ラのゴジュウニ「電話に電話」

──プルル……。


──プルルルル……。


『只今、電話に出ることが出来ません』


──プチッ!


 姫野桜花はベッドに寝転がり、掲げた携帯電話の画面を見ながらプクゥと頬を膨らませていた。

 通話を切って起き上がると布団の上に携帯電話を放る。


「なんで出ないのよ!」


 劉生に何度か連絡を入れてみたが返事はない。

 劉生が学校を休んでいることから、未だに姫野家のお家騒動以降に顔を合わせられていない。

 向こうは桜花の家を知っているが、桜花は劉生の家を知らないので突き止めようもない。

 近所に住んでいるというのは想像がついたが、それでもまさか一軒一軒を回って調べるわけにもいかないだろう。


「大丈夫かなぁ……?」

 表立っての欠席理由は『体調不良』となっているが──果たして、本当だろうか?

 唯一出来た友だちからも見捨てられてしまったのではないかと、桜花は気が滅入ったものだ。


「一言、ごめんねって謝りたいんだけどなぁ……」

 行方が分からないのでそれすらも叶わない。

 今はただ、劉生からの折り返しを待っていることしか出来なかった。


──ブィィイイイッ!


 不意に、放った携帯電話が振動し始めた。


 誰かからの着信だ。


 桜花は慌てて飛び起きると、携帯電話を拾い上げて操作した。


 劉生かと思って表情が明るくなる桜花だったが──液晶画面に表示されたのは別の人物の名前だった。


──まぁ、それでも別に悪いわけではない。

 桜花は通話ボタンを押すと電話を耳に当てて答えた。


「もしもし? 黄昏さん」


 少弐黄昏からの着信であった──。


『ごめんね、桜花ちゃん。なかなか連絡できなくて』

 スピーカー越しに黄昏の声が聞こえてくる。


 こちらの姿が見えているわけではないのだが、申し訳なさそうは黄昏に対して桜花は首を振るった。


「いえ、大丈夫ですよ。……それより、妹さん、見付かったみたいで良かったですね!」

 通話は久し振りだが、メッセージでのやり取りは直前までしていたのだろう。妹と再会できるかもしれないと言う情報は、桜花も承知していた。


 自分のことの様に喜んだ桜花だったが──。

『それが……』

 黄昏の声は暗い。

『また行方知れずになっちゃったんだよ』

「あら……。残念ですね」

 何と言葉を返したら良いものか、答えに困る話しである。


『うん、でも今は協力してくれる人が出来てね。学校の後輩なんだけど、その人にも手伝って貰って足取りを追っているところさ』

「へー、ごめんなさい。私も、学校がなければすぐにお手伝いに行ったところなんですけど……」

『いやいや、構わないさ。桜花ちゃんは桜花ちゃんのことを第一に優先してやってくれれば』

 黄昏は苦笑する。


「そう言えば後輩? ……ってことは、私の学年の人ですよね?」

『ああ、そうか。そうなるね』

 桜花に指摘されて黄昏も気が付いたらしい。

『ほら、この前、転校してきた劉生君だよ。彼が手伝ってくれてるんだ。だから、桜花ちゃんはこっちの心配をしてくれなくて良いから』


「……えっ!?」


 黄昏の言葉に、桜花は驚いて声を上げた。


 こうも連絡を入れても繋がらない劉生が、黄昏の元に──?


 桜花はますます心配になってしまったものである。

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