が放たれます。

 爆発の〈魔術〉、〈エクスプロージョンストライク〉を大規模化させたその〈儀式魔術〉へと、ミノタウロス達が〈術技〉を放つ瞬前。

 彼らの体に鋭いナイフが突き刺さりました。


「「「グモォォっ!?」」」


 ナイフに塗られた毒によりミノタウロス達は灼け付くような痛みに襲われます。

 《抵抗力》の関係でそこまでの激痛にはなりませんが、そもそものナイフが刺さるダメージと合わさり、ミノタウロス達の〈術技〉がキャンセルされました。

 そこへ巨大な炎球、〈エクスプロージョンストライク・グランド〉が着弾します。


 ミノタウロス達の悲鳴を掻き消すように、爆音が耳朶を打ちました。

 無防備に〈儀式魔術〉の直撃を受けたミノタウロス達の数は、既に初めの半数近く。

 生き残っている者にもかなりの被害が出ています。


「突撃です!」


 ヴェルスさん達が一気に坂を駆け下り、白兵戦を仕掛けました。

 坂の脇の崖上からは、シーケンさんが一度に何本ものナイフを投げて援護します。

 なお、ミノタウロス達の注意が〈儀式魔術〉に集中し、《気配察知》が最も緩んだ隙を突き、投げナイフで攻撃したのも彼女です。


 さて、そんな状態ではミノタウロス達に抵抗の余地はなく、程なくしてレギオンは全滅したのでした。

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