第25話 今まで通りで
「……やはりソーマ様はとてもお優しいですな。そんなソーマ様だからこそ尽くしたいと思うのです。それにそちらのパン窯や屋台は孤児院で使うと聞いております。でしたら是非とも私にもそのお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
「………………」
そこまで言われると断り難い。しかし俺も無償で全部のお金を出すつもりではない。最初の資金はともかく、パン窯や屋台のお金は商売が軌道に乗り出したら、少しずつ返してもらう予定だ。少なくとも孤児院の院長達にはそう伝えてある。それをデルガルトさんにすべて出してもらうのはちょっとな……
「口を挟んでしまい申し訳ない。どちらかがすべてを負担する必要はないのでしょうか? おふたりの間を取って材料費はソーマが、パン窯や屋台を作る人件費についてはデルガルト殿が負担するというのはいかがですか?」
……なるほど。確かにエルミーの案なら、実質的にデルガルトさんが、お金の面でマイナスになるということはない。
「そうですね。もしデルガルトさんが大丈夫でしたら、本当に申し訳ないのですが、そちらでお願いできないでしょうか?」
「そういうことなら喜んで受けさせていただきます。材料費のほうも負担になるようでしたら、遠慮なく頼ってくださいね」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
「エルミーのおかげで助かったよ。ちょうどいい落とし所を教えてくれてありがとうね」
「少しでも役に立てたのならよかったぞ」
「実際にあそこの工房に依頼したら相当な人件費がかかるだろうからな。それを出してくれるってんなら十分すぎるだろ」
「あの工房の元親方レベルなら、人件費で材料費の何倍もかかりそう」
おう……街で一二を争う工房の元親方ならそれも仕方ないのか。リハビリにちょうどいいとは言ってもいたし、ありがたくその厚意を受け取るとしよう。
「ソーマお兄ちゃん!」
「おっと」
デルガルトさんの工房を出て孤児院に行くと、早々にリーチェが抱きついてきた。もちろん身長差があるから俺のお腹あたりにだ。
「リーチェ、院長先生はいる?」
「うん、今呼んでくるね!」
今日は少しお願いしたいことがあるから、花を売りに行かないで、孤児院にいてくれるようお願いしてある。
「ソーマさん、パン屋のドルディアさんのほうはいかがでしたか?」
「ええ、おかげさまで協力してくれることになりました。それとパン窯や屋台のほうも工房にお願いしてきたので、予定通りお店は出せそうです」
「それはありがたいです! ソーマさん、この度は何から何まで本当にありがとうございます!」
「ソーマさん、本当にありがとうございます!」
院長さんとミーナさんが頭を下げてくる。
「いえいえ、初期費用はすべて出しますけれど、少しずつ返してもらいますからね。それに実際に働いてもらうのは皆さんなので、むしろこれからは皆さんに頑張ってもらいますから」
「もちろんでございます! 子供達も頑張って働けば、美味しいご飯が食べられると、やる気に満ち溢れております!」
「ソーマお兄ちゃん、みんながお腹いっぱい食べられるように僕も頑張るよ!」
「うん、リーチェはいい子だね。でもあんまり無理し過ぎちゃ駄目だよ」
リーチェの頭を撫でてあげると、少しだけ恥ずかしそうにしている。そうか、こっちの世界だと女の子が頭を撫でられるのはそこまで嬉しいものではないのかもしれない。
「……それであのソーマさん。今さらで大変申し訳ないのですが、ソーマ様は今このあたりで噂になっている黒髪の男神様と呼ばれている治療士様なんでしょうか?」
「………………」
ここ数日でだいぶやらかしたからな。この孤児院にも噂が聞こえてきたのか、ミーナさんがおずおずと聞いてくる。
「ええ、断じて男神様とやらではないですけれど、治療士をやっています」
「や、やはり、そうでしたか!? ソーマ様、この度は私達や子供達が大変無礼な振る舞いをしてしまい、本当に申し訳ございません!」
「そういうのは気にしないでください。今まで接してくれたようにしてくれたほうが俺も嬉しいです」
「へっ、いや、あの、さすがにそれは……」
「院長、ソーマはこんな性格だから今まで通りに接してほしい。私達も様をつけて呼びたいのだが、許してくれないのだ」
「いや、いくら回復魔法が使えるからって、俺みたいな年下に敬語とか嫌だよ。それに3人とも俺の命の恩人なんだから、俺のほうが敬語を使わないと駄目じゃん!」
「まあソーマは変わっているけれど、本当にいいやつだから、できるだけ普通に接してやってほしい」
「は、はあ……なんというかソーマさんは変わっていらっしゃいますね」
「ソーマをあの治療士と同じように考えないほうがいい」
相変わらずこのあたりに1人しかいない治療士の評判はよろしくないようだ。
「ソーマお兄ちゃんは偉い人なの?」
「いいや。リーチェも気にしなくていいからね」
そのままいつでも俺に気軽に抱きついてくれていいんだからね。
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