第10話 頭領
「ゲッハッハッハッ、今日は大漁だったなぁ!」
戦利品を前にした盗賊団の頭領は、満足そうに叫んだ。
「その分大変だったっすけどね、ふう……」
「フン、お前らは鍛え方が足らんわ。それでもオーリル盗賊団の一員か!」
「す、すいやせんお頭ぁっ」
頭領オーリルが部下を叱責する。
そもそも、戦闘で彼が先走るせいで部下に《経験値》が回らず、《レベル》が低いままなことには気づいていない。
部下の一人が、おずおずと口を開く。
「そ、それで、追手の連中は大丈夫なんですかい? 副頭領達に任せてやしたが……」
彼らの心配の種は、追って来ているという村の狩人達にあった。
首尾よく略奪を終えた彼らは、手頃な洞窟で一休みすることにした。
しかしそのとき、副頭領の弓使いが追手に気づき、部下を引き連れ迎撃に向かったのだ。
頭領を含む自分達は戦利品の運び込みを頼まれたが、ここでのんびりしている間に副頭領達がやられ、自分達も襲われるのではないかと不安なのだ。
だが、そんな思いを頭領は鼻で笑い飛ばす。
「ガハハハッ、部下をほとんど任せたんだぞ? あんな寂れた村の狩人に負けるはずないだろう」
「それもそうっすね」
あれだけ連れて行けば負けないはずだ、と部下達は納得した。
それを見て頭領は戦利品の一つを手に取る。
「……っ!」
「じゃあ俺はこいつで楽しんで来るからお前らはここで見張りやっとけよ」
「「「へいっ」」」
村からの戦利品の一つ、即ち、
残された四人の部下達は、言いつけ通り入口の守備を固めるのだった。
洞窟の奥にあった大きな空洞。
そこに着いた頭領は、岩肌の上に少女を下ろした。
そして猿轡を外して訊ねる。
「クック、嬢ちゃん、何か言いたいことはあるか?」
「いつか絶対殺してやるわ、このクズ」
「ひゅー、強気だなぁ。そういう女は好きだぜ、壊しがいがあるからな」
端正な顔を怒りに歪ませた少女は、頭領をキッと睨みつけた。
しかし、そんな視線などどこ吹く風で、頭領は平然としている。
なお、両者ともに《暗視》を持っているため、暗所であっても互いの姿を捉えるのに支障はない。
「まっ、お前がいくら気を張ったところで現実は何も変わらねえがなァ」
「チッ!」
「弱ぇ奴は辛いなぁ、一方的に奪われちまうんだからなぁ、イヒヒッ」
軋むほどに奥歯を噛み締める少女。
その彼女に下衆の魔の手が触れる、その寸前。
「待てっ」
新たな気配が現れたのだった。
◆ ◆ ◆
「では、彼らをお願いします」
「応、ワシに任せておけ」
私の渡した果実を齧りつつ、ドリスさんは鷹揚に頷きました。
今しがた合流した彼女に頼んだのは、《万里の
盗賊の頭領達を叩く間に、拘束を脱しないとも限りませんから。
「では、行きましょうか」
「はい」
「ああ!」
「うん」
そして私とヴェルスさん達で頭領達を追います。
足跡や折れた枝など、集団が移動した痕跡を辿り、さして時間もかからずそこに着きました。
捕まえた盗賊達の言っていた通り、洞窟に滞在しているようでした。
四人の見張りを遠くの木陰から盗み見つつ、ヴェルスさん達は作戦を話し合っています。
「どう仕掛けんだ?」
「そうだね、まずは──」
「私が行きましょう」
木陰から飛び出し、高速で近づき、
一人につき一打で、正確に意識を刈り取りました。
「独断ですみません。少し急いだ方が良さそうですので」
「い、いえ、助かりました」
「この男達はあと一時間は起きません。今の内に進みましょう」
追いかけて来たヴェルスさん達と一緒に洞窟へと入って行きます。
中は真っ暗でしたが、三人とも《暗視》を持っているため問題はないとのこと。
少し進んだところで食料などを見つけましたが、肝心の攫われた人は居なかったためさらに奥へ。
駆け足で進むことしばし、行き当たった広間で目的の人物を見つけました。
「待てっ」
広間へ入るなり、ヴェルスさんが制止の声を発しました。
入口に背を向け、いかがわしい気配を放っていた男が振り返ります。
「なんだよォ、いいとこだったのに」
「タチエナから離れろ!」
私に対する態度とは打って変わって、荒々しく叫んでいます。
「ああ、お前らあの村の連中か。表の見張りはともかく副頭領達を倒せるはずねぇが、別動隊でもいたか?」
見当違いの考察を呟きつつ、盗賊の頭領が立ち上がりました。
「で、何しに来た?」
「そんなの決まってるだろ!? お前らが奪ったものを取り返しにだ!」
「ハァーハッハッハッ。面白ぇことを言うなぁ、雑魚の分際で」
脇の壁に立てかけられていた大剣を手に取り、ブンと振るいました。
地面に刃が当たり、大きく抉れます。
「村人にしちゃそこそこやるようだが、そこそこ止まりだぜ。身の程ってもんを教えてやるよ!」
啖呵を切ると同時、頭領が駆け出しました。
ヴェルスさんと槍使いのロンさんも前に出ます。
ヴェルスさんが正面からぶつかり、ロンさんがその斜め後ろから援護する布陣です。
魔術師のアーラさんはそのさらに後ろで〈魔術〉を撃つ機会を窺っています。
そして私は補欠です。
村の問題を他人に頼り切るわけには行かない、という彼らたっての希望により、ギリギリまで手出ししないことになりました。
三人だけでは敵わないとも伝えたのですが、それでも変わらなかった彼らの意思を尊重した形です。
自分の方が上手くできるからと何もさせなくては、新人は育ちません。
若者が意欲を持って挑戦を望むなら、それを手助けするのが年長者の務めです。
「オラァ!」
「くっ」
ヴェルスさんと頭領の斬撃が衝突し、打ち勝ったのは頭領のものでした。
頭領の豪快な縦振りに、ヴェルスさんが押し戻されます。
すかさずロンさんが槍を突き出すも、
「遅ェ!」
大剣の腹で受け流されます。
ですが、頭領の追撃を封じられただけ成果は充分。
そこへ本命の一撃を叩き込みます。
「〈アイアンショット〉」
アーラさんが切り札の〈魔術〉を発動しました。
鉄の弾丸が飛んで行き、剣の腹で受け止められます。
頭領は一、二歩たたらを踏みますが、それだけです。
「ほう、〈上級魔術〉か。やるなぁ」
「…………」
ニヤニヤと笑いながらの賞賛は、その攻撃が脅威でないことを如実に示していました。
〈アイアンショット〉はアーラさんの扱える中でもトップクラスの〈攻撃魔術〉。
それが防がれたことで少なからず動揺が広がります。
「お返しに俺も見せてやるよ、〈上級剣術──」
「! ロンっ、防御だ!」
「──
一度大きくバックステップした頭領が、腰だめに大剣を振り被り、その場で横一文字に振るいました。
当然、刃は届かないのですが、どうしたことでしょう。
なんと太刀筋に沿って半透明の衝撃波が放たれたではありませんか。
衝撃波はかなりの勢いで飛んできました。
ヴェルスさんとロンさんが食い止めなければ、私やアーラさんの元まで届いたことでしょう。
「ぐっ」
「チクショウっ」
そんな一撃を防いだお二人は、それなりに消耗したご様子。
そこへ余裕の滲む声で頭領が話しかけてきます。
「どうだ、これで分かったかァ? 実力が違うってことがよォ!」
「まだまだです! 行くぞ、ロン!」
「当然だ!」
ヴェルスさん達に折れる気配はありません。
気合を入れ直したお二人は、気勢を上げて立ち向かって行くのでした。
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